第52話 逃走の末

 僕はナイフを使って剣で斬りかかって来たのを受け止めたり、飛んできた矢を叩き落としたり、魔法を魔力をまとった手で受け止めて払い除ける。


 そして、前に出て来た奴をナイフで軽く切ったり、手で軽く殴ったり、軽く突き飛ばす。たまに大袈裟に飛んで行って木に激突している人がいるのが気になる。


 正直加減が本当に難しい。


「アル様、この際、いちいち加減してないで1人ずつ倒して、やっぱり兵士に突き出したらどうですか?」

「カルラ?」

「だって、面倒だと思っているっすよね?」


 人化しているカルラは簡単そうに、逃走しながら飛んでくる矢を矢で撃ち落としたり、冒険者達の服を狙って木に縫い付ける。


 アラニャも逃走しながら弱い糸を張って追撃を遅らせたり、ネットの様な糸を飛ばして矢を落としたりしている。


「うーん、逃げれないようなら考える」

「考えるんすね」

「あっちは殺す気だし、僕らだけなら簡単に逃げられるけど、小さな子供達が一緒だからね。子供達の安全が優先だよ」

「それってどっちの子供達っすか?」

「もちろん両方だよ」


 カルラは「アル様らしいっすね」と優しく微笑むので「そうかな?」と笑っておいた。


 逃走は続く、小さな子供達に合わせているから遅いけど、上手くカルラが木に縫い付けたり、アラニャが糸で邪魔してくれるので、追撃も遅い。たまに僕も軽く突き飛ばして、距離を稼げば問題ない。


 追い付きそうで追いつかない。矢で木に服を縫い付けられたり、弱いすぐ切れる様な糸がまとわりついて邪魔をしてくる。剣も矢も魔法もあからさまな子供にさばかれてしまう。


 イライラが溜まって来たあの男が、なにやら罵声を飛ばしてくる「子供が調子に乗るな」とか「いつまで甘い顔していれば調子に乗りやがって」とか「こっちもそろそろ本気を出すぞ」とか。


 だけどさ、意味分かんないよ、それ?


 結局、森の中の逃走は1日近く続いた。僕らはまだまだ大丈夫だけど、そろそろ小さな子供達が限界だ。


 やっぱりもう子供達を守る為に、全部倒すしかないのかな?


 と考えていた時に、木がなくて、少し開けた場所に来た。地面に大きさの穴があちらこちらポコポコと空いている。


 その穴を避けるように進んだのだが、やっぱり限界だっただろう。子供達が躓いて転けて、僕らが止まる。


 男が嬉しそうに笑い。僕らは再び包囲された。


「やっとか、無駄な事はやめてくれよ。どうせお前らは死ぬしかないんだからな」


 男がニヤニヤと笑うとナーガさんが男を睨む。


「私と妻が大人しくお前たちに殺されれば、アル様達や子供達は助けてくれるのか?」

「お前さ、聞いてなかったのか? そこの生意気なガキは殺す、お前のガキ達は貴族に売り飛ばす。生贄のガキ達も買い手がつけば売って、後は俺達の下働き、年頃になれば可愛がってやるぜ」

「頼む! 子供達は助けてくれないか?」


 ナーガさんが深々と頭を下げた。そこに石が飛んでくる。


「暴れても良いぜ、どうせ無駄だけどな」


 男がニヤニヤと笑いながら再び石を拾って投げて来て、それがまたナーガさんに当たる。


 もう限界だね。


 僕が魔力を全て解放しようとした時に、冒険者達の一部から声が上がる。


「頭、やっぱりこのやり方は違うんじゃないか?」

「あぁ、こんな良いサーペントを殺して、ランクを上げるのは間違ってるよ」

「それにあんな小さい子達も手にかけるの?」

「子供を貴族に売ったらどんな酷い目にあうか分からないよ」

「いくらなんでも可哀想なんじゃ?」


 男がその人達を睨みつける。


「おい、誰のおかげで今があると思ってんだ? それに俺達は大所帯なんだから、金がかかるんだよ。理解しろよ」

「今まで通りみんなできちんと仕事をこなせば良いじゃないか?」

「大所帯なんだ、それこそ本当に危険な大型の魔獣だって倒せるよ」

「それに頭、増えたビックアントを狩るだけでもひと財産稼げる。ここまでにしましょうや」


 男は「ハァ」と息を吐き出した。


「何言ってんだ? 雑魚をいくら倒してもランクは上がらないだろ? 俺に意見するんじゃねぇ、このクズどもが」


 そして、男は「逆らうならお前らも殺す」と、その人達を指さす。


「いつかはこうなるだろうと思ってたよ。確かにあんたは俺達の恩人だけど、もうあんたには従えない。やっぱりこんなやり方は間違っている」


 反旗を翻した男は僕らの前であのリーダーの男に立ち塞がる。それに追従するように30人ほどの冒険者達が僕らの前に壁となった。


 女の人がこちらを振り返って「ごめんなさいね」と頭を下げる。他の人達も申し訳なさそうな顔で謝ってから、男の方を見た。


「甘ちゃんなのは30人ぐらいか? まあ良い、取り分が増えるだけだ。あの生意気なガキ達とまとめてそいつらも殺せ」

「「おぉ!」」


 僕らを取り囲んでいる人達が雄叫びをあげた。


 するとコタロウが「アル兄ちゃん、すぐにあの丘に登ろう!」と叫んだので、僕は魔力を全開にして、身体強化をかけた。


 丘に上がる道をさえぎっている人達をすぐに殴り倒す。コタロウ達が抜けて行き、それに子供達が続いて、ナーガさん達、カルラとアラニャが続く。


「冒険者のお兄さん達もこちらに」

「俺達の事は良いから先に行け」


 僕達をかばってくれた冒険者のお兄さんがニッコリ笑った瞬間、カタカタと言う音が地面の下から轟音を上げながら迫り上がってくると、すぐに穴から凄い勢いで、ビックアント達が次々に飛び出して来た。


 そこからは冒険者達の怒号や悲鳴がカタカタと言う音に張り合って、あの男が「黙れ!」と一喝した後で「おい、お前ら火の壁を作れ」と指示して、男が率いる冒険者達の周りに火の壁がグルリと出来た。


 もちろん、反旗を翻した人達の周りにも火の壁が出来た。火の魔法を使う人達が『ファイアウォール』を使ったんだろうけど、あれもいつまで保つか、分からない。


 ビックアント達はその周りを少し離れてグルグルと回っている。魔力が切れれば終わりだ。


「おい、坊主、聞こえるか。俺達が悪かった、降参する。もうお前の仲間には手を出さないと誓う、頼むから助けてくれ」


 僕らが近くの高台に移動すると、あのリーダーの男はこちらを見上げながらそう言って手を振った。


 だけど信用できる訳ないよね?

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