第35話 新しい住人
グリュゲルによる村襲撃から数日後、食堂兼集会所でグリュゲル達は美味しそうに出されたホーンボアの肉を頬張っている。
僕の隣でも僕の従者となってカルラと名付けられたグリュゲルが満足げに肉を食べているけどさ……。
「あのさ、カルラ達は山に帰らないの?」
「クァ」
「いや、クァ、じゃないでしょ? 帰りなよ」
「クェー」
カルラは必死に首を横に振る。
「アル様、どうやらここを気に入ったみたいですね」
「シュテンさん、笑い事じゃないですよ。確かに偵察と羽をくれたら肉をあげると約束しましたけど、住み着いて良いとは言ってないですよね」
僕が首を傾げると、シュテンさんは頭を掻いた。
「狩りもして来ているんですよ。どうやら進化して飛ぶのがかなり速くなったみたいで、遠くまで行って鳥や魚の魔獣を獲って来るとアズミが言ってました」
「そうなのですか?」
「はい、魚なんてあまり食べた事なかったけど美味しいですよ」
なんと、ちゃっかり貢献してゴブリンさん達の好感度を上げているらしい。
なんか余計に憎たらしいね。
「ノームさん達はどうなんですか?」
僕はノームさん達を見たが、ノームさん達は嬉しそうに、グリュゲル達をなでたりしている。
「ノームさん達も打ち解けている様ですから、大丈夫そうですね」
「はい、アル様の従者同士ですから、仲違いすればアル様が悲しむ事を皆分かっているのですよ」
それについては、本当にありがたい。
なので、僕は「ありがとうございます」と頭を下げておいた。そして、仕方がないので、村の中にカルラ達が住む場所を作ってもらった。
鳥小屋だね。
その小屋の掃除は子供達の担当になったらしい。
だけどさ、やたら嬉しそうに子供達がグリュゲルを世話をするのが……何か怪しい。
そこで現場を押さえたら、どうやら高い木になる果物をお土産にしていたようだ。
慌てる子供達に「大丈夫だよ」と言った後で、カルラを見下ろす。
「カルラさ、何か企んでるの?」
「クェー」
「地位向上させようとか、小狡い事しているなら追い出すよ」
「クェー」
カルラは慌てた様に首を横に振る。
「じゃあ、何?」
「クァ」
「もしかして罪滅ぼし?」
「クァ」
カルラは一生懸命に頷く。
「仕方ないか、変な事したら本当に追い出すからね」
「クェー」
「信用ないのは仕方ないよね、自業自得だから」
「クェー」
不満そうなカルラを僕が笑顔で見ていたら、何か感じたのだろう「クァ」と小さく首肯した。
とりあえず後はカルラを信じるしかないね。
なので、僕はシュテンさんを探して声を掛けた。
「シュテンさん、一度サマルの街に行って来ても良いですか? カルラ達の事とか報告もしたいので」
「すみません、ガジルが井戸の汲み上げポンプの試作がもうすぐ出来るって言ってましたよ」
「そうですか、それじゃあ、それが出来てからにしますね」
あとは……。
「カルラ達の仕事はどうですか? 偵察とたまに鳥や魚の魔獣の狩りで良いですか?」
「そうですね。では一度サマルの街に連れて行って顔合わせした後で、荷物の運搬を任せますか?」
「そんな速いのですか?」
僕がチョコチョコと歩いて付いて来たカルラを見る。
「そうですね、かなり速いですよ。カルラに頼んで飛ぶところをご覧になったらどうですか?」
「カルラ、見せてもらって良い?」
カルラは「クァ」と頷くとサッと飛び上がる。
そして、空で軽く旋回した後で、物凄い勢いで何処かに飛んでいった。すぐに戻って来るとそのくちばしには何か挟まっている。
うん?
降りて来たカルラは、地面にくちばしで挟んでいた物を置いた。
これってさ、ノームさん達の村にあった木の食器だね。普通に歩いて3日の距離を一瞬で行って来たの?
「今の一瞬でノームさん達の村まで行って来たの?」
「クァ」
「速いね」
カルラが「クァ」と胸を張るので「でも、一瞬で行けるならさ」と言うと寂しそうに「クェー」と鳴いたので「悪かったよ」とその頭をなでる。
「カルラならサマルの街に行くのも一瞬ですね」
「そうですね。カルラが飛ぶのに邪魔にならない様なマジックバックが買えれば、物の行き来がかなり楽になります」
「それは凄いけど、カルラが飛ぶのに邪魔にならない大きさって言うのがどのぐらいなのか、よく見定めないといけないですね。運んでいる間に魔獣と出会ったり、バランスを崩して落ちたら怪我では済まないですよね」
「それは大丈夫です。カルラは飛行中に身体強化を使って雷をまとっているので、カルラにぶつかる物があればそちらがタダでは済まないし、落ちても体を強化しているので、怪我は軽いと思います」
えっ?
「誰が教えたんですか?」
「ブランです。最初の頃にどこかに行って帰って来たカルラが怪我していたのを見て、すぐに教えていました」
「さすがはブランだけど、ブランとカルラは話せるのですか?」
シュテンさんが「そうみたいです」と肩をすくめる。
うーん『ウォン』と『クァ』で通じるんだ。
まあ、どちらにしても身体強化がカルラに伝わったのは良かったね。
あれが使える使えないでは全然違う。
だけどさ、雷をまとっているから速いのかな。
そこで僕はカルラの体を確かめた。
「そう言えば、カルラの体の色は他の子達と少し違いますね。他の子達は薄い緑なのに、カルラは薄い黄色ですもんね」
「あぁ、まとっている属性だと思います。火をまとっている子は赤みがかっているし、風の子は緑が強い、氷の子は少し青いです。元からの属性なのか、グリュゲルは風をまとう子が多いですが」
僕がアングリと口を開くとシュテンさんは笑う。
「ガジルが昔、爺さんから話で聞いたエレメントバードと言う鳥に似ていると言っていました。火がファイアバード、風がウィンドバード、氷がアイスバード、雷はサンダーバードと言うそうです」
「なんか強そうですね」
「本当にエレメントバードなら強いと思いますよ。鳥の魔獣の中では中位種だそうなので」
シュテンさんがそう言うのでカルラを見た。
もしかしたらさ、僕達の中でカルラ達が一番強くなったんじゃないの? だってさ、きっとカルラには雷効かないよね?
「クェー」
カルラは慌てて首を横に振る。
「アル様、可哀想ですからやめてあげて下さい」
「えっ?」
「今、戦ってみようか考えましたよね。だけど、アル様に勝てるわけないですよ」
「そうですか?」
「そうですよ」
「クァ」
シュテンさんに苦笑いされて、カルラはひどく頷いている。
そうかな? 今ならカルラの方が強い気がするんだけど。
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