第26話 ノームさんの村
コタロウの案内で森を歩く事2日、森を抜けた先の山肌の所々に小さな窓が沢山見える。
「アル兄ちゃん、着いたよ。ここがノームの村」
「うん、案内ありがとう。それにしてもたくさんの窓があるね。それで、これってどこから入るの?」
僕がキョロキョロとしていたら、目の前の岩肌についていた扉が開いて、中からゴブリンを横に大きくして髭を生やしたような小さいおじさんが顔を出した。
「お前達、こっちに来い!」
「あぁ、ガジルさん、こんにちわ」
「挨拶なんて良いから、すぐ来い!」
どうやら慌てているようなので、僕とコタロウは顔を見合わせた後で、ブランと共にその入り口まで走る。
入り口から中に入ってガジルさんが扉を閉めると、何かが降り立った風圧で扉と小さな窓がガタガタと鳴った。
僕が窓から外を見ると、僕らが居た場所には人を掴んで飛び去る事が出来そうなぐらいに大きな鳥が居たが、周りを少しキョロキョロした後で諦めたのか? すぐに飛び上がった。
危なかったね。
「ガジルさん、ありがとう」
「うん? お前は誰だ?」
「僕だよ、ホワイトゴブリンのシュテンの息子、コタロウだよ」
「コタロウ? お前、進化したのか。しかし……」
ガジルさんは驚いたようにコタロウを上から下まで見た後で、顔をしかめた。
「その首輪は従者の証だな。人族に従者にされたのか? 村はどうなった? シュテン達は無事なのか?」
「うん、こちらのアル兄ちゃんに従者にしてもらったんだ。村も大丈夫だよ、みんな元気。それにお父さんもアル兄ちゃんの従者だし」
「こんな小僧にやられたのか、たくさんで襲ってきたのか? 確かに連れている従者のホワイトウルフは強そうだが……」
ガジルさんが険しい顔で僕を睨みつけるので、コタロウは慌ててシュテンさんの村で起きた事を説明した。
「にわかには信じられないな。こんな小僧が、闇落ちしたゴブリンキングを倒したのか?」
「ガジルさん、本当だよ」
コタロウが悲しい顔をした。
でも信じられないよね。分かるよ。
「信じてもらえないのは悲しいけど、それについての判断はガジルさんにお任せします。それでシュテンさんからノームさんの村が心配だから様子を見て来て欲しいと言われて来たんですけど、あの鳥はなんですか?」
「奴はグリュゲルだ、この山の上に巣を作ったらしくて、それで俺達は村から出れなくなっちまった」
「食料は足りていますか?」
「いや、もうすぐにでも底をつくだろう」
ガジルは首を横に振った後で項垂れた。
「そうですか、ではまずは食料を出しますので皆さんで分けてください。それからあの鳥、グリュゲルを倒せば、問題解決ですか?」
「いや、倒してもまた他が来る。グリュゲルは群れで生活するからな。この山の上にはいっぱい居るんだ。この村はおしまいだよ」
「では、まずは腹ごしらえですね」
僕はマジックバックから肉を取り出してそれをガジルさんに見せた。
「お腹が減っていたら気持ちも落ち込みます。どこかに皆さんを集めてください」
「なにが狙いだ? 俺達は人族なんぞに従属しないぞ」
「はい、構いませんよ。シュテンさん達がノームさん達を心配していたから来ただけなので、他に目的はありません」
ガジルさんが「フン」と鼻を鳴らして「信用できるか!」と怒鳴る。そこでコタロウが眉を寄せた。
「でもさ、もう食べ物ないんだよね? そんな事言っていられるの? アル兄ちゃんを信用するもしないも無いんじゃない?」
「コタロウ?」
「うちの父さんなら迷わないよ。それがリーダーでしょ?」
コタロウにそう言われて俯いたガジルさんは「分かった。すまない」と頭を下げて「分けてもらえるだろうか?」と言うので、僕は「もちろんです」と微笑んだ。
ガジルさんに連れられて食堂のような場所に来た。
ノームさんは全部で300人ほど、とりあえず先に肉と野菜とパンを出して、ガジルさんの妻であるグルナさんに渡して調理を頼んだ。
みんなお腹を空かしていたんだろう。
並んだ料理に喜んだのだが、食材が人族である僕から提供されたと聞いて複雑な表情を浮かべた後で、ガジルさんやグルナさんに文句を言い出した。
あまり人族に対して、良い感情を持っていないようだね。
ガジルさんは立ち上がると、手を振ってみんなを制した。
「言い分は分かる。俺だってよく知らない人族などを頼りたくない。だけどな、もう食べ物の残りが少ないんだ。頼む。今は耐えてくれ」
ガジルさんが頭を下げたが、1人のノームさんが立ち上がった。
「もうどうせ先がないのに、こんな物を食べて何になる?」
その発言にガジルさんの顔が険しくなった。
「諦めるな。活路はきっとあるはずだ」
「ふん、ここまでガジルの言う通りに我慢して来たが無駄じゃないか? こうなればみんなでここを飛び出して、誰かが犠牲になっている間に逃げた方が良い」
「そんな事……何度も言っているが、お前やお前の妻や子供が犠牲になるかも知れないのだぞ」
「あぁ、分かっている。でも、数人の犠牲で他が助かるんだ。このままでみんな飢え死ぬよりよっぽどマシだろ?」
男を追従する様に数人が立ち上がって声を上げる。ガジルさんはそれを見ながら悲痛に顔を歪めた。
「戦わないんですか?」
「グリュゲルと? 馬鹿言うな、相手は飛んで襲いかかってくるんだぞ、しかもこちらからの攻撃は避けられて、すぐに空に逃げられちまう。そんな事もわかんねぇのか?」
「じゃあ、僕達が戦って撃退したら大人しく食事をして、この先の事を考えてくれるんですね?」
「あぁ、追っ払えるならやってみろ」
僕は「分かりました」と返事を返して立ち上がるとブランとコタロウを呼ぶ。
「アル兄ちゃん、どうするの?」
「うん、僕がおとりになるから、二人はグリュゲルが降りてきたら雷で攻撃してくれる?」
「うん、分かったよ」
「ウォン」
2人の返事を聞いて、僕はコタロウとブランの頭をなでてから外に出た。
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