第33話 変化と選択
数日、フィアナさん達が話し合いをしている間に、ゴブリンキングの魔石が浄化されて戻って来たので、コタロウに魔石を食べてもらった。
魔力量を増やそうと思っていたんだけどさ、おかしいね?
魔石を少し食べたコタロウがまばゆい光に包まれた。
光が収まった後のコタロウは、髪やまゆ毛、まつ毛が黄色になり、胸や肩などにも黄色でブランと同じ様な柄が入った。
あのさ、それになんかまた人族に近づいていない?
少し色は白いけど、服を着て角を隠したらゴブリンって絶対わからないよね? だいたいさ、進化って何回もするの?
僕はコタロウと2人で顔を見合わせて首を傾げた。
うん、考えても分からないね。そう言う物なのだろう。
そして、姿の変化したコタロウを見たシュテンさんは苦笑いで頭を抱えて、アズミさんは「かっこいいわよ」と言いつつも腹を抱えて、コユキは「お兄ちゃんだけ、ズル」と呟いた。
コタロウはほんの少し食べたら変化したので、まだゴブリンキングの魔石は全然残っている。
その事を3人に伝えるとコユキは喜んで、シュテンさんとアズミさんはなんとも言えない顔をした後で「また私達で試すのですね?」と苦笑いを浮かべた。
うん、ごめんね。
結局、諦めた2人と喜んでいる1人がゴブリンキングの魔石を少しずつ食べると、やはり眩い光に包まれた後で、髪やまゆ毛、まつ毛の色が変わり、体に柄が浮き出た。
だけどさ、髪やまゆ毛、まつ毛、それに浮き出た柄の色もみんな違うね
シュテンさんは橙色、アズミさんは青色、コユキは水色。
これって得意属性が関係あるのかな?
僕はなんて思ったが、もちろん分かるわけないので、とりあえずみんなを見て「うん、かっこいいですよ」と微笑んでおく。
シュテンさんは「そうですか?」と頭を掻いて、アズミさんは「やっぱりこうなるのね」と呟いて、コユキは「よし」とガッツポーズをした。
まあ、概ね喜んでいると言う事で良しとしてね。
残った魔石はドウジさんやホムラさん、カガリさんに食べてもらう事になった。
それからまだ話し合いが続いているので、僕はマジックバックに詰め仕込んでいた素材などを引き取ってもらいに行った。
ギルドに行って、指定された作業台に素材を置いて行くと、テッドさんが紹介してくれた職員が呆れ顔で、倉庫に案内してくれる。
僕が倉庫に素材を全部出すと、商業ギルドの職員は、その素材を大まかに、冒険者ギルドの職員と半分にして計算を始めた。
どうやらあの日僕を子供扱いしたお姉さんがフィアナさんに泣きついて、僕が持ってきた物は冒険者ギルドと商業ギルドで半分にすると事前に決めていたらしい。
まあ、僕としては買い取ってもらえるならどちらでも構わないけどね。
計算を終えると結構な金額になったので、そのお金でまた野菜とパンを買い込む事にした。
コユキはいつもイライザとブランと遊んでいるので、市場にはアズミさんとコタロウ、それからグルナさんと一緒に行く。グルナさんは話し合いに飽きたから気分転換だ。
そのうちに野菜の栽培とか、蜜を集めたりとか出来ないかな?
顔見知りになったお姉さんの店の全ての野菜を買って、マジックバックに詰め込みながら、僕は「お姉さん、野菜の栽培は大変ですか?」と聞いた。
お姉さんはニッコリ笑うと「大変だよ。手をかけないと良い実がならないし、天候に左右されるからね」と返答を返してくれた。
そうだよね。そんな簡単には行かないだろう。しばらくは狩りと鍛治でお金を稼いで、ここで買った方が良いかもしれない。
「ありがとうございました」
「何言ってんだい。礼を言うのはこっちだよ。ありがとね。また寄っとくれよ」
「はい。また来ますのでよろしくお願いします」
僕が頭を下げると。お姉さんは僕の頭を優しくなでてくれた。
ちなみに野菜を詰め込んでいるのは、お爺様がシュテンさんの村の為に用意してくれた、僕と同じリュック型のマジックバックだ。
今回、この食べ物用を3つと、ウェストポーチ型の素材や鉱石用3つを用意してくれた。森の中を歩くのに手が空いていて、動きやすい方が良いもんね。
なので、リュック型の時間停止が付与された食材用を3人にも担いでもらって、市場の端から買った野菜とパンをどんどん詰めた。もちろん、女性や子供達に人気のあの甘味も忘れない。
甘い物は良いよね。
でもさ、気がついたらアズミさんが端の方の店でお酒を大量に詰め込んでいる。
まあ、良いか。だけど暴れたりしないでね。
と思いながらアズミさんを見ていたら、アズミさんが良い笑顔をする。
「アル様、私のじゃないです。ガジル達に頼まれた物ですよ」
アズミさん、鋭い!
それからセバスさんに頼んで、主従契約の首輪も用意してもらった。今回は30個。使わなければそれで良いけど、足りなくなると困る。
今回は人数を絞ったのにギリギリだったもんね。
セバスさんが『だから言っただろ?』って顔をしているが、言葉に出さないのはさすがだ。
なので、もう分かったから、そんな目で見ないで欲しい。
数日後、フィアナさん達との話し合いが終わったので、サマルの街を立つ事になった。でも何故か、見送り側にコユキがいる。
「うん? コユキはなんでそっちにいるんだ?」
「イライザの従者になる」
「良いのか?」
「アル様、初めからそのつもりだった」
僕はシュテンさんとアズミさんを見た。
シュテンさんはなんとも言えない顔をしていたが、アズミさんは「うちにはまだ下にフウタもいるし、次がもう居ますから」とお腹をさすっている。
「本当に良いんですか?」
「娘が決めた事です。好きな様にさせてやりたい」
そう言うとシュテンさんは笑ってくれたので、僕は「ありがとうございます」と頭を下げる。
「イライザ、コユキ、仲良くするんだよ。イライザ、主従契約でも自分が上のつもりになったらダメだからね」
「言われなくても分かっているわ、アル兄。それから、コユキに引き合わせてくれてありがとう、コユキは最高の友達だわ。あとは、ブランも置いて行ってくれるともっと最高なんだけど」
「うん? それは僕に死ねって事? 知らない森の中ではブランがいないと死ぬよ」
僕がそう言って首を傾げると「それは嫌」とイライザは顔をしかめてから仕方なく納得してくれた。
だけどイライザはここ数日ずっと一緒だったせいもあって、最後までブランを名残惜しそうにモフモフしている。もちろんここにコユキも参戦しているのだが。
うーむ、ウルフのオーとローの子供達の話がコユキから漏れたらやばそうだね。早めに何か手を打たなくては行けない。
そして、それぞれが挨拶を交わして、僕達はサマルの街を立った。
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