第79話 新たな進化と新しい村

 カルラと2人でルタウの街のコルバス商会に着くと、すぐにエミリアさんが迎えてくれて、いつもの部屋に通される。


 従業員のお姉さんが、テーブルにお茶を出してくれて、部屋から出て行くと、エミリアさんは笑顔で話を始めた。


 どうやらメイジー達は、僕らの提案に泣いて喜んだそうだ。


 良かったね。


 その後で湖の話を聞いたエミリアさんは「本当なら、その辺りを切り拓いて建物を建てて、奴隷達はそこで暮らした方が良いですけどね」と言い出した。


 今のところ、僕がルタウの街をウロウロしているからみんなやらないけど、僕が居なくなれば、奴隷達が逆らえないからとひどい事をする者が出てくるかも知れないと言う。


「でも、街の外ならなおさら、ろくなのが来ない気がするっすけど?」

「うん、カルラちゃんの言う通りだけど、きちんと商会の敷地をはっきりとさせて、そこに侵入してきた者を撃退するって名目なら奴隷達も抵抗できるのよ。それに、アル様の商会の敷地って事を周知すれば、よっぽどの馬鹿じゃない限り手は出さないと思うわよ」


 うーん、だとするなら、小さな村を造るか?


 サイモンさん達を動員すれば、建物もそんなに多く必要ないし、とりあえずの物なら数日で造れなくないんじゃない?


「エミリアさん、井戸ってすぐに掘れる物ですか?」

「はい、土魔法を使えばすぐに造れますよ」

「そうですか、では数日頂けますか? とりあえず村を造ってみますので」


 僕が笑うとエミリアさんは「はっ?」と首を傾げた。そして、カルラを見て「カルラちゃん?」と助けを求めた。


「エミリアさん、アル様を普通の尺度で測っても無理っすよ。とりあえずこちらで村を用意するっすから、数日後に下見に来れるように手配をお願いするっす」


 カルラがそう言って笑うと、エミリアさんは頭を抱えた。


 とりあえず数日後に下見に来てもらう約束をして、教会で魔石と肉を浄化してもらってから僕とカルラはサイモンさんの村に帰る。


 小さい子達が「アル様、おかえり」と迎えてくれるので、その頭を「ただいま」となでて、ルタウの街で買い込んだ甘味の袋を渡した「わーい」と食堂に走っていく。


 どの村でも種族が変わってもこの光景は変わらない。


「可愛いっすね」

「そうだね」


 カルラの言葉に僕は首肯した後で、サイモンさんにまずは改めてマリッサの事をお願いした。


 もちろん「お任せください」と、こころよく受け入れてくれたので、僕は「ありがとうございます」と頭を下げる。


 サイモンさんに任せれば大丈夫だね。


 次に隣の湖に造る村の話をした。


 サイモンさんは土魔法と水魔法が使えるサハギンさん達を全て回してくれるそうで、コタロウの話だと「たぶん2日もあれば出来る」との事だ。


 思ったよりも早いね。


 なので、そちらの指揮はサイモンさんとコタロウに任せる事になった。


 そこから集会所では、サイモンさんとコタロウ、それから土魔法と水魔法が得意なメンバーで、熱のこもった話し合いは続いて、肥料は熱を持つので、建物は基本的に全て土魔法で造るという事になった。


 うん? 話を聞いてない? 聞いてるよ、全然分かんないけど。


 僕も端の方の席にちょこんと座り、みんなが話しているのを聞いていた。ちなみにカルラは、鳥型魔獣の姿に戻って、僕の肩に頭を乗せて欠伸をしている。


 しばらくして、話し合いは終わり、明日、すぐに現地に行く事になった。


 みんなやる気だから大丈夫だね。


 そして、浄化して来た闇落ちしたレイブンの魔石をハロルド達に少し食べてもらう。


 まずは進化を考えて、いつも通り男性と女性に分かれてもらった。水着も用意してそれぞれサハギンさん達に着用の指導を任せた。


 準備万端でハロルドが魔石を食べると、もちろん予想通りに進化した。


 人族の姿に羽の生えたレイブン、肌は肌色で羽根の色はそれぞれの属性に合わせた色になった。もちろん体にあの柄も入っている。髪も属性に合っているけど一房だけ黒い。


 カッコいいね。


 ちなみに、カルラも浄化して来た闇落ちレイブンの魔石を食べたら進化した。


 やっぱり人族の姿に羽の生えたレイブン?


