第68話 襲撃の後で
カルラ達がポーションをかけた冒険者達は全員回復して、死んだ者は居なかった。今はアラニャの糸にぐるぐる巻きにされて全員が地面に転がっている。
深夜なのに騒ぎで起きて来た街の住民達が、野次馬のように遠巻きに取り巻く中で、僕は転がる冒険者達を見ていて、その中にキースさん達の姿がない事に気がついた。
「メイジー、冒険者は全部来たんじゃないの?」
「はい、全員に呼び掛けましたが夜中に宿を襲撃するなんて馬鹿のする事だと聞かない者達が居て、参加したのは3分の1程度です」
「それでキースさん達が居ないのか」
「キースは『集団で子供を襲撃するなんて本気なのか?』って最後まで反対してました」
「そうなんだ」
意外だね。キースさんは昼間の事もあるのに、本当は良い人なのかもしれない。それに引き換え、トールズとポプキンズは残念だよ。
転がっているトールズとポプキンズは、もうこちらを見ようとしなかったので、足でその頭をコツンと蹴る。
「すみません」
「良い人達だと思っていたからすごく残念だよ」
「すみません」
言い訳もしてくれないか、まあ、そうだろうね。
カルラが終わったと知らせに行った宿屋の主人が来た。緊張していただろうにそれを感じさせない笑顔でこちらに来る。
「アル様、ご無事で何よりです」
「ありがとうございます。それから、ご迷惑をおかけしてすみません」
僕が頭を下げると宿屋の主人は「アル様のせいではございませんよ」と微笑んだ。そして、転がっているメイジーを見た。
「まったく、冒険者ギルドのギルドマスターともあろう者が自分の街の宿屋を襲撃するなんて、しかも相手は子供なんてどうかしてますね?」
「うん? メイジーがギルドマスターなの?」
「そうですよ、知らなかったのですか?」
「はい、だけどギルドマスターって人達は貴族と連んでろくな人がいないのですね」
宿屋の主人がメイジーを睨みつけながら「まったくです」と頷いた。
「今回のお客さんへの賠償や建物の傷などの修繕費用はこちらで出しますので」
メイジーが宿屋の主人を見上げてそう言ったが主人はそれを「フン」と鼻で笑う。
「メイジー、こちらで出すとか本気で言っているのか? お前はアルフレッド様に手を出したんだから死ぬより辛い事になるぞ」
宿屋の主人が首を傾げるので、僕は主人見た。
「えっと、僕が何者か、知っているんですか?」
「あぁ、すみません。エミリアからは知らないふりをしろと言われていましたが、マルタのオリバは私の甥なんですよ」
「なっ! そうだったんですね」
「はい、とてもお強い事も聞いておりました」
そう言って宿屋の店主は頭を掻いた。
いや、僕は強くはないよ?
そう思いながら僕も頭を掻いてメイジーを見る。
「そんな事より、メイジーが死ぬよりひどい事になるってなんですか?」
「はい、奴隷印の枷をつけられて奴隷となれば、魔力は封じられるし、辛い労働が罪に合わせた年数課せられる。領主一族に刃を向けたとなれば、その刑期は一生って聞いてます」
「そうなんですか」
なんか可哀想だけど仕方ないよね?
