第99話 お爺様の手紙
オークさん達が不安がってザワザワとしたので、カルラ達には村の入り口で止まってもらった。僕はカルラを見て首を傾げる。
「カルラ、どうして?」
カルラは額の生え際を掻いて「イゴール様の指示っす」と苦笑いを浮かべた。
「お爺様の?」
僕の問いかけにカルラは「そうっす」と頷く。
カルラの後ろにはダインさん、それから、トールズと僕が買い取って肥料作りをやってもらっている元冒険者達が数人来ていた。みんなガタイが良いから圧力がすごい。
僕がダインさん達を見て顔をしかめると、今度はダインさんが苦笑いを浮かべた。
「イゴール様がよ。オークは魔力が少ないから魔力に頼らない戦い方を教えてやれって言ってよ。俺はアル様が嫌がるんじゃねぇか、って言ったんだぜ」
「魔力に頼らない戦い方ですか?」
「あぁ、俺らみたいな図体ばかりデカイ奴らにも、それなりの戦い方ってのがあるんだよ」
ダインさんが微笑んで振り返ると、トールズ達がみんな頷きながらニヤニヤ笑う。
それ、みんな強面だから怖いよ?
「あのさ、やっぱり帰ってもらえますか?」
僕が首を傾げると、カルラは「ハァ」とため息を吐いた。
「ダインさん達がくだらない悪ふざけするからっすよ。まったく」
カルラが睨むと、ダインさんはカルラを見て「すまねぇ、ついな」と肩をすくめた後で、再び後ろのトールズを始めとした元冒険者達を見た。
「もちろん戦い方も教えるが、こいつらはみんな農家の出なんだ。イゴール様の指示でオーク達に農業を教えに来た」
「えっ?」
僕が目を見開いてダインさんをそれからトールズ達を見ると、みんな僕を見て頷く。
なるほど、それはありがたいね。だけどさ、オランドさん達は帝国から逃げてきたんだよね。人族を受け入れてくれるかな?
僕がそう思いながら振り返ると、オランドさんが歩いて来ていた。僕らのところまで来たオランドさんは僕を見て頷く。
「大丈夫ですよ、我々はアル様を信じていますから」
「えっ?」
「オドリーに言われたんです。どうせ我々はアル様に出会わなければ、そのうちにのたれ死んでいた。あなたがアル様を信じると決めたのなら私達は最後までアル様を信じようと」
オランドさんについて来て、隣に寄り添うように立ったオドリーさんも頷く。僕はそれに首を傾げた。
「僕は悪い奴かもしれませんよ。皆さんを利用しようとしているのかもしれない」
オドリーさんが「フフッ」と笑う。
「悪い人は自分の事を悪い奴かもしれないなんて言いませんよ。それに利用する人は、こちらの気持ちなど考えずに、これはお前達の為なんだと言います」
オドリーさんは首を傾げた。
「こんなところで立ち止まって迷って、私達の事を心配する人が悪い人な訳ありません」
オドリーさんが優しく微笑むとオランドさんも「そうだな」と頷く。
「もし、アル様が悪い人なら世の中は悪人で溢れ返ってしまうな」
オランドさんとオドリーさんが、頷き合いながら笑い合うので、僕は2人を見ながら苦笑いになった。
これは、期待に応えなきゃね。
そこでカルラが「ちょうど良かったっす」と言い出した。
「オランドさん、オークさん達がこの地に定住する条件を、この地の領主イゴール様より手紙にして頂いてきたっす。こちらを読んで欲しいっす」
そう言ったカルラが差し出した手紙をオランドさんが受け取る。僕は信じられなくてカルラを睨みつけた。
「条件って何? お爺様は困っている人達を受け入れてくれないの?」
カルラが「アル様、落ち着いて欲しいっす」と言うと、オランドさんが「わかります」と頷いた。
「我らは帝国から逃げてきた。王国と帝国の関係を考えれば、この地を任せられた領主として、簡単には受け入れるわけにはいかないでしょうね」
オランドさんはカルラを見ながら数回頷いたが、その頷きがどこか寂しげなので、僕は申し訳ない気持ちになった。
理屈はなんとなく僕にもわかるけど、納得できない。だって、必死に山を越えて来たんだよ。命をかけて逃げて来るほどの理由がオランドさん達にはあったんだ。なのに……。
僕がそう思いながらオランドさんを見ていたら、オランドさんは封を切って、手紙を読み始めた。
そして、すぐに目を見開いて「これでは……」とカルラを見た。
「そうっすね。でも、そこはイゴール様っすから、なにせイゴール様はアル様のお爺様っすからね」
カルラがそう言うと、オランドさんが「はぁ?」と首を傾げながら僕を見た。
「ちょっと待てくれ、アル様はあのイゴール様の孫なのか?」
オランドさんがそう聞くので、僕は「はい」と頷き、カルラは「そうっすよ」と頷き、ダインさんが「そうなんだよな、これが」と笑う。
オランドさんは信じられないと言わんばかりに僕と手紙を交互に見てから苦笑いを浮かべた。
「お孫様がお孫様なら、お爺様もお爺様だな」
そう呟いて、オドリーさんを見る。オドリーさんはそれに首を傾げた。
「なんて書いてあるの?」
「あぁ、アルフレッドの従者になるなら、其方らがこの地に住む事を許し、儂が領主として其方らをいかなる敵からも守ると誓おうと書いてある」
オランドさんがそう言うとオドリーさんは「なにそれ?」と笑う。
「それでは条件と言うよりも……」
「あぁ、そうだな。暗に保護してやると言っているんだ。あのイゴール・グドウィンが」
「えっ?」
オドリーさんが、慌ててオランドさんの腕を掴んだ。
「ちょっと待って、今、イゴール・グドウィンって言ったの? ねぇ?」
「あぁ、そうだ。王国の先代王時代の4強が1人、あのイゴール・グドウィンがこの地の領主でアル様のお爺様だ」
「そんな馬鹿な事って、じゃあ、アル様は」
「そうだな、純粋な人族ではないはずだ」
オランドさんとオドリーさんが僕を見るので、僕は「はい」と頷く。
そうだよね。僕は4分の1、キジョという種族らしいからね。
「ありえないわね。オランド」
「そうだな、俺達はついているにも程がある」
そう言ったオランドさんはもう一度手紙を見て「信じられない事が起きる物だな。世の中は」と呟いて、頭をガシガシと掻いた。
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