第23話 それぞれのイメージ

 ホワイトゴブリンさん達は進化に伴い、魔力量がかなり増えたので、身体強化の魔法を教える事にした。


 この身体強化が使える、使えないでかなり違うからね。もちろん力や強さもそうだけど、一番はタフさが違う。


 僕みたいなひょろっこい子供がギルドマスターと殴り合えるのは身体強化の魔法のおかげだし、殴られても耐えられるのもそうだ。


 なので、具現化は出来なくてもこれは全員にマスターしてもらいたい。


 だけど、僕に教師は無理だね?


 うん、それは自覚している。うまく説明できる自信がない。


「と言う事で、まず今日はシュテンさんとアズミさん、コタロウで試したいと思います」

「アル様? どう言う事ですか? 試す?」

「うん、とりあえずなんとなくやり方教えますので、やって見てなんとなくマスターして下さい」


 シュテンさんは「なんとなく」と口の中で呟き、隣でアズミさんが腹を抱えて、コタロウはなぜかワクワクした目で見て来る。


 やめてね、コタロウ。期待が大きいと落胆も大きいパターンだよ、それ!


「よし、とりあえずやってみましょう」


 僕はシュテンさんとアズミさんの手を取ると、魔力で手を温かくした。そして、温度を上げたり下げたりする。


「これ分かりますか?」

「はい、これが身体強化の魔法なんですね」

「うん」


 僕がニッコリするとシュテンさんは呆れ顔になり、アズミさんは「ブフッ」と吹き出した後で、また「ケラケラ」と笑い出した。


「それで、どうやるのですか?」

「うん、なんか火をイメージするって言ってましたよ。体の中でこうボッと燃えたり、チョロチョロ燃えたりさせるって言ってました」

「うん? 言ってましたってのは、アル様は違うのですか?」


 シュテンさんが首を傾げているので、僕は「うん」と首肯した。


「僕はうまくイメージ出来なかったから、体の中に雷を流すイメージでやっているんですよ」

「イメージが大事なのですね」

「うん、強くイメージ出来る物が良いみたいです」


 今度はアズミさんが真剣な顔をした。


「アル様、どんな物をイメージしても良いって事ですか?」

「うーん、分かんないですけど、お湯が沸騰するイメージの人もいたと言っていました」

「お湯ですね。私はそっちの方がイメージしやすそうです」


 とりあえず、シュテンさんとアズミさんには試行錯誤してもらうとして、コタロウの手を握って同じ事をした。


「兄ちゃん、雷だろ?」


 コタロウがニヤリとするので、僕は「うん」と返事をする。


 えっ? あれ?


 コタロウの手はすぐに温かくなり、さらに僕と同じように温度が上がったり、下がったりする。


「コタロウ、出来てる、すごいね!」


 コタロウは嬉しそうに「ヘヘヘッ」と笑った後で、シュテンさんとアズミさんにイメージの仕方と、体に流す感覚を丁寧に教えていた。


 えっと? どんな風に説明していたのか知りたい?


 ごめん、聞いてても良く分からなかった。


「と言う訳で、3人は出来る様になりましたから、これをみんなに伝えてくれますか? 何をイメージしても、どんなやり方をしても良いので、出来る様になって欲しいです」

「分かりました、これが出来ると出来ないではかなり違いますもんね」

「うん、だんだんと長く流せる様になったり、流せる量が増えるから、まずは使って見て慣れて行ってください」


 3人は「はい」と頷くとみんなに教えに行った。そこでブランを見るとすでにオーに「ウォン」と言いながら説明している。


 うん? 僕が役に立ってない? 


 そんな事は……ないよね?


 ちなみにシュテンさんは土、アズミさんは水、コタロウは雷、コユキは氷をイメージしたらしい。


 同じように教えているのに、みんなイメージ出来る物が違うのが面白い。そして、これを使うようになると、もうみんなグリーンゴブリンに遅れをとる事はなくなった。


 それにだんだんとグリーンゴブリン達の襲撃の数も減って、村の中の壁や床の整備もどんどん進む。


 土魔法で棚やベッドを作ったり、ベッドや椅子には敷物として加工前の皮を敷いたりして、小部屋1つ1つが小さな家みたいだ。


 生活水準がかなり上がったと思う。


 アズミさん達が作る胴当てもとりあえずみんなの分がそろった。


 胴当てを身につけたら、みんながさらにかっこよくなった、良いね。


 もう1つ、主従契約をしてみんなが進化してから、コタロウは常に僕とブランと行動するようになって、狩りも一緒に行くようになった。3人で連携すると、狩りの速さがまた速くなる。


 僕がホーンボアを解体していると手伝ってくれているコタロウが首を傾げた。


「兄ちゃん、魔法ってどうやって飛ばすの?」

「うん? なんか火の玉は『ファイアボール』て言いながら飛ばしてきてたよ。僕はやり方分からないけど」

「そうなんだ」

「シュテンさん達で飛ばせる人いないの?」

「うん、いないと思う」


 身体強化は使った事ないみたいだったけど、土魔法は使っていたし、戦いの時に土で壁を作ってみんなを守っていた人がいたと思うけど、飛ばせる人はいないのか?


 いや、そもそも戦いに魔法を使っているイメージがないね。だってさ、元々は木の実とかキノコとか食べてたんだもんね。


 僕は「そっかぁ」と言いながら、解体したホーンボアの素材をマジックバックにしまう。


 もしかしてさ、僕は戦闘集団とか作ってないよね?


 工夫されて強化された服を着たシュテンさん達がカッコいい武器を手に持って、ニヤニヤとするところを想像をしたけど、僕は首を横に振って嫌な妄想を打ち消した。


 いや、ない! 絶対にない!


「試しに『ライトニングボール』て言いながら飛んでいく雷の玉をイメージしてみたらどうかな?」

「兄ちゃん、玉ってどんなの?」


 僕はコタロウに向けて「こんなの」と手で形を作って見たが、コタロウは首を傾げた。


 うん、確かにイメージし難いと思う。


「兄ちゃん。雷をそのままイメージしたらどうかな? 『ライトニング』て相手に落ちる感じ」


 コタロウはそう言った後で、岩に向かって手をかざして「ライトニング」と唱えた。そしたら岩に向かって雷が落ちる。


「コタロウ、すごいよ!」

「出来たぁ」

「ウォン!」


 3人で盛り上がった後で、僕も岩に手をかざして「ライトニング」とやってみたがもちろん出来ない。


「「……」」


 うん、泣かないよ。


 と言う事で、コタロウはなんと『ライトニング』を覚えた。ちなみに、僕の後にやったブランは岩に向かって自分にまとった雷から放電『ディスチャージ』を飛ばした。


「えっと? なにそれ?」

「すごいじゃん、ブラン!」

「ウォン!」


 と言う事でこちらにも挑戦してみたが、僕もコタロウも出来なかった。


「「……」」


 よし、僕も後で新技を考えよう。


 そしてその日、僕とブランとコタロウが狩りに行っている間にすごい事が起きた。


 なんとシュテンさんの村を、ゴブリンキングが率いる300人前後の群れが襲って来たけど、僕とブランとコタロウ抜きのみんなだけでこれを撃退出来たのだ。


 なので、僕とブランとコタロウはそれから数日、逃げて行くゴブリンキングの可哀想な姿の話をみんなから聞く羽目になった。

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