第34話 グリュゲル再び
そして3日後、シュテンさんの村に着くと何故かひっそりと静まり返っていた。
おかしい。
いつもなら広場で子供が遊んでいて、帰って来ればみんな寄ってくるのに……。
うん? 建物の屋根が少し壊れている!
それを確認した瞬間に。僕は走り出していた。村の中にはやはり誰も居ない。
どうなってるの?
僕が焦って周りを見渡していると、ブランが「ウォン」と吠えたので、僕が雷をまとった。
瞬間に上からグリュゲルが襲って来る。爪が僕にかかる瞬間に「クァァァ」とグリュゲルが嫌がった。
「コタロウ!」
「ライトニング!」
僕の呼びかけに応じて、飛びあがろうとするグリュゲルにコタロウの『ライトニング』が落ちる。僕はすぐにグリュゲルに駆け寄るとその頭を押さえつけた。
「どう言うつもり? 襲ってきたら倒すって言ったよね?」
グリュゲルが黙ったままで僕を見上げると、空にはたくさんグリュゲルが旋回している。
仕方ないのか、グリュゲルは魔獣だ。ためらえばやられるのはこっちだもんね。
僕は腰からナイフを抜いた。そして、その首元を刺そうとするとグリュゲルが「クェー」と鳴く。
その時、大きな風が吹いた。見上げると一際大きいグリュゲルがこちらを見下ろしていて、そのグリュゲルがサッと羽を動かすと、高速で羽が飛んで来た。僕はそれをナイフで「キン」と弾く。
うん? 僕が避けたら仲間に当たっていたよね?
地面に転がった羽はナイフで弾くと硬い音がなるほどに硬質だった。
あれが刺されば仲間もタダではすまないよね?
そこで、傷だらけで怯えきっていたグリーンゴブリンさん達の姿が頭によぎる。
大きなグリュゲルは再び羽をバサバサと動かすと、今度は突風が吹き抜ける。
ピシッと僕の頬を風が叩くと、僕の頬が切れた。だけど、僕が押さえていたグリュゲルもいくつか傷を負って「クァァァ」と鳴く。
僕がすぐに押さえていたグリュゲルを離すと、グリュゲルが空に飛び上がる。
大丈夫そうだね。
「コタロウ! ブラン!」
「ライトニング!」
「ウォン!」
上と下から雷が大きなグリュゲルを襲った。
大きいグリュゲルはブランの『ディスチャージ』をかわそうと翻ったが、コタロウの『ライトニング』の直撃を受けて落下して地面に叩きつけられた。
すかさずブランが『ディスチャージ』を飛ばして、グリュゲルが地面の上で暴れまわる。僕は動いていた。全身に雷をまとい暴れまわる大きいグリュゲルの翼を切りつける。
両方の翼を切りつけて飛べなくしてから、そのグリュゲルの頭を押さえつけた。
「クァ」
その声に反応して声のした方を見ると、1匹のグリュゲルが首を垂れる。それに合わせて他のグリュゲル達も大人しく降りて来て、その首を垂れた。
みんな体を伏せて、頭を地面につけている。
「うん?」
「どうやら服従の様ですね」
「服従ですか?」
「はい、降参って事です」
シュテンさんがそう言うので、僕がグリュゲル達を見ながら首を傾げると、シュテンさんは「そうですよね」と苦笑った。
「アル様には理解できないでしょうが、我々魔獣の群れは頭がやると言ったらやらないといけませんから、たぶんアル様が押さえているのが頭なのでしょうね」
「そう言う物ですか?」
「そう言う物です」
まあ、それなら仕方ないね。それよりも。
「みんなは無事でしょうか?」
「ホムラとカガリが居たのですから、みんな無事に洞窟に避難していると思いますよ」
僕がシュテンさんの言葉に首肯して、押さえつけていた腕を少し緩めた瞬間に大きなグリュゲルが暴れた。
首を大きく動かして暴れたので、僕はとっさにバックステップで間合いを取る。すると一番初めに伏せたグリュゲルが複数の羽を飛ばして来て、その羽が大きなグリュゲルに突き刺さった。
大きなグリュゲルは「クァァァ」と叫んだ後で、横倒しに倒れて、その目から光が消えた。
やっぱり、僕には覚悟が足りないな。
