第75話 重い決断
みんなが作業をする横で、なぜか僕の前にはひれ伏すハンサ達。
僕がそれを見ながら首を傾げていると、何かを勘違いしたのか、カルラがサッと飛んで行って、頭の下げ方が足りない子の頭を押さえようとした。
だけど、カルラが押さえつける前に「クァ!」と先頭にいた少し大きいハンサが怒った。下げ方が足りない子達がビクッと驚いて頭をしっかり下げる。
うん、何言っているのか、分からないがその後も「クァ!」は続いているので、ものすごく怒っているのがわかる。
近くに飛んで来たカルラが人化した。
「アル様、少し待って欲しいそうっす」
「どうかしたの?」
「一部がアル様に従う事に不満があるみたいっす」
カルラが「これだから馬鹿は困るっす」と呟きながら1度ハンサ達を睨む。
「サハギン達の状態を見れば従った方が良い事は分かるはずっす。だけど、どこかでプライドが邪魔しているみたいっすね」
カルラは頭を掻いて「そんなウルフも食わない物は捨てておけば良いのにっす」と笑った。その間もハンサ達の「クァ」は続いている。
「この先がかかった選択、どっちが良いのか? なんとなく分かっていても結局は自分の心に従ってしまうっす。生き物って本当に報われないモノっすね」
カルラは苦笑いを浮かべた後で、真剣な眼差しでハンサ達を見ていた。
カルラもグリュゲル達の群れの未来をあの日、僕に頭を下げた時に決断した。
僕には想像も付かないけど、それはきっと生き残る為の選択だったのだろうし、他に道はなかったのかも知れないけど、群れのみんなの命を背負っての重い決断なんだよね。
隣で黙ってハンサ達を見ているカルラの横顔が、なんだか大人に見えた。
「今回の決定に従えない者達は、どうやら群れを追い出すみたいっすね」
「確かに無理強いはしたくないから、その方がありがたいけど、追い出された人達はやっていけるの?」
「やっていけないっすね。だけど、群としての決定に従えないなら仕方ないっす。そいつらの為に信じてついて来てくれる仲間を路頭に迷わす訳には行かないっすから」
僕が「そうだね」と頷くと、カルラは意外そうな顔をした後で苦笑いになった。
しばらくして「クァ」が収まったので、話し合いは終わったようだけど?
「カルラ? 離脱する者がいないね」
「そうっすね。どちらも渋々飲み込んだって感じっすけど、ちょっと待って下さいっす」
カルラがまた人化を解いて「クァ」と先程の少し大きいハンサと話をした。数名のハンサが不安そうにそれを見ているが、周りがその不安そうな数名を突っつき出した。
うん?
「カルラ、なんかよく分かんないけど、喧嘩はやめてね?」
「クァ」
再びカルラが少し大きいハンサと話をすると、突っつかれていたのは止んだ。だけど、突っついていたハンサ達は不満そうだね。
カルラが戻ってきて人化する。
「従う事に不満を持っていた者達も、みんな、アル様に従うそうっす」
「無理してない?」
「無理はしているっす。とりあえず行く場所がないのに追い出されそうなのを止めてくれた事には感謝しているみたいっすけど、あとは数日考えて、考えが変わらないようなら仕方ないっすね」
「そう、なら良いんだね?」
「はいっす、主従契約はそこの少し大きい奴とお願いするっすよ」
と言う事で、少し大きいハンサと主従契約をした。
だけどいつも通りとは行かなかった。ハンサ達は光に包まれないし、進化もしない。
なんだろうね?
進化の法則はいまいち分からないけど、無事に主従契約が終わった後で、ハンサのリーダーはコタロウからハロルドと名付けられた。
いつまでも少し大きなハンサなんて呼ぶわけにいかないもんね。
だけどさ、ハロルド達もここに住むの? 大丈夫?
と心配していたら、どうやら住んでいた湖も魚型の魔獣が激減して、食べる物がなかったそうで戻っても仕方がないらしい。
それでそのままでもどうせ飢え死にだから、頭の指示で仕方がなくここを襲ったそうだ。やはり魔獣にはとりあえず話し合うって選択肢はないらしい。
ハロルド達の湖もお爺様の領地内だし、ここからさほど遠くないので、後でそこの調査も必要かも知れないね。
とりあえずはそれは置いておいて、ハロルド達がお腹を空かしていると言う事なので、大量にあるタートルの肉と飽きないようにファングディアの肉、それと魔石に野菜とパンをあげた。
みんな嬉しそうに食べていたのだが、数日でハロルド達は進化したのに、一部のハンサ達が進化しない。
「これってさ、進化してない子達はハロルドに従ってないって事?」
「そうっすね。ここに居れば食べる物もあるし、いやいやだけど他に行く場所もないから、とりあえずここにいるって事っす」
カルラが盛大に「ハァ」とため息を吐くと、それを見ていたハロルド達が慌てた「クァ」と言いながら進化しなかった者達を問いただしている感じだけど、聞かれている方は投げやりな気がする。
結局は一生懸命に説明するハロルド達と、聞いているのか聞いていないのか分からないハンサ達との間の話し合いは平行線をたどったそうだ。
しばらくして飛び去って行くその者達を見ていたハロルド達はなんか寂しそうで、可哀想だとは思うけど、裏切られるのは困るから仕方がないよね?
そして、残ったハロルド達にはブランが身体強化を教えていた。身体強化の魔法が使えると使えないでは雲泥の差だ。きっとブランは残ったハロルド達を信用出来ると判断したんだね。
でもさ、身体強化を覚えて速く飛べるようになったハロルド達が、僕に尊敬のような眼差しを向けてくるのが痛い。
それにすれ違うだけで半歩下がって、頭とか下げなくて良いよ。僕は全然偉くないからね。
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