第32話 希少な物

「それでアルフレッド、グリュゲルなんだが、どの辺に巣を作って、どの程度の規模かわかるか?」

「場所は分かりますけど、規模は分からないです」

「そうか。ふーむ、領内だし、かなり数が多いなら放っても置けないな」


 お爺様が腕を組んで考え込むと、ブルースさんが僕を伺う様な目で見てきた。


「例えばなのですが、アル様がもう1度偵察がてら行って、もう少し羽を手に入れて来てもらう事って可能ですか?」

「えっと、羽ですか?」

「はい、グリュゲルの羽は貴重なので」

「出来ると思いますけど、どれぐらい欲しいのですか?」

「出来れば5体分の羽が手に入れば嬉しいのですが」

「それはかなりの量ですね」


 僕が驚くとお爺様が「なるほどな」と頷く。


 うん?


「アルフレッドには関係ないかもしれんが、来年は王女様の成年の儀がある。ブルースはその際に献上するガウンの素材が欲しいのだ」


 お爺様は「フフッ」と笑ってブルースさんを見た。


「今年の年末から来年の頭にかけて、様々な思惑の者達が王族からの受けを良くする為にいろんな品を送るのだ。王女もお前と同じで今年で15歳、適性検査をお受けになったから晴れて王族の1人として認められた。そこで来年の頭に成年の儀を受けられて、その先、人前に出る時はガウンを羽織るのだが、グリュゲルの羽は風の加護が付いている。ガウンには最適だ」

「そうですか」


 僕が頷くとお爺様は「クククッ」と笑った。


「王族への献上と言った途端にやる気を失いおって、不敬にあたるぞ」

「だって、そんなどうでも良い話でグリュゲル達から羽を奪って来る気にはなれませんよ。襲ってくるなら考えますけど」

「確かにそうだな、ブルースの出世の為だけに取りには行けないな」


 お爺様が大仰に頷くから、ブルースさんは小さくなった。


 えっと? 


「出世するのですか?」

「あぁ、もし王女が気に入ってご愛用の品となれば、男爵位を得る事が出来るかもな」


 うん? 


「あの、ブルースさんが貴族になったらサマルの街に残ってくれるんですか?」

「えっと? アル様?」


 ブルースさんは困惑した表情をしたが、お爺様は再び「クククッ」と笑った。


「アルフレッドは、ブルースがこの街付きの貴族になってシュテンさん達を守ってくれるならグリュゲル5体分の羽を用意するのもありかな? って思っているのだ。そうだよな? アルフレッド?」

