第31話 話し合い

 テーブルに出した物を全てマジックバックに戻してから、商売についての話し合いになった。


 もちろん、イライザとコユキは飽きたんだろうね。隅の方でブランをモフモフしている。


 女の子同士仲良くなったんだね。


 コユキを連れてきて良かった。イライザはいずれ学園に行く際に連れて行く従者が欲しいと言っていたので、そのうちにコユキを引き合わせるつもりだった。


 互いが気に入ればそう言う話になるだろうから、あとは二人次第だね。


 ちなみに、コタロウは眠そうに欠伸している。


 真面目に話をしているのは、お爺様と、ブルースさんにフィアナさん、テッドさん、こちらからはシュテンさん、ドウジさん、ガジルさんにグルナさん。


 僕とアズミさんは一応話は聞いているが、心ここにあらずでさっきから微笑ましいイライザとコユキとブランのやり取りを眺めていた。


「お爺様、なるべくシュテンさん達が損しない様にしてあげて下さいね」


 僕がお爺様にお願いすると、シュテンさんが困った様に笑う。


「いえ、私達は十分過ぎるほどアル様に助けて頂きました。なので、サマルの街とイゴール様に恩返ししたいと思います」


 僕が首を横に振る前に、お爺様が「孫の従者からむしり取るわけないだろ、安心しろ。アルフレッド」と笑ってくれたので、僕は小さく頷いた。


「それで、ノームさん達はどんな物が作れますか?」


 フィアナさんがワクワクとした顔で身を乗り出す。


「ある程度の物なら図面を頂ければ出来ると思いますよ」

「そうですか、例えば、井戸の汲み上げポンプなどは作れるのでしょうか?」

「それの図面がありますか?」


 ガジルさんが聞くと、お爺様がセバスさんを見た。セバスさんは頷いて退出するとすぐに図面を持って来た。


「前にこの街に作った物の図面だが、これで分かりますかな?」

「はい、なるほど。これは複雑ですが、俺も進化しましたし、作業場も新しく作ったので、挑戦したい気持ちはあります。お預かり出来るならやってみますけど」

「では、それをお持ち下さい。壊れてしまったこの街の設備なのだから、我が家がお金もだそう」


 お爺様が頷くとフィアナさんは喜んで「イゴール様、ありがとうございます」っと言っている。


「それからこの街の特産になる様な少し特殊なものは作れますか?」

「特殊ですか? うーむ、じっちゃんから受け継いだ技術があるので、ミスリル鉱があれば、武器など作る事が出来ますが、そもそもゴブリンの洞窟ではミスリル鉱は取れないよな?」


 ガジルさんに振られて、シュテンさんは頷く。


「うん、見た事ないな、ドウジはどうだ?」

「俺も見た事ないです。銀なら取れますが……」

「銀でも多少は珍しいけど、特殊とまでは言えないよな」


 シュテンさん、ドウジさん、ガジルさんのやり取りにお爺様も頷いている。


「グルナさんのされている髪留めはガジルさんが作ったものですか?」

「はい、ノームは結婚する時に自分で作った物を送るんです」

「それは素敵ですね」


 フィアナさんは胸の前で手を合わせて「銀を使って細かい細工で作れば、売れると思いますが、もう一押し欲しいですね」とグルナさんの髪留めを見ながら呟いた。


 なるほど、もう少し派手になれば良いのかな?


「では輝石を使ったらどうですか?」

「アル様?」

「ゴブリンさん達の洞窟に小ぶりでも良ければ、たくさんありましたよ。あれを使ってみたら良いんじゃないですか?」

「確かにそうですね。華やかにすれば、パーティー好きの貴族達が買いそうです」


 僕の意見にフィアナさんは食いついたが、隣のブルースさんは首を傾げた。


「でも輝石ってガーネットは魅力をあげるとか、オニキスは魔獣避けになるとか、アクアマリンは状態異常耐性とか、サファイアは知力があがるとか、そんな効果があるけど、どれも気休め程度だろ?」

「ブルース、効果なんて少しあれば良いのよ。中央寄りの貴族女性にはほとんど関係ないわ」


 そこでガジルさんが「いや」と言いながら顎に手を当てた。


「銀は石の効果を高める力があります。そこにデザインで呪字や紋様を入れてやれば、そこそこ効果も期待出来ると思いますけど?」


 ガジルさんの言葉に、お爺様は「それじゃな」と頷く。


「この街の特産はそれで行こうか。それで、1つ気になる事があるのだが、ガジルさん達は今までどの様にして品物を売っていたのか、聞いても良いですかな?」

「イゴール様?」

「いや、儂も一応領主だからな、もしガジルさん達から買った物を商業ギルドを通さず売買していた商人がいるとするなら、そのままにして見過ごす訳にはいかぬのだ」

「すみません。お話できません。代々我らを守る為に家長となる者にしか私達の事は話していないと言っていました。なので我らが信頼を裏切る訳にはいかない」


 ガジルさんが頭を下げると、お爺様は「それなら仕方ないな」と顎をさすりながらテッドさんをチラッと見た。


「イゴール様、ガジルさん達の商品はきちんとギルドを通して販売しておりましたので、領地に悪影響を与えていない事を保証します」

「テッド、やはりお前か」


 そう言うとお爺様は笑う。


「機会はあったのにお前が商人になりたがらなかったのも、ギルドマスターになりたがらなかったのも、ガジルさん達の事があったからだな?」


 テッドさんは「はい」と返事をした後で、諦めた様に笑った。


「ある日父に呼ばれて初めてガジルさん達に会った時は驚きました。魔獣なのに私達と何1つ変わらない。背は少し小さいですが、陽気な良い人達でした」


 テッドさんは顔を引き締めてお爺様を見た。


「我が家は代々ずっと彼らと共にギルド職員として生きて来ました。不正も行っておりませんし、領地に対して悪影響も与えておりません」

「テッド、分かっておる。儂だってフィアナを支えて来たお主を信じておる」


 お爺様はニヤリと笑った。


「だけどな、ガジルさん達がテッドを見ていたし、テッドもガジルさんとグルナさんが紹介された時にひどく驚いていたからな、知り合いなのだろうと気付いたのだ。それで試す様な真似をした。すまなかったな」


 お爺様が優しく笑うとテッドさんは目を見開いた後で嬉しそうに笑った。


「ではフィアナとテッドはガジルさん達と先程の話を詰めてくれ。窓口は今まで通りテッドが良いだろう。その方がガジルさん達も安心だろうからな。儂とブルースはアルフレッドからグリュゲルの話を聞かねばなるまい」

「「分かりました」」


 と席替えが行われて、僕をお爺様とブルースさんが囲んで座った。

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