僕が「ありがとう」と羽を飛ばして来たグリュゲルの頭をなでると、グリュゲルは「クァ」と鳴いた。
よっぽどこの子の方が覚悟を持っている。
「この子達はどうしますか?」
僕が問いかけると、シュテンさんが苦笑いで「そうですね」と言った。それからそのグリュゲルを見る。
「こちらの条件は、この先、アル様とアル様の仲間に手を出さない事。この辺の上空を見張って鳥の魔獣を退治する事。それからたまに羽を分けてくれるなら、こちらは森の魔獣の肉を分ける。どうだ?」
シュテンさんが聞くと、グリュゲルは僕を真っ直ぐに見た。そして、シュテンさんに向き直り「クァ」と鳴く。
シュテンさんがそれに頷いて、ガジルさんとグルナさんを見ると、グリュゲルも2人を見た。
「俺達はアル様に救われて被害は出てないし、アル様が許すなら良いよ。だけど、そいつはアル様の従者にしろよ。それが最低条件だ」
「分かった」
と言う事で僕はグリュゲルと主従契約をする事になったけど、まだ確認が必要だよね。
「シュテンさん、洞窟に確認に行ってもらえますか?」
僕がお願いすると、シュテンさんが「分かりました」と洞窟に向かう。その背中を見ながら僕は思った。
みんなが無事じゃない時、僕はどうするんだろうか。
胸がドキドキと高鳴る。
その後すぐに洞窟からホムラさんとカガリさんを先頭にゴブリンさん達とノームさん達、それからウルフのオーとローの家族が出て来たのを見て、僕はホッとして、息を吐き出した。
「じゃあ、主従契約をするけど、大丈夫?」
グリュゲルが「クァ」と頷くので、僕はアズミさんを見る。
「もらって来た布でもし人族みたいになったら、その……」
「分かりました、お任せ下さい」
アズミさん達が動き出したので、洞窟から出てきたみんなにも事情を説明して、お腹の空いているグリュゲル達に焼いた肉を配ってもらった。それに怪我したグリュゲル達にはポーションをかける。
だけどさ、元から結構怪我しているね。
アズミさん達の準備も終わった様なので、主従契約をする事にした。
服従を示して大人しくしているグリュゲルは全部で100匹、かなり大きいから村全体に広がっているが、布の用意が出来ると、男性陣には男性の、女性陣に女性のグリュゲルを囲んでもらってから、僕は一番最初に服従を示したグリュゲルと主従契約を結ぶ。
やっぱりね。
眩い光に包まれた後で、グリュゲルはかなり小さくなった。
あれ? 人族ぽくなったら困ると思っていたけどさ。
姿は鳥のままで、僕の3倍以上の体格があったのに、僕の半分以下の大きさになった。
えっと……。
「あの、小さくなったけど、退化?」
僕がグリュゲルを見ながら首を傾げると、グリュゲルは「クェー」と首を横に振り、シュテンさんがその光沢の増した羽を見ながら「進化したって言っているみたいですよ」と笑った。
グリュゲル達の進化の後で、ドウジさんとホムラさんとカガリさんを呼んだ「どうしたんですか?」と心配していたが「ゴブリンキングの魔石の浄化が終わったから、食べてくれる?」と僕が笑うと3人は快く食べてくれた。
そして、光に包まれると、みんな肌が小麦色になってドウジさんは髪と眉毛、まつ毛と体に浮き出た柄が黄色、ホムラさんとカガリさんは赤色になった。
あのさ、もうグリーンゴブリン要素がないんだけど?
3人が「どうですか?」と笑うので「2人は凄くかっこいいし、カガリさんは可愛いですよ」と僕も笑うと喜んでくれた。
うん、本人達も喜んでいるし、きっとまた強くなったから良いね。
ちなみにホワイトゴブリンさん達もシュテンさんの進化に伴いみんな進化したけど、やっぱりグリーンゴブリンさん達もドウジさん達の進化に伴い進化した。
ズラリとみんなが並ぶと、本当になんかもうゴブリン要素がないね。より人族みたいになったと思う。
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