第22話 誕生と進化
その日も早朝から僕とブランは狩りに出ていた。
ファングラビットを仕留めて解体しているとブランが「ウォン」と鳴く。
「どうかしたの?」
「ウォン」
「分かった行こう」
僕はすぐに解体の終わったファングラビットをマジックバックに詰めて、走り出したブランの後ろをついて行った。
ブランが向かった先では、ウルフとホーンボアが戦っている。
ホーンボアは3匹だし、ウルフさんは見るからに傷だらけだ。ブランが割って入ったので、僕もウルフさんに加勢してホーンボアを3匹倒した。
ブランとウルフさんが「ウォン」と鳴きながらどうやら話をしているみたいなので、ウルフさんにポーションをかけて傷を治して、僕はホーンボアの解体を始めた。
1匹終わるとブランが来て僕の背中を押す。
「どう? 話し合いは終わったの?」
「ウォン」
そして、ブランに押されながらウルフさんについて、ウルフさんが守っていた洞穴の中に行くと、ウルフさんの奥さんだろうか、丸くなってうずくまっていた。
よく見るとお腹が大きい。
「子供が産まれるの?」
「ウォン」
「守りたいんだね」
「ウォン」
ブランの気持ちは分かる。傷だらけになりながら奥さんを守るウルフさんの姿は、すごい父親だった。
もちろん僕も応援したい。
だけど、シュテンさん達の事もある。
シュテンさん達をあのままにして、僕が産まれるまでここにいる訳には行かないよね?
「ブランはここに残って助けてあげて、僕はコタロウとの約束を守らないと行けないから」
「ウォフ」
ブランが首を横に振ると、ウルフさんの奥さんは立ち上がる。
「もしかして、シュテンさんの村に連れて行くの?」
「ウォン」
「彼女は大丈夫なの?」
「ウォン」
「まだ産まれないんだね?」
「ウォン」
ブランとウルフさん達は、僕を真っ直ぐに見た。
「分かったよ、連れて行くからちょっと待ってて、先に外のホーンボアを解体するから」
「「ウォン」」
ブラン達は嬉しそうに吠えた。僕はそれに頷いて外に出て速やかにホーンボアを解体する。
解体した後でブランとウルフさん達を連れて、ゆっくりとシュテンさんの村に帰るとシュテンさんに事の次第を説明した。
すぐにウルフさんの奥さんの為に寝床が用意されて、アズミさん達女性陣が出産の準備をしてくれる。テキパキとした様子を見ているとシュテンさんが寄ってきた。
「出産の時に男は役に立ちませんよ。邪魔になりますからアズミ達に任せましょう」
僕が「はい」返事をすると、シュテンさんは笑って僕に頷いた。
そこから数日でだいぶ村が変わった。
前にホワイトゴブリンさん達とグリーンゴブリン達が戦っていた村の前の広場からの通路は、入り口と出口に壁が設けられてさらに両サイドを埋められて、人1人だけしか通れなくなり、さらに床が綺麗に慣らされて戦いやすくなっている。
みんなの服の製作も始まった。
まずは皮を加工した革の裁断だそうだけど、もちろん僕にはよく分からない。
「アル様は、細かい事は気にしないタイプなんですね」
「うん。よく分からないや、ごめんなさい」
「いえ、お気になさらずに。細かい事なんて良いんですよ。とりあえず、皮が革になって、それが服になります」
アズミさんはそう言って、優しく笑ってくれたけど、なんか申し訳ないね。
そして、その日は来た。
ウルフの出産、6匹の元気な子ウルフが生まれた。お父さんも嬉しそうだ。お母さんを舐めた後で順番に繰り返し子供達を舐めている。
ブランもなんだか誇らしげに僕の隣で胸を張るので、その頭をなでた。
うん、気持ち分かるよ。
そして、ウルフのお父さんが僕のところに来て「クゥーン」と鳴くと僕の主従の腕輪を舐める。
「うん? どうしたの?」
「クゥーン」
僕の事を一度見上げてから、また主従の腕輪を舐めた。その後でブランが来ると僕の主従の腕輪を鼻でツンツンする。
「どうやらウルフはアルさんに従属したいようです」
そう言ってから、シュテンさんは真っ直ぐに僕を見た。
「私もお願い出来ますか?」
「シュテンさん?」
「出来れば従者としてアルさんに仕えたいと思うのですが……」
苦笑いを浮かべたシュテンが頭を掻いた。
「兄ちゃん、もちろん僕はしてくれるよね?」
「コタロウ?」
「あら、私は入ってないの?」
「アズミさん?」
結局そこから全員にお願いされたけど、首輪をそんなに持っていない。セバスが100個持たせようとしたけど、10個にしてもらったからね。
なので。ウルフのお父さんとお母さん、シュテンさん、アズミさん、コタロウが僕と主従契約をする事になった。
もちろん、コユキは「ブウブウ」と言っていたが、コユキには他に主従契約をして欲しい人がいるからと説得した。
「みんな、本当に良いんだね?」
僕が再度確認するとみんなはそれぞれ愚問だと言う内容の事を言ったので、マジックバックから首輪を5本出した。
次の街に行ったらとりあえず補充しておいた方が良いかな?
