第56話 アラネアさんの村
アラネアさん達の村に着くと、小さな子達が「おかえり」と迎えてくれるので「ただいま」と1人ずつその頭をなでる。
うん?
木と木の間に糸が張られて、そこに色鮮やかな布がかかっていた。赤、青、黄、緑。単色のものもあるが、どれも複雑に織り込まれて綺麗な柄を描いている。
「アル様、おかえりなさいですわ」
「うん、ラシャ、ただいま。ずいぶんと鮮やかな布だね」
「はい、スパイダーさん達の糸を織り込んだのですわ。赤は火属性のスパイダーさん、青は水、黄は土、緑は風のスパイダーさん達で、複雑な柄はノームさん達が効果をあげる紋様をわからない様に入れ込んでいるのですわ」
「すごいね」
「はい、みんな張り切って少し暴走気味だと、兄は嘆いておりますですわ」
ラシャが笑うので、僕も笑った。
どうやらみんな楽しくやっていた様だ。
周りを見ると、やはり村壁にも紋様が入っているし、きっと魔獣避けや、認識阻害の輝石も埋めてあるのだろう。
子供達も楽しげに遊んでいる。遊び方が、糸を使って飛び回ると言うのはスパイダーさん達らしいけどね。
そして、アラネアさんのところに来た。
「アル様、おかえりなさい。アラニャは粗相をしませんでしたか?」
「いや、すごく助かりましたよ。アラニャは大活躍でした」
「そうですか、それは良かった」
アラネアさんが優しく微笑むと、アラニャは恥ずかしそうにハニカんだ。
「それで、アラネアさんにお願いがあるのですが」
「良いですよ」
「えっ?」
「アル様の頼みなら我らが出来る事ならなんでも致しますし、そちらのサーペントさんの家族を迎え入れるのでしょう? もちろんお引き受けします。そもそもそちらのサーペントさん達が心配してくれなければ、我らは死んでいましたから」
アラネアさんはそこでナーガさんを見た。
「心配して下さってありがとうございます。我らはあなた方を仲間としてこの村に迎えます」
「アラネア様、ありがとうございます」
「様付けなど、やめて下さい。様がつくのはアル様だけで十分です」
「分かりました、アラネアさん、私はナーガ、それから妻のラミアです。子供達は……」
ナーガさんが家族を紹介して、アラネアさんはそれを笑顔で聞いていた。その後で、指示を受けたスパイダーさんがナーガさん達を用意された部屋に案内してくれる。
残った僕はとりあえず、ビックアントの肉をラセツが持ってきていた時間停止付きのマジックバックに移せるだけ移して、アラネアさんに渡した。
このマジックバックはアラネアさんの村で使ってもらう。あとは定期的にシュテンさんの村からグリュゲル便で荷物の行き来をする事になった。
アラネアさん達の村から布を、シュテンさん達の村から銀細工や鉄製品を、またサマルの街から必要な品もシュテンさん達を通して買う事になった。
これでとりあえず安心だ。良かったね。
それから各部屋の家具もだいたい揃っていた。ベッドやタンス、食堂のテーブルに椅子、大浴場のカゴに桶など。
ノームさん達もゴブリンさん達も本気を見せ過ぎだね。って思ったけど、スパイダーさん達が器用なんだそうで、教えるとすぐに出来る様になるらしい。すごいね。
それからガジルの息子のガズルにビックアントの外殻を大量に渡した。もちろん、渡しながら冒険者さん達に聞いた話をする。防具や屋根、外壁での使用だ。
外殻を見ながら話を静かに聞いていたガズルは「少し時間を頂けますか? アル様達の分の防具を作りますので」と言ってくれたので任せた。
どちらにしてもしばらくはアラネアさんの村に滞在するつもりだ。
さらにスパイダーさん達が作る布で服と外套とテントの布を作ってもらった。スパイダーさん達の糸だから、なにせ丈夫だし、柔らかいし、さまざまな耐性もつけられるから良いよね。
そして、カルラに頼んでサマルの街まで飛んでもらい、持っているビックアントの素材の半分を売ってもらう。
そのお金でサマルの街で残りのアント肉を入れるマジックバックも欲しいし、大量に野菜とパンと甘味を買い込んでもらいたい。
それに大量のビックアントの素材をマルタで売ると値が下がり、頑張ってくれた冒険者さん達の稼ぎが減るだろうからね。
なので、カルラを待つ間、僕らはしばらくこの辺りでホーンボアとファングラビットを狩りをして、食料を確保しようと思う。
なんて思ったのにカルラは翌日には買い物もきちんと済ませて戻ってきた。
あのさ、どんだけ速いの?
やはりサマルの街ではビックアントの素材は珍しいらしく、フィアナさんは見た瞬間に飛び上がり、カルラは抱きつかれたと苦笑いをしていた。
量を見たテッドさんは一瞬青ざめたが、防具だけではなく、屋根と外壁に使用できると言う話を聞いて、商人らしい笑みを浮かべたそうだ。
うん、バッチリと稼いで欲しいね。
「市場のお姉さん達はアル様の名前を出したら、自分の時間停止のマジックバックに入れている全ての野菜を出して来たっすよ」
「それはありがたいね」
「アル様は種類を選ばずに、全て根こそぎ買ってくれるから助かる。よろしく言って欲しいと言ってたっす」
「そっか、全部買うのは悪いかなって思ってたけど、お姉さん達も喜んでいるなら良いね」
「まあ、馴染みのお姉さん達の店以外にも野菜を置いている店はありますから問題ないっすね」
そう言ったカルラと僕は頷きあった。
うん、大丈夫だと信じたい。
次の日からはカルラも加えて、僕とコタロウ、ブランとアラニャでホーンボアとファングラビット狩りを続けた。肉もかなり減ったからね。
どんどん狩り続けて7日後、ガズルのビックアントの外殻を使った防具の試作が出来上がった。
胴当ては形は今までと一緒だけど、なんか黒くて落ち着いた光を放っている。もちろん変わったのは見た目だけではない。
ガズルがナイフで傷つけても、アラニャの糸も、コタロウの「ライトニングボール」も弾いた。
えっと?
「ビックアントより強くなってない?」
「硬化を付与してますし、やっぱりスパイダーさん達の糸を使って縫っているので、属性の耐性も上がっているみたいですね。どうですか?」
「どうもこうもないよ。最高だよ」
「良かった、ではこれで先に皆さんの分を作りますね」
ガズルがそう言うので、僕は「うん、よろしく」とお願いした。
僕らの分がすべて出来たら1つ作ってシュテンさんの村に送ってあちらでも製作をしてもらい、ガズル達はアラネアさん達の分を作ってくれるそうだ。
怪我が減ると良いね。
もちろんお揃いで、籠手とブーツも作ってくれた。服と外套に合わせたらかなりカッコ良い。これが僕らの分揃ったら、そろそろマルタの街に戻ろうか。
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