第51話 人族と魔獣
僕らがサーペントさんの洞窟から出ると1人の男が立っていた。僕らを見て嬉しそうに笑う。
「なるほどな、もしかしてサーペントは進化したのか? おもしれぇじぁねぇか」
男はヘラヘラとナーガさん達を見たあとで、僕を見ると「だけどよぉ ガキが俺達の獲物を横取りしようってのは、どう言う了見だぁ?」と言って首を傾げた。
「なあ、大人しくそいつらをこっちによこせ、そしたら半殺しで許してやるよ」
僕が「嫌です」と首を横に振ると男は「そいつは討伐対象の悪い魔物なんだよ、こっちに渡せ」と言う。
「討伐対象?」
「あぁ、人族にとって脅威となる魔物は、討伐の対象になるんだ」
「サーペントさんのどこが脅威なのですか?」
僕が首を傾げると、男は眉間にシワを寄せる。
「そんな事はどうだって良いんだよ。サーペントはマルタの街で討伐対象となったんだ。だから俺達冒険者がそいつを殺す。ただそれだけの話だろ?」
男が嬉しそうに首を傾げるとミアが声をあげた。
「その討伐認定が間違いなんです。サーペントさんは街の近くに現れるはぐれビックアントを食べていた。サーペントさんは街を守って来たんですよ」
「黙れよ、ガキのごたくは聞いてねぇ!」
男は「それに、そんなこたぁ、知ってるよぉ」と笑う。
「だいたいよぉ、そのサーペントを狩る為に俺達がどれだけ苦労したと思ってんだ、あぁん? ビックアントを増やす為に他所からマンティスを連れてきたり、サーペントを討伐対象にする為に金に困っていたマルタの街の住民に生贄を捧げさせたり、協力させる為にあの馬鹿貴族を巻き込むのだって大変だったんだ。ひょっこり横から出て来たガキに掻っさらわれてたまるかよ」
「うん? と言う事は今のマルタの街の苦境はあなたが企んでやったって事ですか?」
「街の事なんか知るかよ。まあ、あの馬鹿貴族は自ら苦境を作り出して、その後で俺達にサーペントを倒させて、街を助けた英雄様に成るつもりらしいが、あいつは本当に馬鹿だよな? サーペントを倒したらマルタの街はビックアントの群れに飲み込まれるのによぉ」
男が嬉しそうにニヤニヤと笑う。
「俺達はただレアなサーペントを狩って冒険者としての名とランクをあげたいだけだ。だからそれについては感謝してるぜ、お前らのおかげでそいつが進化してまたレア度が上がったんだからな。それにそこの小さいのは子供のサーペントだろ? 良いじゃねぇか、そいつらは金持ち貴族に売り飛ばそう。そう言う小さな人族に近い姿の魔獣で遊ぶのが好きな連中がいるんだよ」
「えっと、よく分からなかったんですけど、結局は名誉とお金が欲しいだけって事ですか?」
僕が首を傾げると、男は一度怒った様な顔をした後で、余裕な表情を作り直すと両腕を開いた。
「そうだよ。冒険者はみんな、その名誉とお金の為に魔獣と戦ってんだ」
「他の冒険者さん達はみんなあなたとは一緒にされたくないと思いますよ。危険じゃない魔獣を危険な事にしてズルしているんですから」
「うるせぇ、手段なんてなんだって良いんだよ。冒険者の世界はランクが全てだ。高ランカーは羨望の目を向けられ、低ランカーは馬鹿にされる世界なんだからよ」
男は僕を睨みつけて首を傾げる。
「さてと、お前はさ、さっきから余裕で俺と話しているけど、まさか俺1人ならどうにでもなるとか思ってないよな? 残念だけどさ、1人じゃないんだよな、これが」
その声に合わせて100人ほどの冒険者風の人族が森から出てきた。僕らの周囲を包囲している。
「ペラペラと俺がしゃべったのは仲間が包囲するまでの時間稼ぎだよ。頭悪いな、お前」
「うん、それはよく言われます」
うーん、なるほど、仲間が居たから余裕だったんだね。
コタロウが「アル兄ちゃん、どうするの?」とこちらを見るので、僕は「うん、どうしようか?」と首を傾げる。そこで、カルラが苦笑う。
「アル様、さっきの話だとナーガさんに好き勝手やってくれたのはこいつらっすよ」
「そうだね」
「倒して前みたいに兵士に突き出したら良いんじゃないんっすか?」
「確かにそうだね」
僕がコタロウを見るとコタロウは呆れ顔で「でもそれこそ、次は僕らが討伐対象になるんじゃないの?」と首を横に振る。
「やっぱり、そうなる?」
「いや、なるでしょ? たぶん」
「襲い掛かっといて、返り討ちにあったら討伐対象って、人族って自己中心的だね」
「人族の兄ちゃんがそれ言うの?」
仕方がないので囲んでいる人達を見て、包囲が薄い場所を探した。
「うん、どちらにしても子供達をかばいながら包囲された状態でこの数と戦うのは辛いかもね。とりあえず逃げてから考えようか?」
「そうっすね」
「でもどこから逃げるの?」
あの少しガタイの良いお兄さんのところが少し空いてるね。
「よし、とりあえず僕が穴を開けるから、そこからコタロウとブランが先頭でナーガさんと子供達、カルラとアラニャは後ろでみんなの守ってあげて、焦らなくて良いから、子供達に合わせて逃げようか?」
「うん」
「ウォン」
「了解っす」
「はい」
みんなの声を聞いて、僕はガタイの良い人の方に踏み出した。ガタイの良い人は「ハハハッ」と笑う。
「かかったな、手薄と見せかけて誘って」
ガタイの良い人の言葉はそこまでで、僕に殴られて飛んで行く。木に当たって「グフッ」っと言いながら止まった。さらに周りを何人かも殴り飛ばしておく。
ナイフで剣を受けて手で突き飛ばし、さらに襲って来た男を飛び越えて背中を蹴り飛ばす。
アラニャが糸の塊を飛ばして相手の動きをとめて、カルラが矢で牽制する。ナーガさんとラミアさんも殴って吹き飛ばしている。
続いてコタロウとブランも襲って来た奴らを殴り飛ばして、蹴り飛ばした後で、子供達をかばいながら包囲網を抜けていく。ナーガさんとラミアさんがそれに続いて、アラニャとカルラも抜けた。
大丈夫だね。
最後に僕が包囲網を抜けると、コタロウとブランを先頭にして逃走が始まった。
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