 違う。確かにカルラは白い肌に緑色でコタロウ達と同じ柄が入った。スタイルも人化はスレンダーだったけど、今は出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでいる。そして、髪も緑。


 だけど、進化したハロルド達ともあの闇落ちしたレイブンとも進化が違う。その背中に羽がないのだ。見た目はまるで人族だった。


 僕が唖然として見ていると、珍しく心配そうな顔で僕を見たカルラが上目遣いで「どうっすか?」と首を傾げるので「うん、すごく可愛い」と僕は首肯して笑う。


 何故かカルラは破顔して、泣きながら僕に抱きついた。アラニャは隣で静かにその頭をなでる。しばらくそれが続いたが、ブランが「羨ましい」と小さくポツリと言った。


 後日様子を見に来たカルラの舎弟が言うには他のグリュゲル達は鳥型の魔獣の姿に柄が入っただけらしい「いきなりだったから驚いたっすよ」っと言っていた。


 しかも、まだ人化出来なかった者達も人化出来る様になったそうだ。出来ない者は、そのほとんど子供達だったそうだけど、小さな子までみんなが出来る様になったそうで、どうやらグリュゲル達はまた種族として、かなり強くなったらしい。


 やっぱり進化で強くなったんだね。


 だけど、危なかった。飛んでいる時にいきなりカルラみたいに人族に近い姿になっていたらと思ったら肝が冷えた。進化しそうな事はやっぱり確認してから行った方が良いね。


 ちなみに、カルラは1人だけ人族と変わらない姿になったけど、獣化で鳥型の魔獣の姿になれる。つまり空を飛べる。


 ブランじゃないけど、羨ましいね。


 あとはマリッサにも浄化して来たあの闇落ちした魚型の魔獣の肉と魔石を食べてもらったらやっぱり変化した。


 もしかしたら人族に近い姿になるの?


 って思っていたが、姿はマーメイドのままで、こちらも体に柄が入った。


 この辺の進化のさじ加減が、本当に謎だよね? でもまた強くなったと思うから、まあいいね。


 マリッサの面倒は基本的にサハギンさん達が見ている。身体強化の魔法も、サーシャが教えた。コタロウが教えようとしたみたいだけど、なぜか? サーシャが嫌な顔をして、カルラとアラニャに止められていた。


 まあ、よくわかんないけど、無事にマリッサが身体強化の魔法を使えるようになったから、細かい事は良いね。


 翌日、僕らは再びマリッサの湖に戻ってきた。まずは少し森に入った高台の木を切り拓いた。その木を使って高台の土を補強する。


 そして、土魔法を使って壁で囲んだ。この間にカルラにシュテンさん達の村まで行ってもらって魔獣避けの輝石をもらって来てもらう。


 カルラの獣化は鳥型の魔獣の姿だけど、前のエレメントバードから少し変わって、なんか細っそりとしてさらに綺麗でかっこよくなり、飛ぶ速さがさらに増したそうなので、すぐに戻って来た。


 なんか少し恥ずかしそうだから、きっとアズミさんあたりに褒められたのだろう。


 壁に紋様が刻まれて輝石が埋め込まれた立派な村壁が出来て、その後で、ここにも温泉が沸いていたのでそこに男女に分かれた大浴場を造った。


 1日目はここまでで、2日目は大浴場の近くに大きな寮を2棟建てて、それから大きな食堂兼集会場、さらに3日目に肥料を作る小屋を10棟ほど建てた。


「サイモンさん、良さそうですね」

「はい、アル様。後は建物の外にも2箇所ぐらい井戸を掘っておきましょうか?」

「そうですね、よろしくお願いします」


 最後に井戸を2箇所掘って水場を造ると、コタロウとアラニャにサイモンさん達を送ってもらって、カルラとブランにエミリアさん達を呼びに行ってもらった。


 今回、僕はお留守番だ。なにも来ないと思うけど、見張りも必要だよね?

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