第24話 ゴブリンキング

 その日来たゴブリンキングは人族に近い姿をして、闇をまとっていた。


「この前はやってくれたな。でも今回はそうはいかないぜ。だが俺も鬼ではない、そこの娘を我妻に寄越せば、楽に死なせてやろう」


 ゴブリンキングはコユキを指差しながらそう言ったが、もちろんコユキをやるつもりもないし、みんなを殺させるつもりもない。


 それに、彼は鬼ではないって言ったけどさ、ゴブリンキングって小鬼だよね?


 ……角あるし。


 僕が首を傾げると「アル様、鬼の件は気にしないで良いと思いますよ」とアズミさんが「プフッ」と笑う。


 アズミさん、鋭い!


 ゴブリンキングを睨みつけていた、シュテンさんが顔をしかめた。


「厄介ですね。前回とは明らかに姿が違うし、言葉も話せるようになっている。奴も進化したみたいです」


 あれ? 進化したの?


「だけど、周りにいる他のグリーンゴブリン達は進化してないですよね?」

「たぶん、もう奴を主人と認めていないのでしょう。奴は闇堕ちしてますから、おそらくはこの前の傷を治す為に仲間をかなりの数食べたのではないかと思います」


 仲間を食べたの? 自分が助かる為に?


 それを聞いて怒りが込み上げた。


 シュテンさん達と生活して来たせいで、ダメなんだけど正直に言えば、グリーンゴブリンを倒す事に少しためらいもあった。


 だから、なるべく襲って来るグリーンゴブリンを追い返して、もちろんこちらからは倒しに行かなかった。


 僕は何度も追い返せば、そのうちに諦めてくれるのではないかと期待していたんだ。


 それは甘い考えだった。


 まさか、キング自らが自分を慕う者達を殺して食べるなんて思わなかった。


 戦闘が始まると、闇落ちしたゴブリンキングの力は圧倒的だった。


 身体強化で硬化したシュテンさんは切り付けられて、奴の攻撃を流れるよう避けたはずのアズミさんが吹き飛ばされた。


 シュテンさんの切り口は闇がこびり付き、アズミさんの体にも闇がまとわりついている。僕は駆け寄ってすぐにポーションをかけたけど、その傷は回復しない。


「ふん、俺を倒さないとそいつらは回復しない、まあ、俺を倒すのは無理だと思うがな」


 ゴブリンキングが誇らしげに言う。


 だけどさ、倒せば助かるって事だよね?


「コユキ、シュテンさん達を抱えてみんなと一緒に下がっていてくれる?」


 コユキは「はい」と返事をすると他のみんなと一緒に下がる。


 ゴブリンキングが「ハハハッ、無駄だ。貴様らは俺に触れる事も出来ないのだ」と高笑いする。僕は気にしないで、ゴブリンキングの周りに居たグリーンゴブリン達にも話かけた。


「君達も巻き込まれるから、少し下がっていてくれる?」


 グリーンゴブリン達は驚いた後で「グルル」と頷くと少し下がってくれた。


 どうやら他より大きい3人は話しは出来ないけど、他の子達より知能が高いらしい。手で周りのゴブリンをかばいながら下がる。


「なんの真似だ?」

「もうあなたを慕う者はいないって事だよ」

「馬鹿めが! ならばこの場でみんな死ね!」


 ゴブリンキングが怒りと共に大きく闇を広げようとしたので、僕は「コタロウ!」っと叫んだ。


「ライトニング!」


 雷がゴブリンキングに落ちる。


「ブラン!」


 ブランが『ディスチャージ』をゴブリンキングに浴びせて、僕はその間に魔力をまとった。周りの空気が「ビリビリ」と振動する。


「クソガァァァ!」


 と叫んで闇を使って『ディスチャージ』を退けたゴブリンキングに向かって、僕は足を踏み出した。ゴブリンキングの胸を僕はナイフで切り裂く。


 だけど、切られたゴブリンキングは余裕でニヤリと笑った。


 僕はすぐにバックステップで回避したけど、ゴブリンキングが剣を振るった衝撃波で闇が飛んできた。回避したはずの僕はそれを受けて飛ばされる。


 闇が体にまとわりついた。体がズシンと重くなって、だるい。この闇はまずい。僕はなんとか魔力をまとって体を動かす。


 まだ大丈夫だけど、奴はあの程度の傷なら回復する。ダークウルフもそうだったもんね。


 あれ?


