第67話 襲撃
宿の部屋で寝ていたら体を揺すられる。目を開けると薄暗い中にブランの顔が見えた。
「ブラン?」
「アル、敵、包囲されてる」
「うん? 敵?」
「うん、昨日湖に埋めた奴らの匂い。他にも冒険者、宿の周り、いっぱい」
僕はそこで体を起こすと「ありがとう、ブラン」と言ってブランの頭をなでる。みんなも起きて、すぐに準備を始めた。
僕も服を着替えて防具をつけて、みんなを見た。
「まずは話し合うけど、ダメなら殺さない程度に懲らしめよう。だけどあくまでも自分の命が優先。自分の命が危険な時は迷わず逃げて、それでもダメなら……」
「「分かった」」
「分かったっす」
「分かりました」
もう一度、みんなを見た。「分かっているっすよ」カルラがギュッと抱きしめてくれる。
「ありがとう、カルラ」
そこでドアがノックされて、宿の主人が来た。
「アル様、この街付きの貴族の息子が冒険者を連れて……」
店主はなんとも苦い顔をした。そうだよね。街付きの貴族が自分の街の宿を襲うなんて、普通に考えれば、ありえない。
「たぶん僕達が目当てだと思います。ご迷惑をお掛けして、ごめんなさい」
僕が頭を下げると店主が慌てた。
「お気になさらずに、我々で時間を稼ぎますから裏口から逃げて下さい」
「いえ、どうやら包囲されているみたいです。従業員と他のお客さんを安全な場所に集めてもらえますか? 奴らは僕らでなんとかしますので」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
僕が微笑んで頷くと主人も頷いて、すぐに動いてくれた。従業員がお客さん達を誘導しながら地下倉庫に避難を開始して、僕らも配置についた。
僕は正面玄関、コタロウとブランが裏口。カルラとアラニャには2階から狙撃してもらう。相手も弓使いがいるだろうからね。
カルラとアラニャには、そいつらから行動不能にしてもらう。
僕は玄関から宿を出た。
ずいぶんと多いな。
冒険者は玄関側だけでも100人近くいる。昼間も感じたけど、武器も防具もサマルの街やマルタの街の冒険者達より良い物を使っている気がする。
ランクも高いのかもしれない。
大丈夫かな? って思ったら、見慣れた顔があった。トールズさんとポプキンズさんだ。
「トールズさん? ポプキンズさん?」
「アル君、申し訳ないけど、この街付きの貴族の命令だと私達も動かない訳にはいかないんだ」
「そうですか……」
正直、落胆した。この人達は良い人達だと信じていたから、なんともやるせない。
「どうしてもやめてはもらえないのですか?」
「あぁ、すまない」
「ではせめて場所を変えてもらえませんか?」
「出来れば大人しく……」
ポプキンズがそう言った瞬間に矢が飛んできた。もちろんカルラの矢がその矢を打ち落として、さらに矢を打って来た弓使いも撃ち落とした。
ドサリと弓使いが地面に落ちる音がする。その瞬間に4箇所からカルラに向かって矢が飛んで来た。そして、カルラが2階の屋根から落ちて来る。
「カルラ!」
鳥の姿に戻りカルラが地面に打ち付けられた。地面の上で動かないカルラのその姿を見た瞬間に僕はブチギレていた。
全身から魔力が溢れ出て、僕の周りの空気が「バチバチ」と弾ける。そこから僕は見えている冒険者を端から薙ぎ倒した。
僕に殴られた冒険者が吹き飛んだ。
剣を振り下ろして来た冒険者の手を掴んで投げた。
低い姿勢で飛び込んで来た冒険者の肩を押し込みながら飛び越えて、越えている間にナイフを引き抜いて、その背中を切りつけた。
切りかかって来た冒険者の腕を掴んで転がる様に巻き込みながら投げる。変な音がして、男が腕をかばいながらのたうち回った。
一部の慌てた冒険者が悲鳴をあげたが、しゃがみ込んでいる僕にトールズは落ち着いて剣を振り下ろして来た。
僕はその一撃をナイフで受け止めて、先程の男の剣を拾ってトールズの腹を突き刺す。トールズはそれをかわしてバックステップで下がった。
僕は魔力をまとって加速して、襲って来る冒険者も逃げ惑う冒険者も次々に薙ぎ倒す。
踊るように、流れるように、動きがどんどん加速すると、体は熱を帯びて来て、攻撃の速度と威力はどんどん増していく。
相手の武器を奪うと、矢が飛んでくる方向に投げる。弓使いは落下して地面に打ち付けられた。
そして、どれぐらい経ったのだろうか?
