第48話 マンティス

 穴の周りに出来たマンティスの山を端から解体して、魔石はスパイダーさんも入れた4人で分けて食べてもらい。


 マンティスの肉はスパイダーさんに食べられるだけ食べてもらった。かなりの量があるので、残りはマジックバックに入れて行く。


 スパイダーさんが食べられる量を全て食べ終わる前に、光に包まれた。


 うん、僕らに会ってからかなり食べたもんね。魔獣は肉を食べる事で強くなるのだから、そりゃあ、あれだけ食べれば進化もするだろうね。


 でも従者以外が進化するのは珍しい。


 うん? なんか人族っぽくなった? しかも女の子?


 慌てて僕は目を背けて、カルラに頼んでカルラの予備の服を着てもらった。


 カルラの服を着た彼女が「お待たせしました」と言って、僕と目が合うと少しはにかんで微笑む。


「アル様、ありがとう」

「うん、なんかごめんね」

「気にしてないです、大丈夫」


 スパイダーさんはそう言うが、もっと早くにその可能性に気付くべきだった。


 コタロウとブランは気がついていたらしく、先に目を背けていたのに、僕だけ気が付いていなかった。スパイダーさんが少し顔を赤くしているので申し訳ない。


 ちなみに彼女にはアラニャとコタロウが名前を付けた。さん付けしたら「みんなと一緒で呼び捨てが良いです」と本人が言うので、そうする事にする。


 とりあえず話を終えた後で、アラニャが再び食事を始めたのだが、アラニャが人族に似た姿でマンティスの肉を食べるのを見るのは少し抵抗がある。


 そして、コタロウの提案で、残りの魔石はアラニャに食べてもらう事になった。


 確かに可愛い女の子の姿になったし、馬鹿な冒険者に会うかもしれないから、魔力量も増やした方が良さそうだもんね。


 後で身体強化の魔法も教えておこう。


 そして、アラニャの食事が全て終わったので、僕らはランタン片手にマンティスの巣穴に入った。


 中はすごく入り組んでいる。周囲を用心深く確認しながら進んで、マンティスが倒れている度に解体してからまた進む。


 強い個体が残っている可能性もあるからね。


 どんどん進んで、広い空間に出た時、キラリと光が飛んできたので、アラニャを抱えながら横に飛んだ。どうやらやはり生き残りがいたらしい。


 黒い気をまとったウインドショットが今僕達が入ってきた穴を崩した。すぐに僕らは壁に沿って間隔を空ける様に散って、そいつを見る。


 大きなマンティスが、黒い気を全身にまとっている。


 久しぶりの闇落ち。


 どうやらコタロウにやられた傷を自分の周りにあった卵を食べる事で回復したらしい。奴の後ろには大量の割れた卵の殻が落ちていた。


 まるでやってくれたなっと言わんばかりに鎌を振るって暴れ回る度に、闇をまとったウインドショットが飛んで来るので、よく見て避けた。


「闇に触ると蝕まれるから、なるべく多めに避けて」

「うん」「ウォン」「クァ」「はい」


 そこで、アラニャを抱えていた事を思い出して、とりあえず「ちょっとだけ隠れていてね」大きな岩の裏に隠れてもらった。


 アラニャは「あの程度なら遅れは取りません」と言ったけど、身体強化もまだ教えてないし、何かあってからでは困る「僕が気になって集中出来ないから」とお願いした。


 岩の影から出ると、3人はダークマンティスの闇のウインドショットをかわしながら、それぞれが雷で応戦していた。


 闇落ちはさすがに強いね。


 あれだけ雷を受けても大丈夫みたいだ。それに傷ついたそばからその傷の周りに闇が集まって回復するように傷が塞がって治っている様に見える。


 だけど、うちの3人も強い。決め手はまだないけど、どんどん追い詰めていた。


 僕が押し込めていた魔力を解放して、雷を全力でまとうと「ヒッ」と小さな声が後ろで聞こえた。それに合わせるようにダークマンティスがこちらにくるっと顔を向ける。


 僕は「グッ」と1歩踏み込んで、一気に距離を詰めて切りつけた。だけと、とっさにダークマンティスが自分の首を鎌の両手で防ぐ。


 乾いた金属音と共に弾かれたけど、僕は着地と同時にもう1度飛び込む。


 僕に合わせて、コタロウの「ライトニング」とブランの『ディスチャージ』が飛んで来た。僕はダークマンティスの動きが鈍くなったところで、その首を落とす。


「アル兄ちゃん、ズルくない?」

「うん、ずるい」

「別に良いじゃないっすか、やっつけてくれたんすから」


 コタロウとブランは抗議したが、カルラはその2人を見て呆れ顔だ。


 岩から少しだけ顔を出したアラニャが「終わったのですか?」とこちらを見ているので、僕はそれに「うん」と返事を返して、魔力をまた体の真ん中に押し込めた。


「気のせいかな、魔力が少し増えた気がするんだけど?」

「アル兄ちゃん、明らか増えてるよ」

「あれで、少し?」

「アル様、気のせいじゃないっすよ」


 3人が呆れ顔でこちらを見たが、近寄ってきた。アラニャは「アル様は怒らせてはいけない事がわかりました」と訳の分からない事を言った。


 ダークマンティスも解体して、全ての素材と肉はマジックバックにしまう。何かあってからでは困るから浄化してからアラニャに魔石と肉をあげよう。


 その後で、まだ割れていなかった卵を僕らは端からマジックバックにしまい。アラニャには食べてもらった。本当にアラニャは美味しそうに食べるけど、やっぱりその姿を見ていると少し抵抗がある。


 全ての卵を入れ終わると、また利用されると困るので巣穴を壊しながら地上に戻る。外に出ると僕らはそれぞれ伸びをした。


 やっぱり外が良いね。


「だけどコタロウはさ、元々洞窟で暮らしてたよね?」

「アル兄ちゃん、こう言うのは雰囲気だから」


 なるほど、そう言うもんなんだね。だから、分かったからそんな目で見ないで。


 と言う事で、とりあえずスパイダーさん達の村に戻る事にした。


 帰りはもうマンティスに出会わなかった。全て倒せたのかもしれないね。


 だけど、ビックアントがまだかなり居た。まあ、これもスパイダーさん達が片付けてくれるだろうから良いね。


 そんな風に思いながらビックアントを倒しつつ、僕らはスパイダーさん達の村に戻った。

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