 だけど、ゴブリンキングの傷が治らない。


 ゴブリンキングも「なぜだ」と慌てているが、ブランの『ディスチャージ』が飛んで「ガァァァ」と苦しみ出した。


 この間に、僕はナイフでゴブリンキングの右腕と脚を切りつける。


「ふざけるなぁ」


 ゴブリンキングは闇をまとった左腕でブランの『ディスチャージ』を払い除けたけど、でも見るからに弱っている。闇は弱いし、腕の傷も足の傷も治らない。


「諦めて投降した方が良いんじゃない?」


 僕が首を傾げると、ゴブリンキングは「フン」と鼻で笑う。


「俺はゴブリンキングだぞ、弱き人族などに降るわけないだろう?」


 そして、ゴブリンキングは笑ったままで、左手に握り直した剣で自らの体を突き刺した。その場にゴブリンキングが崩れ落ちて、僕にまとわりついていた闇が消える。


 なので、僕はすぐにシュテンさんとアズミさんのところに駆け寄ってポーションをかけた。


 今度はちゃんとその傷が癒やされて、苦しそうに寄せていた眉間のシワが取れたので、隣で心配そうに見ていたコユキの頭をなでた。


 大丈夫だね、良かった。


 僕は立ち上がると周りでこちらを見ていたグリーンゴブリンの方に歩み寄った。先程の3人がまわりをかばうように1歩前に出る。


「僕達はこれ以上、争うつもりはないよ」


 僕がそう言うと3人が「グルル」と言いながらひざまずいた。なので、僕は「そんな事はやめてよ」と言って立たせて3人の膝の土を払う。


 そして、1人1人と手を取ると「仲良くやっていこう」と手を繋いだ。


 ゴブリンキングを処理して、剣と防具、魔石をマジックバックにしまう。亡骸は隅の方に土魔法が得意なホワイトゴブリンさんが穴を掘って埋めた。


 その後で、シュテンさんとアズミさんの回復を待ってグリーンゴブリンさん達の住処に来た。


 大勢のグリーンゴブリンさん達が怯えたようにこちらを見る。怪我をしている人達も多いし、女性や小さな子供も沢山いた。


 真ん中の広場まで来たら、あの3人の中で1番大きい人にみんなに集まってもらうように言った。その人は頷くとすぐにみんなを集めてくれる。


 全部で300人ほどのグリーンゴブリンさんがいた。まずはポーションをかけて怪我人を回復する。その後で、手分けして住処の掃除とグリーンゴブリンさん達の体と服を綺麗にした。


 少しくさいし、このままだと病気とかも怖いからね。


 1番大きい人、この人はゴブリンリーダーらしいけど、この人にドウジさんという名前をつけた。1番大きい人じゃ、呼びづらいからね。


 ドウジさんに食料を渡して、みんなで分けて食べるように言うとドウジさんはみんなに配った。


 だけど、その様子を見ていたら、どうやら階級制度があるみたいで多く食べる人とあまり食べられない人がいる。


 うーん。


「アル様は気に入らないみたいですね?」

「うん、ごめん。あんまり好きじゃない」


 シュテンさんは笑うとドウジさんに説明を始めた。


 どうやらドウジさんもこちらの気持ちをすぐに理解してくれたみたいで、改善が行われた。女性や小さい子達も沢山食べられて嬉しそうにしている。


 食べている途中なのに、みんなが僕のところに寄って来て口々に「グルル」と言いながら僕の手を取る。


 ありがとうって言ってくれてるんだね。嬉しい。


 なので、みんなの頭をなでて「気にしなくて良いよ。食べ物は沢山あるからいっぱい食べてね」とその気持ちに答えた。


 グリーンゴブリンさん達はみんな嬉しそうに食べている。その姿を見ていたら少し心が痛んだけど、あのゴブリンキングを倒せて良かったと思った。


 どう考えてもこの子達はゴブリンキングに良いように使われてやらされていたんだ。


 うん、全部倒してしまわなくて良かったね。

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