第43話 2つ目の家
魔力を抑え込む事にも慣れてすっかり意識しなくても抑え込んでいられる様になった。そして、ブランとカルラが迎えに来たので、僕はシュテンさんの村に帰る事にした。
もちろん帰る前に市場で食料を買い込んで、顔見知りになったお姉さん達にも挨拶をしておく。
そして、コルバスさんの商会にも来た。
入り口にいた男性に名前を告げるとすぐに「アルフレッド様、旦那様から聞いています。こちらにどうぞ」と別室に案内された。
綺麗な部屋の大きなテーブルに僕が頼んだ物が次々に乗せられていく。
まずは、コタロウとブランにカルラのそれぞれの体に合わせたマジックバック。
次に、みんなで使える野宿用の大きなテントと魔術具のランタン、もちろん浄化の付いた解体用のナイフも置かれた。これが洗浄も付いているから水場のない時の解体にとても良い。
後は、ブランの剣、コタロウの長い鉄の棒、カルラの弓が置かれた。
本人達が欲しがった物だけどさ、使うのかな?
まあ良いか。
こんな風にみんなの旅支度をしていたら、王都の事を思い出した。
王都では、何もわからずにコルバスさんとセバスさんが全部揃えてくれたけど、残念ながらサマルの街にはコルバスさんもセバスさんも居ないので、頼りはコルバスさんの部下の男性だ。
でも、この人も愛想が良いし、それに細やかな気配りが出来てすごい。
さすがはコルバスさんの部下だね。
「あと、コルバスさんにイザベラ様から頂いたタングステンのナイフの件『嬉しいです。ありがとうございます』と伝えてもらえますか?」
「はい、かしこまりました。アルフレッド様に気に入って頂けたなら、旦那様も喜ぶと思います」
僕らが笑い合った後で、僕は全ての品の支払いを済ませて、もう1度「ありがとうございました」とお礼を言って、コルバス商会サマル支部を出た。
そうそう、グリュゲル達の配達用のマジックバックはシュテンさん達が買って帰ったそうだ。頼もうとしたらカルラに「クェー」と止められた。
最後にカルラが持ってきた銀の髪飾りのサンプルに対する返事の手紙をイザベラ様から預かり、イザベラ様とナタクさんにお礼を言ってサマルの街を出てシュテンさんの村に向かった。
2日後、シュテンさんの村に着くと子供達が「おかえり」と寄って来たので、もちろんその頭を「ただいま」となでる。なでた後で子供にお土産の甘味の入った袋を渡すと「わーい」と食堂に入って行った。
入れ替えでシュテンさんが出迎えてくれる。
「アル様、おかえりなさい」
「シュテンさん、ただいま。変わりはないですか?」
「はい、大丈夫です」
「そうですか、これイザベラ様より預かりました」
僕が手紙を渡すとシュテンさんは「ありがとうございます」と受け取る。そこで僕は村を眺めた。
しっかりとした村壁に魔獣避けの輝石を埋めて呪字と紋様でその効果を高めたそうだ。これで自分達以外の魔獣は村に近寄らないと言っていた。
さらに四方の支柱に認識阻害の効果のある輝石を埋め込んであって、村を知らない人には村の存在を認識しにくくなっている。
しかも前回の教訓を生かして建物ごとに地下室を作りそれを地下道で繋いで、それを通って洞窟の避難所に行ける様にしたそうだ。
もちろん建物にも硬化の効果のある輝石を埋めてある。
僕が心配しないで旅立てる様に、みんなで考えてくれたんだね。
笑い合っているホワイトゴブリンとグリーンゴブリンの奥さん達が見える。ノームさん達は昼からお酒を飲んだのかすでに赤ら顔だ。ゴブリンやノームの子供達と遊んでいるグリュゲル達も楽しそうだ。
「もう安心ですね」
「はい、アル様のおかげです」
微笑んでいるシュテンさんを見ていたら、寂しさが込み上げて来た。
「では、僕らは数日後に次の街に旅立ちます」
「はい、コタロウの事、よろしくお願いします」
そう言ったシュテンさんも寂しそうだった。
コタロウのブーツがキツくなっていたので、ゴブリンの奥さん達が、全員分のしっかりしたブーツを作ってくれていた。
街に行く度にアズミさんとグルナさんが革の加工用品を買いそろえていたそうで、もはやその辺で買う物より作りが良い。
ちなみに、皮の下処理や製法などはノームさん達がテッドさんの先祖にそのやり方を教わり、昔から自分達の服や防具を作っていたそうだ。
素材のホーンボアの皮をしっかりと処理して、なめし革にしてから、魔法の紋様を焼印で押した後に、縫い合わせて行く。
何枚も革を重ねて丈夫に作ったブーツには焼き印で一番上の革に防水、2番目に硬化、3番目に軽量化などの効果が付与された。
ブランとカルラが人化した時の服も冒険者風の動きやすい丈夫な作りの物を作ってくれた。こちらにも硬化と軽量化。
その後でみんなの分のなめし革の胴当てと小手も新たに作ってもらった。こちらにも防水と硬化と軽量化の効果が付与されている。あとは外套、これにも同じ効果が付与された。
着てみたら、なんかノームさん達みたいで、なかなかにかっこいい。
そして、旅支度をしているとウルフのオーとローがやってきた。
2人も人化して、短い時間だけど人族の姿になれる様になった「アル様、改めて礼を言わせて下さい。ありがとうございます」とオーが頭を下げたので「やめて下さい、こちらこそ、いつもありがとう」と言っておいた。
2人には本当に助けられている。
普段の狩りもそうだけど、きっとグリュゲルの襲撃の時も、2人が居なければ、少なくとも怪我人が出ていたに違いない「これからもみんなの事を頼みます」と言ったら嬉しそうに微笑んでくれた。
数名のグリュゲル達も人化出来る様になった。主にカルラの母親と兄弟の様だけど、一律に進化しても、やはり強さには個体差が存在するらしい。
カルラは元々個体としてかなり強く、若いのに父親に次いで群れの2番手だったそうだ。
そして、里を襲われて追われた事で父親である頭は暴走した。自分の立場が揺らぐ事を恐れて、ノームさんの村を襲い、僕達に撃退された事で、後には引けなくなったそうだ。
まあ、今となってはこちらに怪我人もいないし、カルラ達にも頭以外被害もないと言う事だから良いね。
さらにカルラは進化した後で、自分の里を襲った鳥型の魔獣を倒して来たそうだ。
前にシュテンさんが言っていた、カルラ達が狩りをして来た鳥型の魔獣ってさ、もしかして……。
まあ、良いか。
そんな日々を過ごしていたら、僕達の旅立ちの日はすぐに来た。
涙を堪えてみんなと挨拶をかわす。
そこでドウジさんの息子のラセツと娘のラシャが、従者になったコタロウとコユキをうらやましがっている事を知った。
息子のラセツは兄さんと歳が同じだし、従者にしても良いかもしれない。
そのうちに引き合わせようか?
まあ、この辺の事は急いでも仕方がないので、とりあえず保留にしよう。
そのうちに機会があれば会わせてみても良いよね?
無理に会わせて無理強いしたくない。
そして、僕らはマルタの街へと旅立った。
少し歩いて振り返るとまだみんな入り口に立ってこちらに手を振っているので、大きく手を振る。
僕に2つ目の家が出来た。また必ず戻ってこよう。
そう思ったらなんかすごく嬉しくて涙が出てきた。
コタロウに「あれ? アル兄ちゃん泣いてるの?」と笑われたので僕は涙を拭う。
よし、次の街も頑張ろう。
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