そして、みんなが首輪をつけると眩い光に包まれて、僕は目を閉じた。
えっと? ブランの時、こんな事になったけ?
僕が目を開くと、ウルフのお父さんとお母さんにはブランと似たような柄が入り、シュテンさん達は少し人族みたいになった。
「えっと、シュテンさんだよね?」
「はい、アル様」
ニコニコしているシュテンさんは、髪とか皮膚とかみんな白いけど、見た目が少し人族みたいになって、肉付きが良くなり、背も僕と変わらなくなった。
これはもはや小鬼ではないね?
「進化したの? ゴブリンキング?」
「アル様、違います。魔獣の進化は複数の形があるらしいのです。例えば眷属の数で進化する場合は、ゴブリンは眷属30人でゴブリンチーフ、100人でゴブリンリーダー、300人でゴブリンジェネラル、500人でゴブリンキングとなります」
シュテンさんはそこで、自分の体を確認した。
「もしくは、今の我々のようにイレギュラーな形で進化する者がいます。私達はどうやらその様々な要因をクリアしたようです」
「だけど、シュテンさん達だけではなく、みんな変わっているよ」
「それは多分、皆は私の眷属扱いなのでしょう。これでも一応、ゴブリンリーダーですから」
なるほどね。ってよく分からないけど、きっと、そういう物なんだね。
あとは僕がいくら考えても分からないと思うので、気にしない事にした。とりあえず、進化したならみんな強くなったんだろう。
うん、良かった。
そして、ウルフのお父さんをオー、お母さんをローと名付けた。
オーはシュテンさんの助手として、ローはアズミさんの助手として働き、ここで暮らしてもらう事にした。
オー達の家族だけで森の中で暮らすのはまた何があるか分からないし、狩りなどの手伝いや、もちろん戦力としてもシュテンさん達の助けになる。
何よりなでると気持ちが良い。僕がモフモフしてやると二人とも気持ち良さそうにした。
ウルフの子供達もそれぞれ大きくなったら誰かの助手にするそうだ。もうその辺はシュテンさんとオーに丸投げした。
ここはみんな満足げだから良いね。
それからシュテンさん達は見た目が人族っぽくなり、少し大きくなったせいで服が小さくなった。
特に簡単な作りの革の服は、あちらこちら肌が出ているので、目のやり場に困る。なので、すぐに女性陣がお直しを始めた。
アズミさんを筆頭とした、女性陣も進化で器用さが増したそうでやる事が速い。あっという間に、みんなの分の革でできた半袖、半ズボンの服を揃えた。
だけどさ、それはお直しと言うより、もはや作り直しだよね?
それから手足が長くなったので、革の端切れから、コテやすね当て、ブーツも僕のを真似て作られた。
女性陣は本当にすごい。
全員の服が直されて、コテやすね当て、ブーツなどが揃うと、みんなさらにカッコよくなった。次の革ができ次第、順次胴当てを作るそうだ。
楽しみだね。
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