第74話 ハンサ
飛んで来たのはハンサと言う鳥型の魔獣で、水面に浮かぶ事が出来て、水辺に暮らしているそうだ。
なので、もちろん魚型の魔獣が好物だよね?
だけどさ、せっかくサイモンさん達が捕まえて来た養殖場の魚型の魔獣が食べられたら困るので、カルラに話をしてもらった。
カルラが何度か「クァ」と呼びかけたのに、ハンサはカルラを見もせずに、次々に水面に飛び込んで、養殖場の中の魚型の魔獣に襲いかかる。
このハンサ達は、馬鹿だね。
案の定、カルラから「ライトニングフェザー」ブランから『ディスチャージ』コタロウからも「ライトニング」が飛んで、カルラを無視して湖に飛び込んだ数匹が直撃を受けて倒された。
その後で、怒ってカルラに向かって来た大型のハンサも、カルラの返り討ちにあって深手を追って、逃げて行く。
呼び掛けを無視する方が悪いよね?
だけどさ、カルラが怒りすぎて逃げたハンサ達を雷をまといながらどこまでも追っかけて行った。
うん、カルラなら大丈夫だと思うけどさ。
しばらくして戻ってきたカルラは頭を掻いた。
「数が多くて逃げられたっす」
「いや、心配だから単独で追いかけるとかやめてね」
「でも、アル様。あいつらは聞く耳すら持たないっすから、また来るっすよ」
カルラが苦笑いをした後で、自分のマジックバックを指差した。
「とりあえず頭っぽい大きい奴は倒したっすけど、懲りないと思うっすよ」
「そうなの?」
「そうっすよ」
呆れ顔のカルラにブランも「あれは無理、また来る」と首肯した。
だけど、すぐには戻って来ないだろうからサイモンさん達の村に戻って、みんなでハンサの肉と魔石を食べて見た。
いろんな魔獣の肉や魔石を食べる事で、サイモンさん達が強くなるかも知れないからだそうだ。
難しい事は僕には分からないが、コタロウが言うには「魔獣は肉を食べる事で強くなるけど、いまいち仕組みが分からないからいろいろ食べて見た方が良いかも知れない」と言う事らしい。
それで少し前にコタロウがサイモンさん達の為にシュテンさんからファングラビットの肉を送ってもらったので、こちらからはファングディアの肉を送っておいた。
確かに一緒にいるコタロウやカルラ、アラニャは各村に残っている他の子達より強い。その理由が、いろんな魔物を食べているせいとも考えられるかも知れないね。
僕は腕を組みながら「うん、そうだね」と雰囲気を出して頷いて見たけど、本当はよく分かってない。
まあ、いろいろやってみるって事だよね?
数日後、空一面を埋め尽くすほどの大群でハンサが飛んで来た。だけど、勢い良く水面に飛び込むはずが、みんな湖の上空で動きを止めた。
いや、正確には先頭の数匹が何かに絡め取られて、ジタバタしている。残りはそれに慌てるようにぐるぐると飛び回っていた。
僕らがそれを見上げていると、隣に並んで見上げていたカルラが「アラニャ、頼むっす」と言う。アラニャは良い笑顔で「うん」と首肯すると手に持った糸に雷を流した。
空気が「バリバリ」と弾ける音に合わせて、上空でもがいていたハンサ達がビリビリと痙攣しながらさらにもがく。
しばらくそれが続いて、カルラが「そろそろ良いっすよ」と言うと、アラニャは雷を流すのをやめる。上空に囚われていた数匹のハンサはピクリとも動かなくなった。
遠いから分からないけど、倒されたのだろうね。
カルラが人化を解いて飛んでいって、慌てて飛び回る残りのハンサと「クァ」と言いながら話を始めた。
いや、話というよりもきっと脅しだね。
だって、先頭を飛んで来たこの群の強者であろう者達が、あっという間に何もさせてもらえずに倒されたのだから、残された人達はきっと恐怖しかない。
少しそれを見上げていたら、カルラが話し合いを終えて降りて来て人化した。
「アル様、投降を希望しているっす。どうしますか?」
「うん? いやカルラに任せるけど?」
「じゃあ、全部」
カルラがニヤリと笑うので僕は慌てて「分かった、受け入れよう」と言ったが、カルラは僕を見ながら余計にニヤニヤする。
「冗談っすよ。何慌てているっすか?」
「いや、カルラ、目が笑ってないよ」
カルラは「ひどいっすね」とわざと肩を落とした後で、人化を解いて飛んで行った。
だけどさ、絶対に本気だったよね?
カルラがハンサ達と話をしている間に、アラニャは湖の上空に張った糸から倒したハンサ達を下ろして、サイモンさん達がそれを水面で受け取る。
砂浜では、コタロウとサーシャを中心としたサハギンの女性陣がそれらを解体し始めた。
うん、段取りが良い。
と言うかさ、アラニャはいつのまに湖の上空に糸を張ったの?
しかもさ、カルラは何の問題もなく通り過ぎているから、その辺もお互いに話し合ったって事だよね?
それにあれだけ暴れても外れない粘り気のある糸ってさ、アラニャは元々強かったけど、強さが恐ろしい事になって来ている気がするんだけど?
そんな風に思いながらアラニャを見ていたら、アラニャがすごい笑顔でこちらに手を振る。
うん、美少女が空に張った糸の上から倒した獲物を下ろしながら、笑顔でこちらに手を振るのはちょっと怖い。
だけど、僕も笑顔で手を振り返した。
せっかく頑張ってくれたのに、アラニャが悲しむのは嫌だもんね。
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