第30話 ゴブリンさん、街に行く

 3日ほど森の中を移動して、サマルの街に戻ってきた。


 とりあえず、みんなには門のところで待っていてもらって、僕はブルースさんとフィアナさんを呼びに行く。


 忘れていたけどさ、従者じゃないコユキは街に入れたらまずいよね?


 まあ、従者の娘だし、話せるから大丈夫だと思うけど、ギルドには冒険者がいっぱいいるし、やっぱりゾロゾロとみんなを連れて行くのは気が引ける。


 なので、待っていてもらって慌ててギルドに行った。


 だけど、ブルースさんにフィアナさん、それからテッドさんも連れて戻ると案の定、門の前では騒ぎになっていた。


 僕達はさらに駆け出して、野次馬の人垣を割って前に出た。


 どうやらコユキが何やら態度の悪い男に腕を掴まれているようだ。なので、僕は「僕の従者達が、何かしましたか?」と声を掛けた。


「うん? もしかして小僧がこいつらのご主人様か? たくさん従者がいて金持ちの子供は良いな? だけどこの娘は従者じゃないよな? だから俺がもらってやるよ」

「いえ、あげません」


 僕はそう言ったが、男は聞こえていないのか? 話が通じていない。


「連れて行くって言ってんのにさ、こいつらは馬鹿ばかりで、ご主人様に騒ぎは起こすなと言われているから手を離して放っておいてくれって言って聞かなくてさ」

「すみませんが、本人も嫌がっていますので手を離してもらえますか?」

「ガキが喚くな!」


 その瞬間にブルースさんが、僕の肩を掴んだ。


「アル様、ここはどうか、お許しください」

「誰だ、お前?」

「この街で冒険者ギルドのギルドマスターをしております。ブルースです。すぐに手を離して頂けますか? この街でその様な振る舞いはおやめ頂きたい」

「ギルドマスター程度が言うじゃないか? 俺はグドウィン家の親戚筋にあたる男爵家当主の息子セルゲイだ。良いからお前はそこの小僧を黙らせろ! 俺を怒らすとイゴール・グドウィンが黙ってないぞ」


 そう言った瞬間に、フィアナさんとテッドさんが「ブフッ」と吹いた。笑いが堪えられないのだろうか? 口を押さえて前屈みになりプルプルと震えている。


 あのさ、それは失礼じゃないの?


 僕がそんな風に2人を見ていたら、近くに止まっていた大きな馬車から「誰が許さないんだ?」と声が聞こえて扉が開く。


 そして、執事にエスコートされた人が降りて来た。


 うん? セバス? お爺様? なんで?


「じじいがしゃしゃり出るな、イゴール・グドウィンだ。この地の領主様が黙ってないぞ」

「なるほど、それはおかしな話だな。儂が儂を怒るのか?」

「「えっ?!」」


 だろうね、その場にいた僕以外の全員が青くなった。


「アルフレッド、どうなっている? この男はなんだ?」

「お爺様、僕にもわかりません。僕の従者の娘を勝手に連れて行くとか、ガキが喚くなとか、俺を怒らすとイゴール・グドウィンが黙ってないと言っていますが、僕が旅に出てからグドウィン家はそんなモノに成り下がったのですか?」

「どうかのう? 最近はジェームズに任せきりだからな。セバス、どうなっている?」


 お爺様の側に立っていたセバスが「その様な小物貴族の事は分かりかねます、イゴール様」っと素敵な笑顔で返事を返したところで、男はコユキから手を離して逃げようとしたけど、あっという間にセバスに取り押さえられた。


 首をセバスの膝で押さえつけられて、地面に顔を押し付けられながらもまだ何か吠えているが、男の人の付き添いの者達は、誰もそちらを見ないようにして動かない。


 てか、この状態では動けないよね?


 まあ、後はセバスに任せて放っておこう。


「コユキ、大丈夫? 怖い思いさせてごめんね」


 僕がそう言うとコユキが抱きついてきたので、その頭をなでたが、僕の胸に顔を埋めながら小さく「よし」とか言っている。


 大丈夫そうだね。


「みんなも大丈夫でしたか?」

「大丈夫ですよ。アル様の言いつけ通りに騒ぎを起こさない為にシュテンを押さえるので大変でしたが」

「ごめんなさい、ドウジさん、ありがとう。シュテンさんもすみません」

「「いえ、アル様が謝る事ではありません」」


 みんながそう言って笑ってくれたので安心した。


「それでアルフレッド? その方達は誰だ?」

「お爺様、みんな僕の従者でこちらからホワイトゴブリンのシュテンさん、その妻のアズミさん、息子のコタロウ、それから娘のコユキ、グリーンゴブリンのドウジさん、ノームのガジルさんとその妻のグルナさんです」

「なるほど、どこから突っ込んで良いのか、分からないが、アルフレッドだから仕方ないな。分かった、立ち話もあれだ。館で詳しい話を聞こうじゃないか? ブルース、フィアナ、お前達もそれで良いな?」

「「はい」」


 と言う事で、サマルの街にあるグドウィン家の館に来た。誰も住んでいないのに、きちんと執事さんと数名のメイドさんが待機していた。


 そして、応接間に通されて、とりあえず今日までの話をお爺様とブルースさん達、それからイライザに話した。


 どうやら僕からの手紙を理由に、お爺様は執務から逃げ出してサマルの街まで気分転換に、イライザはブランをモフモフしに来たらしい。


「なるほどな、途中いくつか意味が分からない所があったが、つまり、そちらのノームさんが作る品物をこちらは買い取って、代わりに食料や布などの品物を提供すれば良いのだな?」

「そうですね。その辺の話は僕には難しいので、シュテンさんとガジルさんの2人に聞いてもらえますか?」


 お爺様は額を手で押さえて「そう言うところは相変わらずか」と呟きながら「ハァ」と息を吐いた。


「それで、ゴブリンキングの剣と魔石、グリュゲルの羽は持っているのか?」


 僕は「はい」と返事をしてテーブルにマジックバックからそれらを出した。なぜだかお爺様だけでなく、ブルースさん達までが息をのむ。


「ブルース、どうだ?」


 お爺様がブルースさんに確認すると、ブルースさんは1つ1つを確認した。


「間違いなく、闇落ちしたゴブリンキングの剣と魔石、それからグリュゲルの羽です。やはり只者ではないですね。アル様は……」


 ブルースさんが僕を見ていると、フィアナさんがブルースさんを覗き込む。


「ブルース、やっぱりすごいの?」

「そりゃあ、すごいだろ? ゴブリン500人以上を率いる王で、闇落ちしてなくてもその力は下級の中ではそこそこだよ。アル様が倒してくれなければ、きっとこの街にも少なからず被害が出ていたと思う」

「「えっ?!」」


 僕も含めてその場にいた全員が驚いた。


 確かにあいつは自信満々だったね。


「しかも、闇落ちしていたのなら、この剣に切られてかすり傷でも負わされれば、浄化しないと回復できないし、闇を瘴気として飛ばしてくると聞く、とんでもない相手だよ」

「それを倒したの? アル様は?」

「そうだ」


 そこでフィアナさんは呆れ顔でこちらを見たが、テッドさんがひどく頷きながら「俺は初めからアル様が只者じゃないって分かってましたよ」と胸を張った。

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