その場にいた冒険者達は皆地面に転がった。
トールズも繰り返される連撃をかわしきれずに、腹に他の冒険者の剣が突き刺さって、口から「グフッ」と血を吐き出して、そのまま倒れた。
今足の下にも1人居るので、僕は足に力を込める。男は悲鳴をあげた。僕が男を見下ろすとその男はポプキンズだった、その顔には恐怖が浮かんでいる。
「もうやめて下さい!」
そう呼び掛けられて顔を上げるとメイジーがこちらを見ていたので、僕は首を傾げた。
「なぜ話し合えないの?」
「この街付きの貴族の命令では従うしかありません。私達の意思ではないのです」
メイジーは泣きながら土下座をした。僕がその姿を見ていると後ろから声が聞こえた。
「残念だけど、領主一族に刃を向けるのがどう言う事か分からない奴らはやっても良いとイゴール様より言われているっす」
えっ?
振り返るとカルラが良い笑顔で笑っている。
「カルラ?」
「いや、イゴール様の作戦だったんっすけど、アル様に愛されている事が分かって、あたし幸せっす」
そう言って無邪気に笑うカルラを見て、泣きそうになった。
良かった。だけどさ……。
「カルラ、後で説教!」
「えっ? いやっすよ。イゴール様の作戦だったっす。アル様は優しいから襲われても手加減してしまう。いざとなったらお前がやられたふりをしろって」
「知らない」
僕はだまされた事とぶち切れた事が恥ずかしくて、もうカルラを見ていられないから、メイジーの方に向き直った。
「こいつら、どうしようか?」
「アル様の命を狙う不届き者は、みんな成敗で良いのではないですか?」
うん?
振り返ると今度はアラニャが良い笑顔をしていた。コタロウもブランもいる。
「そっちは終わったの?」
「うん、全員吊るしてあるよ」
僕は「そっか」と頭を掻きながら転がる冒険者達を見た。コタロウ達はちゃんと手加減して拘束したのに、僕がこれではダメだね。
「カルラ、その辺に転がっている人達は助かりそう」
「大丈夫そうっすね。何人か武器が突き刺さっている奴らは、このまま放っておけば、やばいかも知れないですけど……」
僕はさらに頭を掻いた。
「さっきも言ったっすけど、イゴール様の許可は出てるっすよ」
「アル兄ちゃん、こいつらに証言させてこの街付きの貴族を捕まえたら良いんじゃない?」
「証言なんて、メイジー1人居れば大丈夫ではありませんか?」
「アル、殺そうとする奴、殺すの間違いじゃない」
うーん。
そして、地面に転がる冒険者達を見た。
懲らしめたから良いかな?
「とりあえず、治療してアラニャの糸で拘束」
「「分かった」」
「分かったっす」
「分かりました」
そして、みんなが動き出してからポプキンズを見下ろした。
「今度やったら本気でやるから……」
そこで身体強化を最大にして威圧した。ポプキンズが僕を見上げながらプルプルと震えたので、身体強化を抑えてメイジーを見る。
「メイジー、申し訳ないけど、処分は覚悟してね。メイジーは僕が何者か、知っていたんだよね?」
「はい、申し訳ありません」
泣きながら話すのでなんか聞きとり辛いけど、メイジーはそう言って頭を地面につけていた。
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