第60話 ラセツとアラン
エド兄さんがマルタの街の後処理をしている間に、カルラがラセツを呼びに行った。
エド兄さんはすでにカルラ達の速さも、アラネアさん達の村にラセツが来ている事も知っていて、エド兄さんが直接カルラに頼んでいた。
うん? なんで?
とは思ったが、世の中は知らない方が良い事が多いし、難しい事は残念ながら僕には分からないので、そこについてはそれ以上考えるのをやめた。
次にラセツが来るまでの間、僕達はコルバス商会マルタ支店で、ミア達の旅支度を揃えるとこにした。
商会まで来て名前を告げると、やはり奥の部屋に通された。そして、すぐにテーブルに僕の頼んだ物が並ぶ。
まずはみんなの分のマジックバック。これには食べ物も入れるので時間停止が付いている物にした。形やデザインが違う物をいくつか持ってきてもらい、自分達に選んでもらう。
まあ、僕らみたいに狩りをしながらの旅ではないのだからリュック型である必要はない。女の子達だし、形やデザインの好みもあるだろうからね。
それからしっかりとした旅用の衣類や外套。これも数種類から好きな柄や色をみんなで試着しながら選んでいる。
まあ、キャッキャ言っているし、楽しそうだから良いね。
そんなミア達が自分の物を選んでいる間に、僕の前にはコタロウが頼んだ、アラニャの旅支度の品物が並んだ。
僕やコタロウと同じ時間停止のついた背負うリュック型のマジックバックとウエストに巻くタイプのマジックバック、それから解体用のナイフ、魔術具のランタン。
さらにお兄さんが用意してくれた小さな小物。鏡とか、女の子が使うちょっとした小物とかは僕には分からないので、アラニャが欲しいという物を買う事にした。
だけどさ?
「あのさ、アラニャの旅支度は必要なの?」
「アル兄ちゃんは今更、アラニャをアラネアさんの村に置いてくつもり?」
「いや、だって、旅は危険だよ?」
僕が首を傾げると、アラニャがすごく悲しそうな顔をした。
うん、なんかごめんね。
「分かった。だからアラニャはそんな顔しないで……」
「はい、ずっと一緒ですね?」
「うん、仲間だもんね。だけどさ、一緒に行くなら後で、アラネアさんの許可は取らないといけないね」
僕がそう言うとアラニャは「母さんは分かってくれます」と頷いた。
ミア達の服も無事に決まり、アラニャの分も含めて、僕が全ての代金をお兄さんに支払うと、アラニャは嬉しそうに自分の物をマジックバックに全てしまって、それを背負った。
そうそう、残っていたビックアントの肉と、マンティスの肉は全てアラニャのリュック型のマジックバックに移す。
最近はアラニャも僕らと同じ物を食べているが、たまには慣れ親しんだ味も食べたいだろうからね。
そして、その後で市場に寄った。
足を踏み入れた瞬間に威勢の良い呼び込みの声が聞こえる。サマルの街の市場と同じ様にいくつかの店で、全ての野菜とパン、それから甘味を買う。
甘味はプチチーズタルトという物で、カウマルタの乳を使ったチーズにサクサクとしたタルト生地があう。ハチミツと酸味の効いたレモンという果物のが使われていて、甘いのにさっぱりしていて美味しい。
それに手で持ってかじる事の出来るサイズなので食べ歩きに最適だ。隣でアラニャが満足げにモグモグしている。
その後、買った物をみんなで端からマジックバックに詰めていく間、ブランは店のお姉さん達にモフモフされていた。
うん、可愛いから仕方ないね。
そして、カルラに連れられたラセツが、マルタの街に来るとエド兄さんがラセツと話を始めた。
「すでにドウジさんの許可は得ているから、これから数日、私と行動を共にしてお互いに気に入ったら従者になってくれないか?」
「俺がエドワード様の従者になれるのですか?」
「うん、お互いに気に入ればだけどね」
「分かりました。よろしくお願いします」
ラセツが笑顔になったので、エド兄さんも嬉しそうに笑った。そこで僕はカルラに頼んで呼んでおいたアラネアさんの息子のアランを見た。
「アランも良かったらさ、兄さんと話をしてお互い気に入ったら従者にならない?」
「僕がですか? ラセツの方がガッチリしているし、従者に向いているのではないですか?」
「うん、出来たら2人ともなってくれたらと思うんだ。ラセツも頭は良いけど肉体派、アランも身体能力は高いけど頭脳派だろ? それにラセツとアランは仲が良いからね」
ラセツも嬉しそうに頷いてアランを見ていた。アランは頭を掻いて「そりゃあ、ラセツと一緒なら心強いですが」と笑う。
もちろんエド兄さんも2人を見て、嬉しそうにしていた。
「私としても2人がなってくれたら心強いよ。来年には私も学園に行くからね。その時に連れて行けるのは年の近い従者だけなんだ」
「そうなのですね」
「うん、アランも同じ歳ぐらいだろ?」
「はい、ラセツと同じ歳で今年16歳になります」
「私とも同じ歳だよ。良かったら数日間、一緒に行動してみて気に入ったら従者になってくれないか?」
「分かりました。では僕もよろしくお願いします」
と言う事で、そこから数日間、ラセツとアランはエド兄さんと行動を共にする事になった。
なんとなくだけどさ、大丈夫だよね? 3人とも兄タイプなので上手くやりそうな気がする。
「ところで、アランは種族はなに?」
「うん、アランはスパイダーが進化した子だよ」
「なっ! アラクネーか?」
「アラクネー?」
僕が首を傾げるとエド兄さんは「ハァ」と息を吐いた。
「種族だよ。アラクネーって人族に近いスパイダーの種族。アルは確か魔獣図鑑は持っていたよね?」
「うん、兄さん、僕だって持っているよ」
「じゃあ、少しは読もうな。載っているよ」
読んでるよ。もちろん、理解は出来てないけどね。
「それで、アラネアさんの村にはアラクネーは何人ぐらい居るんだい?」
「そうですね、たぶん400人ぐらいです」
「400人のアラクネー!?」
「えっ? どうかしたのですか?」
「いや、アラクネーもかなりレアな魔獣だからあんまり人に知られない方が良いよ」
エド兄さんが真面目な顔をしたので、僕も顔を引き締めて「はい」と答えた。
もちろん、知らせるつもりはない。街との交流も物品のやり取りも基本はシュテンさん達を通してサマルの街のテッドさんとやり取りするつもりだ。
それに村は森のかなり奥だし、認識阻害の輝石の効果もあるから大丈夫だよね?
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