第98話 村壁を建てよう

 オランドさんが「どうした?」とオドリーさんに近づくと、オドリーさんはオランドさんを見上げて「オランド、すごいの。その中」とマジックバックを指差した。


 オランドさんは「はぁ?」と言いながらマジックバックの中身を見て「どうなっているんだ?」と呟いてから、僕らを振り返る。


「信じられない事になっているのだが?」

「もしかして、マジックバックは初めてですか? それすごく便利なんですよ。ありえないぐらいいっぱい入るし、時間停止の魔法が付与されていますから、中の物が腐らないんです」


 僕が微笑むとオランドさんは「違う、そうじゃない」と首を振る。


「なぜ、こんな量の食糧をわけてくれるんだ? バックはもう1つあるけど、あっちも同じ量なら、俺達でも数週間は楽に賄える量だぞ」


 オランドさんはそう言って眉間にギュッとシワを寄せた。


「何が目的だ? 何の見返りも考えずに、こんな量の食糧を相手に施す者などいないだろ? それともあれか? お前たちは神の化身か? 悪魔の使者か?」


 それを聞いて僕が「うん?」と首を傾げると、コタロウが、カルラが、アラニャが、笑い出した。


「アル、お節介、ただ、それだけ」

「そんな訳ないだろう?」


 ブランの言葉に、今度はオランドさんが首を傾げて僕を見るので、僕は頷いた。


「お爺様から領地を旅して領民を助けて回るように言われていますから、僕は困っている人達のお手伝いをするだけです」

「いや、我らは領民では……」


 オランドさんが唖然として言い淀むので、カルラは「わかるっすよ」とさらに笑う。


「そこもアル様なんっすよ」

「意味がわからないな。もしかして、これは夢か?」


 オランドさんがそう言ってオドリーさんを見るとオドリーさんがオランドさんの頬をバチンと叩いた。


「どう?」

「いや、痛い。普通に」


 涙目になりながら2人が笑い合うと、周りのオークさん達もみんな笑った。


 気を取り直したオドリーさん達が、食事の準備を始めたので、僕達は少し離れたところでオランドさんとこれからやる事について話し合う事にした。


 もちろん話し合いは僕ではなく、コタロウとオランドさんが話し合う。


 こういうのは僕よりやっぱりコタロウだよね?


 まずはみんなで敷地内の木を切り倒して土地を確保する。僕とブランが木を切って、オークさん達が木の枝打ちをしてから端の邪魔にならないところに運ぶ。


 その間にアラニャの水魔法と、コタロウの土魔法で端から地面の整地するそうだ。


 それが終わったら、村の外周を決めて。アラニャが水魔法で地面を等間隔で柔らかくしたところに、僕とブランとオークさん達が太い木を等間隔に対して水平になるように1箇所につき2本、少し間を空けて並べて差し込んで、コタロウがその木を打ち込んだ地面を土魔法で岩のように固める。


 そして、その等間隔に立ち上がった2本の柱の間に挟むように横に倒した細い木を積み上げて渡して柵を作る。これはあの丈夫な都市壁みたいな村壁の代わりだ。土魔法と水魔法が使える者がたくさんいれば丈夫な村壁も作れなくはないが、今回はコタロウとアラニャしかいないし、そもそも土地が広大すぎる。


 これの柱に魔獣避けの輝石を埋めて呪字と紋様でその効果を高めれば、自分達以外の魔獣は村に近寄らない。さらに四方の柱には認識阻害の効果のある輝石を埋め込んでおけば、村を知らない人には村の存在を認識しにくくなる。


 合わせて硬化の効果のある輝石を埋めてもいいよね?


 そう、その作業を僕らがしている間にカルラにはシュテンさんの村まで行って、罠の製作を依頼すると共に、輝石を取りに行ってもらう。あとはアラネアさんの村で服の製作、さらにはサイモンさんの村によってハロルド達に助っ人を頼む予定だ。


 山脈を越えて来たせいもあるけど、オランドさん達の服はボロボロだからね。それにハロルド達ならすぐに飛んで来れるし、土魔法と水魔法を使える者達が多くいるから、家を建てるのに助かるもんね。


 さっそくカルラが飛んで行くのを見送った後で、オークさん達のお腹が満たされるのを待って、作業を開始した。


 僕とブランが端から木を切り、オークの子供達と女性達が枝打ちをして、その木をオークの男性陣が運ぶ。


 動きは遅いけど、魔法の身体強化を使わずに太い柱を担いで運ぶのだから、オークさん達は本当に力持ちだ。太い腕にギュッと力が入ると隆起する。


 すごいね。


 作業は順調に進んで、カルラもすぐにハロルド達を連れて戻ってきた。僕らが柱を建て始めると、ハロルド達は井戸を掘ったり、建物の建築を始める。


 1週間後、木製の村壁がグルリと一周出来上がった。その間にハロルド達は村の敷地内に家を5棟建てて、井戸も村の中にとりあえず10箇所用意してくれた。


 罠猟の罠も100個ほど届いた。これはすぐにアラニャとコタロウの指導の元、オークさん達が罠の設置を行う。


 ハロルド達には引き続き建物の建築をお願いして、僕とブランは少し遠くまで行ってファングディアとホーンボアの狩りをして、ある程度の肉の確保をする事にした。


 カルラはその間、サマルの街やマルタの街、それから、ルタウの街に飛んでいき。迷惑にならない程度に食材を買って回ったりしてくれている。


 そして、さらに1週間後、僕らが一度狩りを終えてオランドさん達の村に戻った日、カルラがその人達を連れて戻ってきた。

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