「まあ、難しい事は分からないけど、集団で子供を殺そうと宿を襲撃した訳ですから、僕達は兵士に引き渡すだけです」
「そうですね。きっちりと罪をつぐなってもらわないとですね」
「はい、自分達のした事ですから」
僕が笑うと宿屋の主人も「そうですね」と笑った。
ブランが呼びに行った街付きの兵士達が来た。すぐに隊長を名乗る者が僕に頭を下げたが、なんか違和感がある。
「すみません。逃げられたり、解放したりしないで下さいね」
僕が首を傾げると、隊長は明らかに挙動が不審になった。
「アルフレッド様は分かってらっしゃいますね。こいつらも貴族と連んでますから確かに逃すかも知れません」
宿屋の店主がそう言って頷くと、隊長は「なっ!」と店主に反論しようとした後で「アルフレッド様?」と首を傾げた。
「この方はアルフレッド・グドウィン。領主様のお孫様だ。馬鹿じゃなければこの意味が分かるな?」
「そんな馬鹿な話があるか! 領主様のお孫様が、この時期にこの街に来るわけないだろ?」
隊長がそう言うので、コタロウが例の飾りナイフを見せる。それに「なっ!」と驚いて兵士達は皆すぐに跪いた。
「アル様、この街付きの貴族はどうされますか?」
「うーん、そっちはお爺様に任せよう。僕にはよくわからないし」
跪く兵士の言葉に僕がそう答えると、隣のコタロウは少し呆れ顔になった。
「アル兄ちゃん、拘束しといた方が良いんじゃない? 逃げられたり、暴れられたりしたら面倒だし」
「そうか、じゃあ、お爺様が来るまで縛って吊るしておく?」
「そうですね」
「そうっすね」
「それが良い」
宿屋の主人が「領主様が来るまで保つと良いですね」と呟くと、なぜか野次馬から「ヒッ」と声があがる。
そちらを見ると昼間の貴族の息子なのでブランが素早く捕まえて、アラニャが縛って、コタロウが転がした。
なんか「父さんが許さないぞ」とか「こんな真似してタダでは置かない」とか「後で泣きを見る事になるぞ」とか言っているけどさ。あんまりにもうるさいからカルラに顔を蹴られてもちろん気絶する。
本当に懲りないね?
そして、ブクブクと太った男が歩いて来た。フードをまぶかに被った従者を5人引き連れてニヤニヤと笑っている。
野次馬達が道をあけているところを見ると、この人はきっとあれだね?
「深夜になんの騒ぎだ? この街で乱暴ごとはこのイーハン・マルファーソンが許さんぞ」
イーハンはそこで転がっている者達を見た。
「この者達が宿を襲ったのか? 兵士達はなにをしている、さっさとこの不埒者どもを連れて行け!」
イーハンはそう叫んだけど、跪いている兵士達はなんとも言えない顔でイーハンを見た。イーハンはそれを受けて「何している?」とジタバタと地団駄を踏んだ。
「恐れながら、息子さんもおられるようですが?」
宿屋の店主がそう言うと、イーハンはカッと目を見開く。
「なっ?! なんだと、その様な者は即刻勘当だ。もはや我が家とは関係ない!」
イーハンがそう言い切るとメイジーが「イーハン様」と呼び掛けた。だけど、もちろんイーハンがそちらを見る事はない。
知らないふりで通すつもりらしいね?
そこでカルラがイーハンの息子にマジックバックから取り出した水筒の水を被せた。ゲホゲホとむせながら目を覚ました息子、こちらをにらむ。
「俺にこんな事して、父さんが黙ってないぞ!」
と言ったイーハンの息子はイーハンが来ている事に気がついて、安堵した顔をした「父さん! こいつらが」と言った時に、イーハンが「やれ!」っと短く言う。
コタロウとブランが、飛び出して来てイーハンの息子とメイジーに襲いかかったフードの従者のナイフを受け止めた。
「ふん、なかなか従者はやるじゃないか?」
イーハンはニヤリと笑う。
「だが2人では足りないな」
と言ったが「舐めてるっすか?」とカルラの矢がイーハンに飛んできたので、イーハンをかばいながらもう1人の従者が少し下がる。
そして、ナイフを投げようとした従者の腕はアラニャが糸で絡め取っていた。
「ふん、あと1人足りなかった様だぞ」
残りの男がナイフで襲って来たので、僕はその手を掴んで受け止めて、その男を殴った。感触はあったのに上体をそらして蹴りあげて来たので、僕は手を離してその蹴りをかわす。
フードがずれた男の顔は、鱗に守られていて、殴った部分の鱗が少しはげて落ちた。
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