第76話 水草

 ハロルド達もサイモンさん達の村に馴染んで来た。


 みんな積極的にサイモンさん達のお手伝いをしているし、湖を飛びながら巡回して、魚型の魔獣を捕獲して来ては養殖場に入れてくれる。おかげでまた魚型の魔獣が増えた。


 これは助かるね。


 そして、サイモンさん達のタートルの討伐も、もう少しと言うところまで来たので、このところは探す方が大変なのだそうだ。でも、そこはホワイトタートルのタロンが活躍しているらしい。


 しかもホワイトタートルはあれから他に3人見つかって、今はタロンがその子達の面倒を見ているそうだ。


 初めは3人ともひどく衰弱して怯えていたそうだが、数日ですっかりサイモンさん達にも馴染んで、見た目もタロンと変わらなくなった。こちらの3人も先輩のタロンに任せておけば心配はない。良かったね。


 それから、村の近くの養殖場でタートルの養殖も始まった。討伐の際にまだ小さなタートルは倒さずに、養殖場に入れてファングディアの肉を与えて飼育している。


 正直を言えば少し心配だけど、サイモンさん達も強くなったから、大丈夫だよね? それに村の事は、サイモンさん達が好きなようにやってもらいたいよね? なので、サイモンさん達に任せようと思う。


 その間、僕達は変わらず狩りに行って、ホーンボアやファングディアを狩って来たり、ハロルド達が暮らす小屋を建てたり、養殖場の増築を行なったり、たまにルタウの街の様子を見に行ったりした。


 ルタウの街もキースさんとエミリアさんが協力して順調に行っている様だし、サイモンさん達の村も心配なさそうなので、残りのタートルの討伐はサイモンさん達に任せて、僕達はハロルド達が元いた湖の様子を見に行くことにした。


 あちらでも魚型の魔獣が激減している理由を探る必要があるからね。と言う事でまずはハロルドに話を聞いた。もちろんカルラがだけどね。


 ハロルドの話だと、どうやら湖に住んでいる巨大な魚型の魔獣が原因らしい。


「魚型の魔獣は基本的には水草を食べるっすけど、そいつは他の魚型の魔獣を食べるから数が減ったみたいっす」

「そいつ1匹で他の魚型の魔獣をみんな食べたって事?」

「いや、そいつが魚型の魔獣を減らした事で魚型の魔獣が食べていた湖の水草が増えて、水草が増えたせいでどうやら水の中の酸素が減って、魚型の魔獣がさらに減ったみたいっす」

「そっ、そうなんだ」


 僕がカルラから視線を外すと、カルラは少し笑って僕の顔を覗き込んだ。


「アル様は難しい事は気にしなくて大丈夫っす。その巨大な魚型の魔獣を倒して、あとは水草をなんとかすれば良いみたいっすね」

「うん、水草かぁ。何かに使えないかな?」


 なので、ハロルド達のいた湖に行く前に、ルタウの街に行ってエミリアさんに相談する事にした。いつも通りにコルバス商会ルタウ支部に向かうとエミリアさんが笑顔で迎えてくれた。


「アル様、今日はどうされましたか?」

「うん、近くの他の湖でも魚型の魔獣が減っているみたいなので、見に行こうと思うのですが、エミリアさんに水草の使い道を聞こうと思いまして寄りました」

「水草ですか? 水草とその湖の魚型の魔獣が減った事に何か関係があるのですか?」


 エミリアさんが首を傾げて、それにカルラが村で僕に教えてくれた話を説明した。


「なるほど、つまりはルタウの湖でも水草が増えているかも知れないと言うことですね?」


 エミリアさんにそう言われて、僕達は「あっ!」と声を上げた。


 確かに増えているのかも知れないね。


 僕らの様子を見ていたエミリアさんは小さくため息をついた後で、すぐに部下に指示して調べさせた。それから顎に手を当てる。


「水草の使用方法はいくつか思い浮かびますが大量に消費するなら、土と混ぜて肥料にするのが良いかも知れませんね」

「肥料ですか?」

「はい、野菜を栽培するのに使います。隣街のタウロの街は野菜の栽培で生計を立てている街なので、こちらで良い肥料が作れれば喜んで買ってくれると思います」

「誰か作ってくれそうな人達はいますか?」

「はい、あの奴隷達を使いましょう」


 エミリアさんがとても良い笑顔をすると、カルラも「そうですね」と首肯した。


 うん?


「あの、アル様。もしかして忘れてないですよね?」

「奴隷ですか? 知りませんけど?」

「いや、アル様達を襲った馬鹿な冒険者達ですよ」


 僕が「あぁ」と言うと、エミリアさんは呆れ顔になった。


「あのままだとメイジー達は何処かの気持ち悪い金持ちに買われてひどい目にあうでしょうから、この提案に飛びつくと思いますよ」

「そうですか、ではそれはエミリアさんにお任せします」

「それでは、アル様が買い取って従業員として肥料を作らせると言う事でよろしいですか?」


 エミリアさんが首を傾げるので、僕は「はい」と返事を返した。


 とりあえず奴隷達を買うお金と、土地を買ったり建物を建てたりするお金は水着などの売り上げから出すとエミリアさんは言ったが、それで足りないと困るので布袋を渡した。


 エミリアさんは布袋の中身を確認した後で目頭を抑えた。


「アル様、多過ぎますよ。贅を尽くした屋敷でも建てる気ですか?」

「そうですね。大きな食堂と男女の大浴場がついた寮を建ててあげて下さい。作業着もしっかりとした物を、それから肥料を作る小屋も綺麗にお願いします」

「えっと?」

「僕はアルフレッド・グドウィン、領主の孫ですから、従業員を粗末に扱えません」


 僕がニッコリと笑うと、エミリアさんは「かしこまりました」と頭を下げた。


 すぐにそちらはキースさんと相談してエミリアさんが進めてくれると言う事になったのでお任せして、僕らはハロルド達が元いた湖に行く事にした。


 まずはその巨大な魚型の魔獣を倒さないと行けないからね。

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