第59話 兄さんの話
ギルドに入るとトマスさんとオリバさんが、嬉しそうな顔で迎えてくれた。
「さすがはアル様ですね。あんな立ち回りを見たのは、王都で騎士の模擬戦を見て以来ですよ」
「そうですよ、それにあの使用人の顔見ましたか? 元冒険者で少し腕が立つからって普段威張り散らしていたくせに、アワアワ言ってましたよ」
「うん、少しやり過ぎたかな?」
「「えっ?」」
僕が首を傾げるとトマスさんもオリバさんも驚いた後で「あんな奴ら良いんですよ」と苦笑いを浮かべた。それを見届けてコタロウが首を傾げる。
「それでアル兄ちゃん、あの方は?」
「うん、僕の兄でエドワード・グドウィン。次の次の領主だよ」
「そうだったんだね。あの方がアル兄ちゃんとイライザ様のお兄さんか。だけど、ずいぶんとしっかりした方で、アル兄ちゃんとはちょっとタイプが違うね」
「それはそうさ、本当の兄弟ではなく、本来なら従兄弟だからね」
「そっかぁ」
コタロウは聞いてはいけない事を聞いたみたいな顔をしたけど、僕は別に気にしていない。本当の兄さんではなくてもエド兄さんは間違いなく僕の兄さんだ。
そこでトマスさんが「あのぉ」と声をかけて来たのでそちらを見ると、トマスさんとオリバさんも困ったような顔をしていた。
「アル様は何者ですか?」
「うん?」
「今、お兄さんが未来の領主と聞こえたのですが」
そこで「あっ!」と言ったコタロウと顔を顔を見合わせた後で僕は2人を見ると「気にしないで下さい」とニッコリ笑っておいた。
だけど無理だよね?
仕方ないのでコタロウが、お爺様より頂いたあの飾りのついたナイフを見せる。
「アル兄ちゃんはアルフレッド・グドウィン、領主イゴール・グドウィンの孫で、今は領地をまわり領民の生活を見て、領民の悩みを聞いてまわる旅をしているんだ」
2人は「なっ!」と目を見開いた後で、綺麗に土下座した。
「知らなかったとは言え、無礼の数々、失礼いたしました」
えっと?
僕は慌てて「やめて下さい」と立たせたけど、2人は立ち上がってくれない。仕方がないので、領主の孫からのお願いとして立ち上がってもらった。
うん、だけどさ。
なぜか冒険者達も土下座している。
どうすんの? これ?
「もうめんどくさいから立ち上がってくれる? アル兄ちゃんは別に怒ってないし、土下座しなくても大丈夫だから」
とコタロウが言って、なんとかみんな立ち上がった。コタロウがそれを見届けて耳打ちして来た。
「領主一族って領民からすると、すぐに土下座したくなるほどに、それだけ恐ろしい存在なのかもしれないね。だとしたらこれからも兄ちゃんの素性はうかつには明かせない。こんなだと本音は話してもらえないからね」
僕はその言葉に「そうだね」と首肯した。
そして、今後ミア達をどうするのかと言う話になった。
もちろんあの貴族は処分されるし、親達にも何かしらの処罰が下されるだろうけど、今後はさらに親戚や知り合いのいるこの街ではミア達は暮らしにくいだろうね。
そこでガタイの良い冒険者さんを見た。
「お兄さん、もし良かったらみんなでサマルの街に行ってくれないですか?」
ガタイの良い冒険者さんは仲間と1度顔を合わせると頭を掻いた。
「もちろん、ミア達の為にも行くのは構わないのですが、サマルの街の冒険者ギルドのギルドマスターを知らないので俺達が仕事をもらえるか、どうか」
「サマルの街の商業ギルドのギルドマスターは知り合いだから仕事を世話してもらえる様に手紙を書きますよ。それからサマルの街の冒険者ギルドのギルドマスターは処分されて、新しいマスターになったばかりなので、きっと冒険者ギルドも大変だから、皆さんが行ってくれれば、街も助かると思いますよ」
「そうですか、そう言う事なら行かせて頂きます。良いよな? みんな?」
ガタイの良い冒険者さんの呼び掛けに「もちろんだよ」とか「任せとけ」とか「当たり前だ」とかそんな感じの返事が返って来たので安心だね。
「それからアルフレッド様、俺はエイダンです。これからよろしくお願いします」
「うん、エイダンさん。ミア達の事、よろしくお願いします」
「はい、この身に代えても守ります」
「ありがとう」
握手をして笑い合ってから、シュテンさん達の説明もしておいた。
手を出したら死ぬから気を付けてと言ったら、みんなすごい勢いで頷いて、コタロウの親とか、ブランの弟子とか、カルラの舎弟とかがいると聞いて、震え上がっていた。
大丈夫そうだね。
そして、エイダンさん達と談笑していたらエド兄さんが来た。
うん?
