第27話 グリュゲル

 外に出たらブランとコタロウを入り口に残して、僕は1人で少し歩いて止まる。


 そこで身体強化の魔法は強めにかけて、グリュゲルが降りて来るのを待った。体の中を雷が流れるのをイメージすると、僕の周りの空気が「バチッ」と弾ける。


 すぐにグリュゲルは勢いよく降りて来て、その爪を僕に向けて伸ばして来た。


 僕は体に流す雷を一層強くして雷をまとう「ビビッ」と空気が振動した瞬間に「クァァァ」とグリュゲルが嫌がった。


「コタロウ!」

「ライトニング!」


 飛びあがろうとしたグリュゲルに雷が落ちて、グリュゲルが落下する。グリュゲルはパニックになって、地面に羽を叩きつけながら暴れてまわった。


 そこで、もう1匹が降りてきた。再び僕に爪を伸ばしてきたので、僕は魔力を強くする「クァァァ」とグリュゲルが嫌がる。


「ブラン!」


 ブランの体から『ディスチャージ』が飛んで行って、グリュゲルがビリビリと痙攣をして地面に叩きつけられた。


 僕はそこでナイフを抜いて、地面を蹴る。そして、地面で暴れているグリュゲルの頭を押さえて、首にナイフを突き付けた。


「とりあえず、今回は許すけど、次に襲ってきたら倒すから、仲間にも伝えてくれる」

「クァ」

「本当に分かった?」

「クァ」


 グリュゲルがそう言って僕の顔を見るので、とりあえず解放してあげた。それを見てブランも『ディスチャージ』を止める。2匹は慌てて飛んで行った。


「よし、終わったね。ついでに落ちている羽を拾って帰るからコタロウ手伝って、ブランは上だけ見といてくれる?」

「分かった」

「ウォン」


 グリュゲルなんて初めてだし、このままにして置くのはもったいないので、速やかに羽を集めて持って帰る事にした。綺麗な薄緑色の羽を全て拾って、マジックバックに詰める。


 しばらく待っていたが、もうグリュゲルは降りて来ないみたいなので3人でノームさんの村に戻った。


 先程みんなが集まっていた部屋に入ると、何故かノームさん達はみんな平伏している。


 うん?


「ガジルさん? どうしたんですか?」

「これまでのご無礼、お許し頂きたい」

「いや、全然気にしてないですよ。グリュゲルは追い返したので、とりあえずみんな食事をして元気になって、これからの事を話し合ってください。僕はどうしたら良いかとか分からないけど、出来る事なら協力しますから」


 僕が手を貸してガジルさんを立たせると、ガジルさんは恐縮しながら立ち上がる。他のノームさん達も続いたけど、先程の男の人はまだ平伏したままだった。


「俺はあなたに失礼な事を言いました。許してください」

「だから、気にしてないですって。それにお腹が空いていたせいですよ。グリュゲルを追い返したらこの先の事を考えてくれるんですよね? なら早く食べてみんなで話し合ってください」


 男の人は顔を上げてもう一度、申し訳なさそうな顔をしてから「ありがとうございます」と立ち上がり食事を始めた。


 みんな嬉しそうに食べてはいるが、心からは喜べないのだろう。この山の上にはたくさんのグリュゲルがいる。


 グリュゲルが馬鹿じゃなければ、僕らがいるうちは襲って来ないと思うけど、居なくなれば分からないもんね?


 僕はマジックバックから甘味の袋も出して、グルナさんに渡した。グルナさん達がそれを配るといくぶん笑顔が見えた。


 甘い物はホッとするよね?


 みんな食べ終わると「ありがとうございます」とか「少し元気が出ました」と頭を下げてくれる。


 そこから話し合いが行われた。


 いろんな意見が出たけど、どの意見も最終的には「やっぱり村を捨てて出て行くしかない」と言う結論になるのだがその度に「どこに行くのか?」って事でもめた。


 僕はその様子をブランをモフモフしながら、黙って見ていたけど、隣に座っていたコタロウが立ち上がる。


「ガジルさん、とりあえず僕達の村に避難したらどうですか?」

「コタロウ?」

「グリーンゴブリンもアル兄ちゃんの従者だからもう安全だし、ガジルさん達が住む場所もすぐ作れると思うよ」

「コタロウ、ありがたい申し出だけど、俺達は洞窟で地面にそのまま寝るのは……」


 なるほどね。部屋を見渡すと確かに生活ぶりがシュテンさん達より人族に近いかもね。


 基本石造りだけど、木もうまく使っているし、建具も家具もある。


 鍛治もやると聞くし、やっぱりノームさん達は手先が器用みたいだ。それに鉄で釘などを作れるのもでかいね。なるほど。


「こうしたらどうですか? シュテンさん達も進化して器用になりましたから、シュテンさん達からは鉱石、それから場所を提供します。なので、ノームさん達は技術や知識を提供してくれませんか?」

「アルさん?」

「数日は我慢してもらう事になるかも知れないけど、シュテンさんの村をガジルさん達が住みやすい様に作り替えれば良いじゃないですか? 他に行く場所ないんですよね?」


 僕が首を傾げるとガジルさんは不安そうな顔をした。


「アルさんを信じていない訳ではないのですが、本当にグリーンゴブリンは大丈夫ですか? あいつらは言葉が通じないですよね?」

「うん? あぁ、もう通じますよ。みんなコタロウみたいに進化しましたから」

「みんな進化って500人がホブゴブリンになったのですか?」

「いや、申し訳ないんですが、300人しか救えなかったです。それにホブゴブリン? たぶんそれに300人がなったから、みんなまだ練習中だけど普通の会話なら話せますよ」


 ガジルさんだけではなく、ノームさん達全てが驚いたように目を開いてザワザワとした。それをガジルさんが「静かに」と諌める。


「信じられないならとりあえず避難するって形でも行ってみれば分かりますよ」

「アルさんは、我らを受け入れてくださるのか?」

「僕は難しい事は分かりません。だけど、シュテンさんは皆さんを心配してたから受け入れてくれると思いますよ」


 そのあともしばらく話し合いは続いたけど、とりあえずはシュテンさんの村に避難する事になった。


 みんな家財のほとんどを諦めて、待てるだけの荷物を持つと言う事なので、各家をまわってマジックバックに入るだけ家財を入れた。


 もうパンパンだけど、家具などを除いてほとんど入れられたと思う。


 そして、まずは僕が外に出た。やっぱりグリュゲルは襲って来ない。


 これで大丈夫かな? 


 ブランとコタロウと3人でしばらく上を見たけど、グリュゲルは全く来ないので、ノームさん達の移動を開始した。

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