第95話 奴隷印
キースさん達と改めて挨拶を交わして、握手をした後で館を出た。
うん、最後はみんなで笑い合えたからいいね。
その足で市場によって食材の買い物をする。食材はマジックバックの中にいっぱいあるが、この先も何があるのか、わからない。
なにせ、世の中には食べ物に困っている魔獣もいるし、いつそういう人達に出会うのかもわからない。
だから、食材は多めに持っていた方がいいよね?
それに、ここの市場のお姉さん達とも顔見知りになったから、挨拶もしておきたかった。
なるべくサマルの街やマルタの街でも買うようにしていたが、ルタウの街に来る度にいつも大量の野菜とパン、甘味をあるだけ買わせてもらった。
かなりお世話になったからね。
だけど、残念ながら野菜を売っている一番馴染みのお姉さんはいなかった。
でもまあ。またルタウの街に立ち寄った際に、顔を出せばいいね。
市場を出て門に向かって歩いて、一度振り返ると湖がキラキラと綺麗に日の光を返してくれた。
もうこの街にズルする貴族はいない。魚型の魔獣もサイモンさん達の手でそのうち湖に戻るし、それまでの漁師さん達の仕事も見つかった。
街を良くしようとキースさんも、エミリアさんも、それからダインさんも張り切っている。
ルタウの街は、もう大丈夫だよね?
僕がそう思いながら門まで来ると、人だかりが出来ていた。
「何かあったのかな?」
「どうっすかね?」
僕が聞いてカルラが答えたが、人だかりの人々は僕らを見ると、歓声をあげた。
「アルフレッド様、ありがとうございました」とか「アルフレッド様、また来てくださいね」とか「魚型の魔獣が戻ったらとびきりの魚料理をご馳走します」とか言っている。
うん?
その人だかりの中から、あの宿屋の主人が出てきた。
「まったく、街を救ってくださった方々が旅立つのに見送りの1つもしないなんて、キース様はまだまだですね」
「おじさん?」
「アルフレッド様、お世話になりました。ちょっと声かけたらこの通りたくさんの住民が集まりましてね。みんな魚型の魔獣が減って生活が苦しくなっていたところをアルフレッド様からの補助金で食い繋ぐことが出来た連中です」
宿屋の主人がそう言うので、僕は「そうなのですね」と頷きながら、その人達を見た。商人みたいな男の人、子供を抱えた母親、寄り添う若いカップルもいる。
「キース様に、漁師だけではなく、この街で困っている人達にあげてくれとアルフレッド様が言ってくださったおかげです」
「魚型の魔獣が減って苦しいのは、何も漁師だけじゃないもの」
「アルフレッド様から頂いた補助金で、私達は結婚出来ました」
人だかりの人達が口々にそう言うので、僕はそれに頷く。
「そうですか、良かったです。街のみんなで幸せになって下さいね」
「「ありがとうございます」」
そう言って頷いてくれるみんなは、とても明るい笑顔だからこちらまで嬉しくなる。
「アルフレッド様が始められた肥料の事業の売り上げからも補助が出ると噂が立っていて、このところタウロの街で生活に困った連中もこちらへの移住を検討しているらしいですよ」
「そうなのですか? タウロの街の人達は耳が早いのですね」
「あぁ、市場の連中ですよ。奴らはあちらこちらから来てますから」
僕は「なるほど」と頷く。
だけど、やっぱりタウロの街にも、生活に困っている人達がいるんだね。行ってみないとわからないけど、少し改善のお手伝いが出来たら良いなと思う。
そうして僕らは宿屋の主人を始めとしたルタウの街の人達に見送られて街を出た。
しばらく歩いて振り返ると、まだみんな門のところにいて手を振ってくれている。僕はそれに大きく振り返した。
うん、またいつか戻って来よう。
次にメイジー達の村にも顔を出して、コタロウが3人にキースさん達の話を受けるように進めた。
確かにメイジーもトールズもポプキンズも、ここで燻っているのはもったいない。特に身体強化を覚えたので、トールズとポプキンズの2人はかなり強くなったらしいから、キースさんを守ってもらおう。
それに、他のみんなも漁師さん達にここの仕事を引き継げたら、希望者は冒険者に戻しても良いと思う。
まあその辺の事もキースさん達次第だ。任せたもんね。
僕がそんな風に思いながら4人を見ていたら、メイジーが一度戸惑うような顔をした後で、こちらに歩いて来た。そして、僕の顔を覗き込む。
「それでアル様、言いにくいのですが、私達に、えっと、奴隷印は入れないのですか?」
「うん? メイジーは入れて欲しいの? 入れると魔法使えなくなるんでしょ?」
僕がメイジーの質問にそう答えるとメイジーは唖然とした顔で僕を見た。周りで聞こえていた人達も驚いた顔をしている。
「みんな作業をするのに身体強化は必要だし、トールズもポプキンズも護衛なら尚更、メイジーだって秘書になるならルタウの街で暮らすんでしょ? 魔法が使えない状態で襲われたら困るよ?」
「しかし、私達は奴隷です。その、普通は、奴隷印を入れるものです」
「うん、僕が買ったから入れるのも、入れないのも、僕の自由だとエミリアさんから聞いているよ。みんなは印なんて無くてもちゃんと働いてくれるでしょ?」
僕が首を傾げると周りから響めきが起きた。メイジーは真っ直ぐに僕を見る。
「なぜ、私達を信じてくれるのですか? 私はあなたを……」
「僕には難しい事はわからないよ。だけど、人を信じたいんだ。初めから悪い人なんていないだろ?」
僕が首を傾げるとメイジーは困ったようにカルラを見た。
「メイジー、きちんとした環境でチャンスさえあれば、人は頑張れるっす。それに恵まれていると思えれば、人は悪い事なんて考えないはずっす。アル様はチャンスを与えてくださったっす。それを生かすも殺すもみんな次第っすよ」
カルラの言葉にメイジーが泣き出すと、ブランが「アル、甘い、いつもの事」と頷いて、アラニャは「そうですね。でもそこがアル様のいいところです」とそれに同意した。
えっと? 2人とも褒めてくれているんだよね?
メイジーはカルラに受け止められて泣きながら「アル様のご期待に応えてみせます」と笑った。
みんなに送り出されてメイジー達の村を後にする。
きっとみんななら大丈夫だよね?
そして、僕たちはいつも通りに街道を外れて森に入った。やっぱりせっかくだし、いつも通り森の中を狩りをしながら進む。
もうこれが僕達の旅のスタイルだからね。
初めはファングディア、ホーンボア。そして、僕達の足で2日ほど進むと、ビックラットと呼ばれる鼠型の魔獣も出た。
こいつらは名前の通り鼠型の中では大きい。だけど、やっぱりラットだから集団で出て来る。そして、逃げ足が速い。
でも、残念ながら僕達の方が速い。ブランに追いかけられて、僕に回り込まれて、カルラの『ゲイル』で吹き飛ばされて、コタロウの『ヴァイン』に絡め取られて、最後はアラニャの『ブリザード』で全て凍りついた。
あのさ、ビックラットの周囲の木々までみんな凍りついたよ。アラニャは元々強すぎたけどさ。確かダッキの使ってた技だよね? やばいよ、それ?
狩り終えたビックラットはいつも通り素早く解体をしたが、ラットの肉は基本に食べられないので別にしておく。コタロウが言うには図鑑に「食べるな」と書いてあるそうだ。
「アル兄ちゃんはいつも図鑑読んでいるけどさ、どこを読んでいるの?」とコタロウは首を傾げたが、僕に聞かれても困る。
だって、全部読んでいるよ。
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