第96話 森の中から
森の中を狩りをしながら移動して6日目、だんだんと出会う魔獣がビックラットに偏って来た。
だけど、アラニャの『ブリザード』に対抗して、次に出会ったビックラット達をコタロウが『ウッドピアス』を使って全部串刺しにすると、その次はカルラが『フウァールウインド』で全て巻き込み。そのまた次はブランが『ライトニングスパーク』で地面に雷を走らせて全て感電させた。
あのさ、わかるよ。すごいのは。それに、楽だからいいんだけどさ、みんな狩り終わった後にドヤ顔で僕を見るのやめてくれる? 泣いちゃうよ。僕はそういうの使えないからね。
そして、そんな狩をしながらの旅は続き、少し開けた場所に出た。
足元は他と比べるとずいぶんとなだらかだし、良く見ると朽ちて崩れた木製の建物も見える。傾いたその木には苔が生して、そして、なんとも言えない寂しさを感じる。
ここってさ、明らかに……。
「廃村だね?」
僕がそう聞くと、コタロウはその場にしゃがみ込んだ。
「そうだね。しかも地面が薄らと四角く区切られている名残があるから、農業ってのをしていたみたいだ」
「こんな森の奥に人族の村があったって事?」
「うん、すごい昔の村なんじゃないかな?」
そうか、街道からかなり離れているからおかしいとか思ったけど、もしかしたら大昔はあんな大きな街道はなかったのかも知れないもんね。
そして、しばらくの間、みんなでその周囲を歩きながら確認したけど、かなり広い。
「ここってさ、生えてしまった木とかを切れば、また農業とか酪農とか出来るんじゃないの?」
「うっ、うん、だけどさ。廃村になった理由がわからないと嫌じゃない?」
「えっ?」
僕が驚いて、僕の問いかけに答えたコタロウを見るとカルラが笑う。
「コタロウ、もしかして怖いんっすか?」
「こっ、怖くはない。だけどさ、気持ち悪いだろ?」
「いや、全然気にならないっす」
カルラがさらに笑うと、コタロウがそれに嫌そうな顔をしてから頭を掻く。
「あのな、何か疫病とかで村人全員死んだりとかだったらどうするんだよ」
「それはないっすよ」
カルラがそう言い切るとコタロウは「えっ?」と驚いたようにカルラを見た。
「まだあたしが小さい頃、隣の帝国領に住んでいたんっすけど、その帝国領で人族の村が焼かれた事があったっす」
「焼かれた?」
コタロウが首を傾げて、カルラはそれに頷く。
「疫病が出た村は木の柵で囲われて、その後で火矢が放たれたっす」
「それって……」
「そうっす、研究者や医術師が疫病になる事を恐れて、ろくに原因も探らずに人族は村人ごと村を焼いたっす。ここはさっき確認したっすが、周りには柵の跡も、人族の亡骸もないっす」
カルラがそう言うが、コタロウが首を振る。
「それは帝国の話だろ? 王国ではそんな事ありえないよ。だって、領主のイゴール様だって、公爵のイザベラ様だって、そんな事、許すわけないだろ?」
「そうっすよね……えっ? ちょっと待つっす」
カルラが慌てたので、僕達は首を傾げた。
「確か、アル様の本の中にあったっすよ」
カルラはそう言うと僕のマジックバックをガサゴソとして、一冊の本を取り出した。その本を見てコタロウは「あぁ!」と驚く。
「どうしたの? 2人とも?」
「この本には、王国の歴史が書いてあるっす。その中に、100年ほど前のルタウとタウロを襲った疫病についての記述があったんっす」
カルラは本をめくるとそのページを探す。
「あったっす。ここっす」
そこには挿絵が書かれていた。
これって、ビックラットだね。
「100年前に疫病の原因がビックラットの肉である事を探り当てた医師ルターとタローの話が載っているっす。2人は自分が疫病になるかも知れない恐怖と闘いながら、人々の治療を続けて、ついにその原因を探り当てたっす」
「その功績を讃えて、疫病から救われた街の名をルタウとタウロにしたらしいんだ」
2人がそう言うので僕は「つまり、ここは?」と聞いた。
「そうだね。疫病の原因がわかる前に廃村になった村だろうね」
「みんな死んでしまったって事?」
「いや、逃げた可能性もあるよ。疫病が出たら基本的には移動はしないほうがいいけど、出来れば逃げ出したいよね?」
僕が「でも、それって……」と言い淀むと、コタロウは頷く。
「そうだね、広げてしまう。もしかしたらこの村から始まって、ルタウとタウロに広がったのかも知れない」
コタロウはそう言うと、眉間にシワを寄せた。
その後で僕達はなるべく木のないところにビックラットの肉を全て出した。そして、火をかける。
疫病にはなりたくないからね。もったいない気もするけど、仕方がないから全て燃やしてしまおう。
そう思いながらそれを見ていたらブランが周囲をキョロキョロとした。
うん? 魔獣の群れだね。1人1人の魔力は弱いけど、かなりの数だ。
「嗅いだことない匂い。知らない、魔獣」
ブランがそう言うと、ひょっこりとその子は顔を出した。二足歩行だけど、その顔はホーンボアに似ている。
「オークの子供かな? 王国では珍しいね」
コタロウがそう言うので、僕は「そうなの?」と首を傾げる。
「あのさ、アル兄ちゃん。今更だけどさ、オークは帝国領では多く見られるって図鑑に書いてあったろ?」
今度はコタロウが首を傾げると、アラニャが「フフッ」と笑った。
「そのオークが王国領に1000人近くいますよ」
アラニャがそう言うと、飛び出した子供を捕まえるように女性のオークが森から出てくる。そして、その後に続くように次から次とオーク達がその姿を表した。
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