空気に張りがある。
そして、兄さんが重い口を開いた。
「アル、今回の件、そこの冒険者達も関与しているのだよね?」
「うん? なんのですか?」
「この街を守っていたサーペントを殺そうとした事と生贄にされた子供達の口封じの件だよ」
その言葉にエイダンさん達は申し訳ないって顔になって僕をチラッと見たので、僕はエド兄さんを見る。
「その事でしたら、リーダーだった男がやらせようとした事で、皆さんは従っていたに過ぎませんし、未遂で終わってますよ」
「そうなのかも知れないけどさ、それでも全く罪に問わないと言う訳にもいかないだろ?」
エド兄さんがそう言うと「そうですよね」とエイダンさんは頷いた。それに追従する様に他の冒険者さん達も首肯する。
だけどさ、それじゃあ、可哀想だよ。
僕が眉間にシワを寄せると、エド兄さんがため息をついた。
「アル、そんな顔するな。領主とは時に厳しい決断も下さなくてはならない。そうしなければ、他の者に示しが付かないんだよ」
うん、エド兄さんの言いたい事は分かるけどさ。
でも、納得したくないよね?
「罪の償いとして、サマルの街で冒険者ギルドの再立ち上げの手伝いをさせながら、少女達の面倒を見させますので、どうかそれで納めてもらえませんか?」
「うん、それは弟としてのわがままかい?」
「はい」
僕が頷くと、エド兄さんは嬉しそうな顔をして顎をさすった。
「では私のわがままも聞いてくれる?」
「はい、僕で聞ける事なら」
「よし、言ったね。皆も聞いたよね?」
エド兄さんがニコニコしながら周りに居た人達を見渡すので、その場にいたみんなが頷く。
「アル、私にも従者を紹介してくれ」
「えっ?」
「イライザだけずるいだろ? 私も従者が欲しいんだ」
僕が驚いて目を見開くと、エド兄さんはニヤリと笑った。
これさ、確実に確信犯だよね?
「兄さん、騙したね!」
「なんの事?」
「絶対に、エイダンさん達の話は嘘だよね?」
僕がそう言うとエド兄さんは再び嬉しそうな顔をした後で「私は悲しい、まさか弟に嘘つき呼ばわりされる日が来るとは」と泣き真似をした。
そこ! そう言いながら冒険者のお姉さんに抱きつかない!
そして、お姉さんもエド兄さんを受け止めて、こっちを見ながら兄さんの頭をなでない!
「絶対に確信犯だよね?」
「まあ、そうだね。だってさ、イライザには従者を紹介して、なかなか私には紹介してくれないからさ。強硬手段だよ」
「もしかしてさ、今回来たのって?」
僕が頭を抱えると、コタロウが僕の肩に手を置く。
「アル兄ちゃん、諦めて誰か紹介したら良いんじゃない? たぶん紹介するまで帰らないよ」
「君はコユキの兄のコタロウだろ? コタロウは良く分かっているね。まさにその通り、私は従者を紹介してもらうまで帰らないよ」
エド兄さんは嬉しそうにニヤニヤとするので、僕はもう1度、頭を抱えた。
「紹介はしますけど、無理強いはダメですよ。とりあえず会って、互いに気に入れば主従契約すると言う事で良いですね?」
「あぁ、もちろんそれで構わない。たくさん居るんだろ? 中には私を気に入ってくれる人がいるさ」
「分かりました、では紹介します」
「頼むよ、アル」
なんとなく踊らされた気がするが、そのうちに誰か紹介するつもりだったから、それが早まったと思えば良いね。
だけどさ、エド兄さんには誰が良いかな?
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