「はい、お爺様」


 僕が首肯すると、ブルースは慌てた様子で前のめりになった。


「アル様、本当ですか? もちろん男爵になった際はこの街付きの貴族としてシュテンさん達を守ると誓います」

「出来れば儂からも頼む。変な貴族に任せるよりは少しだけブルースの方が安心だ」

「分かりました。もらえるか分かりませんが、グリュゲル達の様子を見に行って、出来たらもらって来ます」


 ブルースさんが「ありがとうございます」と僕の手を取ったので、2人でガッチリと握手を交わした。僕はその後でお爺様を見る。


「それでお爺様は何が欲しいのですか?」

「うん? なんの事だ?」

「フィアナさん達を遠ざけたんですから、お爺様も何か欲しいんですよね?」


 お爺様は僕を見ながらニヤニヤして「なるほど、これがバッシュの言っていた野生の勘か」と呟く。


「アルフレッド、ゴブリンキングの剣をくれないか?」

「良いですよ」

「そうだよな、貴重だもんな、ダメ……えっ?!」

「「良いのか!?」」


 お爺様とブルースさんが急に立ち上がったので、隣で話していたフィアナさん達も、遊んでいたイライザ達も驚いてこちらを見ている。


「あぁ、驚かせてすまぬ」


 お爺様とブルースさんが席に着くと前のめりになってヒソヒソ声になった。


「本当に分かっておるのか? 浄化して鍛え直せば、ロックカトラスと言う初級聖剣になる。刀身は片刃で短く、初心者でも扱いやすい」

「しかも土魔法の加護があるから、護身用に女性や子供が持つのに良いとされています」

「えっと、よく分からないですけど、お爺様から王女に送るのに最適なんですよね?」


 お爺様が「そっ、そうだな」とどもると、ブルースさんが「王女様ご愛用となれば、また侯爵に近づきますね」と笑う。


「あのう、イゴール様、コソコソやっても全部聴こえているんですけど」


 フィアナさんが良い笑顔をこちらに向けた。


「領主様がお孫様にたかっているのを見たくないんですけど」

「フィアナ、人聞きが悪いぞ、たかっているのではない、頼んでいるのだ」

「そうだぞ。だいたい、フィアナだって爵位が見えて来ているじゃないか。お前だけ、アル様の恩恵を得ようなんて、ズルいぞ!」


 ブルースさんの言葉を聞いて、フィアナさんは頬をヒクヒクさせた。


「言っておきますけど、私は王女様に貢ぐ物をアル様にたかったりしてませんよ」

「うん? 何言ってんだ、フィアナ。お前もしかして気付いてないのか? 今から銀細工の髪飾りをアクアマリンで作ってもらえ、状態異常耐性の付いた髪飾りならきっとご愛用になる。初めからお前か、俺のどちらかが爵位を得て、この街とシュテンさん達を守るって話だろ?」


 ブルースさんは笑いながら首を傾げた。


「お前はもう少し鼻を鍛えろ、そんなんじゃ、貴族ではやって行けないぞ」

「もしかして、テッドは気がついていたの? だからさっきからアクアマリンで話を!?」

「フィアナ、これからだ、大丈夫。初めからイゴール様やブルースみたいにはいかないさ。特にフィアナは真っ直ぐだからな。俺が支えるから気にするな」


 フィアナは「ごめんなさい、ありがとう」っと俯いた。お爺様は黙ってそれを見守った後で、僕を見る。


「それから、アルフレッド。お前、お忍びの意味を本当に分かっているんだよな?」

「お忍びですか?」

「そうだ。お前が儂の孫だと知れれば、儂に不満を持っていても、不満をお前に話さない。そこまでは分かるか?」


 僕はもちろん「はい」と返事をする。


 分かるよ。僕がお爺様の孫だと分かれば、お爺様に不満があっても僕には言いづらいよね?


「本当に分かっているのか?」


 うん? 


「あっ、名乗ってはいけないんですね?」


 僕がそう言うとお爺様は安堵した顔をして「そうだ」と頷いた。


「お前はこれから王都にある商家のおせっかいなアル坊ちゃんだ。いざと言う時までアルフレッド・グドウィンと名乗るな」

「分かりました」


 僕がニッコリと笑って返事をすると、お爺様は心配そうに眉をよせる。


「アルフレッドにいざと言う時を判断させるのは無理だな。シュテンさん、アルフレッドの旅には誰かついて行ってくれるのか?」

「はい、イゴール様。うちのコタロウがついて行くつもりです」

「そうか。ではコタロウに判断は任せる」


 コタロウが「はい」と返事をすると、お爺様はセバスさんに目配せした。セバスさんは小さく頷くと綺麗な飾りの入ったナイフをコタロウに手渡す。


「それは我が家の家紋が入ったナイフだ。うちの領地の者なら誰でも分かる。いざと言う時はそれを見せて名乗るが良い」


 コタロウはお爺様の言葉に再び「はい」と返事を返した。


 その後で僕はマジックバックからゴブリンキングの剣と魔石をセバスさんに渡す。剣と一緒に魔石も浄化してもらい、後で返してもらう事になった。


 これはコタロウに食べてもらうつもりだ。


 この先も旅に同行するなら、出来るだけ魔力量を増やしておいた方が良いよね?


 フィアナさん達の話し合いは、まだまだ続くようなので、しばらく僕達は屋敷に泊めてもらう事になった。


 それぞれ個室を与えられたが、イライザとコユキはすっかり仲良しになってしばらくはブランと一緒に3人で寝るそうだ。


 シュテンさんは少し寂しそうにしているが、2人が仲良しになって良かったと思う。

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