第80話 ダイン
コタロウとアラニャが先に戻って来て、カルラとブランがエミリアさん達を連れて村に着くと、連れて来られたメイジー達は腰を抜かしたように座り込んだ。
「どうやったのですか? ここにこんな街はなかったはず……」
「うん? メイジー達が住む村を造ったんだよ?」
「むっ、村ですか? しかもこれを造った?」
メイジーは目を見開いたが、その後ろでエミリアさんは頭を抱えた。
「本当に3日でこれを造るなんて、色々問題がありますね」
そう言ってエミリアさんは笑うと、メイジー達はもちろん、自分の連れて来た使用人達にもきつく口止めをした。
よく考えずにやっちゃったけど、奴隷達は勝手に話せないし、エミリアさんとその使用人なら大丈夫だよね?
僕がそんなふうに思っていると、口止めを終えたエミリアさんが僕を見て、ニッコリ笑った。
「アル様、見てまわってもよろしいですか?」
「はい、エミリアさん」
僕が頷くとエミリアさん達は食堂から順番に建物を見て回った。
各部屋に家具はまだ入っていない。せっかくなので、家具や日用品など生活に必要な物はエミリアさんに任せる事にした。
簡単な家具ならガジルさんが送ってくれた図面もあるし、サハギンさん達でも作れるけど。土地も建物もこちらで用意したから、エミリアさんの稼ぐところがない。
なので、エミリアさんに少し稼いでもらおうね。
「どれも立派なので、家具は後から入れれば良いですし、明日からでも働けそうですね?」
「いや、家具や日用品が揃ってからで良いですよ」
「あの、アル様。メイジー達はあくまでも奴隷なのですから、そんなに気を使われなくても良いんです。贅沢にも数人で使う綺麗な部屋も与えられるのですから、あとは毛布だけ与えれば充分ですよ」
エミリアさんが僕に笑いかけると、メイジー達の中の1人の男が「ヘッ」と笑った。
「良い気なものだな、そうやって上から目線で優しくしてやるのは、さぞ気持ちが良いんだろうな」
男がそう言った瞬間にエミリアさんの連れて来た使用人がその男を殴った。男は派手に吹っ飛ばされる。
「くだらねぇこと言ってんじゃねぇよ。他に文句がある奴はいるか?」
使用人がメイジー達を見まわすが、誰も何も言わないで首を横に振っている。それを確認した使用人が「文句がある奴は今のうちに言えよ」と言った後で、殴り飛ばした男を見下ろす。
「アルフレッド様の温情が分からねぇ奴は他のところに売る。勝手に辛い思いしやがれ」
殴られた男は「待ってくれよ」とかなんとか言ったけど、待つはずもなくエミリアさんの指示で他の使用人に連れられて馬車に戻された。
殴った使用人は僕を見て「ニカッ」と笑う。
「それにしてもエミリアに聞いていたが、アルフレッド様は、さすがはアンジェの子供だな」
「えっと、母さんを知っているのですか?」
「あぁ、良く知ってるぜ。昔、バッシュとアンジェには世話になった」
使用人の男の人に、エミリアさんが並び立つ。
「あんた、言葉使いなんとかならないの? アル様にしつれいだよ」
「あぁ、そうだな。アルフレッド様、すまねぇ」
使用人の男の人は頭を下げて「俺はダインって言います」と頭を掻いた。
「そうですか、言葉遣いは気になさらずに、それからアルで良いですよ。ダインさん」
「アル様、ありがてぇ。堅苦しい言葉は苦手なんだ」
僕とダインさんが笑顔で握手をかわすと、エミリアさんがため息を吐いた。
「だから連れて来たくなかったのよ。どうしてもって言うから連れて来たのに、シャンとしてよね」
「しょうがねぇだろ、エミリア。恩人の子供なんだ。普通どんな奴か見てみたいじゃねぇか?」
「だからって……」
うん?
「2人はもしかして、ご夫婦ですか?」
僕が首を傾げるとエミリアさんは目を見開いて驚いて、ダインさんが「ガハハ」と笑い出した。
「さすが、血は争えねぇな、野生の勘か?」
「なんか、エミリアさんがいつもと違うので」
僕が言うと「そうだ、俺達は夫婦だ」と二人は頷く。
「俺も昔は冒険者だったんだよ。その時に、アンジェとバッシュに世話になってな」
「そうだったんですね」
「あぁ、今は冒険者は引退して、こうして綺麗な幼なじみと結婚して、商会の用心棒って訳だ」
ダインさんが再び「ガハハ」と笑う。
「どうだ? 1つ手合わせして見ねぇか?」
「ちょっとあんた、何言ってんの?」
エミリアさんが慌てたが、全くその通りなので、僕も苦笑いを浮かべた。
「いや、僕なんてダインさんの相手になりませんよ」
うん、ダインさんは来た時からずっと気配を消している。という事は、もちろん世界の3割に入っているんだ。
そして、母さんとバッシュさんの昔の仲間で、なんとも言えない雰囲気を持っている。豪快さが目立つけど、違う。この人いい加減じゃない。
それに鍛え上げられて引き締まった筋肉もすごいし、見るからに強そうだよ。
だけど、僕の返事にダインさんは、あからさまに肩を落とした。
「なんだ、つまらねぇな。だけど、もし手合わせしてくれたら、アンジェの『マイ』を教えてやるぜ?」
「『マイ』ですか?」
僕は首を傾げる。
「あぁ、アンジェの母親は踊り子なんだ。それでアンジェは『マイ』と呼ばれる変わった技を使っていた。俺は『始まりのマイ』と呼ばれる『エンライ』しか出来ねぇが、手合わせしてくれたら教えてやるぜ」
「本当ですか?」
「あぁ、俺は口では教えられねぇから使って見せてやるよ」
それは是非にでも知りたい。母さんの技なら見てみたいし、使えるようになりたいよね?
なので、僕もここは迷わずに「よろしくお願いします」と頭を下げた。
エミリアさんはそれでも少し止めようとしてくれたけど、たぶん僕の気持ちを汲んでくれたんだね。その後はキュッと口をつぐんだ。
それから村の外の砂浜に来た。
他に開けた場所が他になかったからね。でも足場が悪いのに大丈夫かな?
僕が足元を見ると、ダインさんは笑った。
「足場を気にしているのか?」
「はい」
「関係ねぇよ、そんなもん」
ダインさんはそう言うと魔力を解放した。
ブワッと濃厚な魔力が僕の方まで伸びて来て、一気に僕の周囲の熱量が上がった気がする。
やはり、凄い魔力量だ。ギュッと上から体をおさつけられられる様なプレッシャーを感じる。
僕も魔力を解放した。
ダインさんは一瞬驚いた顔をした後で「へぇ」と頷いた。
そして、ダインさんが構えて僕も構えると、ダインさんは大きな体で軽やかな足取りのステップを踏み始めた。
「それじゃ、いくぜ、エンライ!」
ダインさんが、そう言うと砂の上を踊るような足捌きで僕に向かって来た。
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