第77話 レイブン
ハロルド達が元いた湖は、ルタウの湖よりかなり小さい。そして、ものすごい量の水草が生えていて、なんか臭いね。
僕達が湖を眺めていたら、湖の中央の水がせり上がり湖面より巨体が現れた。跳ね上がり水を撒き散らしながら再び激しい音を立てながら湖に戻る。広く波紋のような波が生まれて岸に寄った。
だけどさ、飛び跳ねた巨大な魚型の魔獣は傷だらけだったよね? えっと?
「アル様、あの子、襲われているっす」
「分かった、カルラは誘導して、アラニャは襲っている対象との隔離を、コタロウとブランと僕で襲っている奴らを倒す」
僕がそう言うと、みんなは返事を返しながら素早く動く。カルラが飛んで行ったのを見届けて、僕は湖に飛び込んだ。
水草で視界が悪い。
だけど見えた。
小さな魚型の魔獣が集団で巨大魚を襲っている。しかも闇落ちとか少し形が違うやつとか含まれているね。
僕は魔力を全身に流して身体強化して、泳ぎながらナイフを使ってその小さな魚型の魔獣を倒していく。
少し遠くでブランの『ディスチャージ』とコタロウの「ライトニングボール」がスパークした。小さな魚型の魔獣が水面に浮かび上がっているのが見える。
僕もまとう雷を強くして見た。僕に近づいた魚型の魔獣が水面に浮かぶ。
単体はかなり弱い。だけど、量が多いね。
カルラの誘導とアラニャの網で、どうやら巨大魚をうまく隔離できたようだ。アラニャの網に雷が流されて、小さな魚型の魔獣が次々に湖面に浮かび上がる。
逃げ回る小型の魚をブランとコタロウと僕の3人で端から倒して行くがチョロチョロと逃げ回るし、水草が邪魔だ。
うん、これは大変だね。
「アラニャ、巨大魚さんを空に避難させられる?」
僕が湖面から顔を出して湖の上に浮かんで居るアラニャを見上げると、アラニャは良い笑顔をして「はい」と返事をした。
「カルラが巨大魚さんの許可を取って大丈夫なら引き上げた後で、湖全体にみんなで雷を流してくれる?」
と言う事で巨大魚さんが空に浮かんで、僕らが岸に上がると湖には雷が流された。次々に小さな魚型の魔獣が浮かぶ。あらかた浮かんだので、巨大魚さんにポーションをかけてから湖に戻した。
カルラが許可を出して、巨大魚さんには浮かんだ魚型の魔獣を闇落ちを避けながら食べてもらった。どうやらお腹が空いていたようで、嬉しそうだ。
僕達は、とりあえず闇落ちをマジックバックに集めておこうか?
「相変わらずの偽善で、ヘドが出そうだ」
そいつは高速で飛んできて、僕らを見下ろしながらそう吐き捨てた。湖の上で羽をバサバサとさせながら静止している。身体は人族に似た姿だけど、その背には羽が生えている。
図鑑で見たことがあるけど、図鑑とは明らかに色が違う。図鑑のレイブンは肌色の肌をした人族に近い姿で緑の羽が生えていたのだが、そいつは、体も羽も全体的に黒い。
「アル兄ちゃん、あれって、レイブンだよね?」
「うん、そうだと思うけど」
「闇落ちしているせいか、黒いね」
僕とコタロウがレイブンを見上げると、そいつはこちらを見下ろしながらヘラヘラと笑う。
「分からないよな? 俺は仲間を全て食べて進化したんだ」
レイブンがそう言ってまだヘラヘラしているので、僕は眉間にシワを寄せた。
だってさ、思い当たりがあるけど認めたくないよね?
彼は追い出されたハンサ達の成れの果て、僕が救えなかった者なのだから。
「お前達は小さな魚型の魔獣を全て倒して、巨大魚を助けたが、本当に小さな魚型の魔獣の方が悪かったのか?」
レイブンは楽しげに首を傾げたけど、僕は「そんなの知らないよ」と答えた。話していないのだから、僕に彼らの事情は分からない。
レイブンは「なっ!」と目を見開いた。
「お前は馬鹿なのか? 巨大魚が悪人かも知れないじゃないか? それにこのあとはどうするつもりだ? この湖にはもう魚はいない、巨大魚もあの湖に連れて行くのか? 巨大魚がお前の仲間を害するかも知れないぜ」
レイブンが楽しそうにいろいろ聞いて来たけど、分からないので、僕は「これから考える」と答えた。レイブンが「フン」と鼻で笑う。
「そうやって後先考えずに一時だけ助けて、後で見捨てるつもりなのか?」
僕は「それのどこが悪いの?」と首を傾げると、レイブンは苦々しく顔をゆがめる。
「救われたと思ったのに、追い出された俺達の気持ちなんて分からないよな?」
レイブンは俯きながら拳を握るので、僕は「そうだね」と首肯した。
「結局食べる物もなく、仲間を殺して食べた俺の気持ちはお前なんかには分からない」
「ごめんね、僕には君の気持ちは分からないよ。でも救われたと思ったのに、なぜハロルドに従えなかったの?」
「あいつは親達を殺したお前達にヘラヘラ従いやがって、あんな奴の言う事に従える訳ないだろ?」
僕は再び首を傾げた。
だって、言っている事が理解できない。
僕が戸惑っているとコタロウが笑った。
「アル兄ちゃんが気に病むことはないよ。残念ながら世の中には手を差し伸べてもその手を取らない者がいるんだ。だから、その者達が不幸になったとしてもそれはアル兄ちゃんのせいではないよ」
コタロウはそう言うと僕の肩に手を置く。そこでコタロウとは反対側に降りて来たカルラが人化して、優しい表情になると「そうっす、アル様はアル様を信じた者達の幸せを考えれば良いんすよ」と頷いた。
「残念だけど、お前達はここで終わりだ。仲間達の無念を晴らさせてもらうぞ」
そう言ったレイブンが直線的に降りて来たが、アラニャの糸に阻まれる。しかし、闇が糸を侵食する。
「アラニャ、糸を切って!」
僕の呼び掛けにアラニャは「はい」と糸を切り離した。僕は加速して降りてくるレイブンを迎え撃つように構えた。体にまとう雷を増やして、レイブンの切りつけを受け止める。
レイブンも僕が受け止めた瞬間に、すぐに翻って空に戻る。レイブンのいた場所を「ライトニングボルト」が通過して行ったからだ。どうやらカルラが射って来るのを予想していたのようだ。
レイブンは上空で止まるとこちらを見下ろしながらニヤニヤしたのだが、そこにコタロウの『ライトニング』が降りて来て直撃した。
いや、レイブンが闇をまとった左手で、コタロウの『ライトニング』を受け止めた。余裕たっぷりな表情で「終わりか?」と笑う。
カルラが人化を解いて、飛びあがろうとするのを「カルラ!」っと言って止める。
そこでレイブンが羽ばたいて、闇をまとったフェザーが飛んで来た。僕らはみんなそれを避けだが、フェザーは地面に突き刺さって闇を周囲に撒いた。
ブランがすかさず『ディスチャージ』で、そのフェザーを蹴散らす。
うん、飛ばれて距離を取られると僕は何も出来ない。厄介だね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます