第21話 ホワイトゴブリン

 洞窟内のシュテンさんの村に着くと、すぐにシュテンさんの妻であるアズミさんが来た。


 シュテンさんから事情を聞くと、アズミさんは僕に頭を下げる。


「アルさん、この度は夫と息子、それから仲間達を助けてくださり、ありがとうございます」

「いえ、コタロウと約束したので気にしないでください」


 アズミさんにそう断りを入れて、シュテンさん達の住処に案内されると、地面に敷かれたゴザに座る。


「それで、村はどの様な状況なのですか?」

「はい、私どもはこちらで150名ほどで暮らしているホワイトゴブリンです。人族の皆さんがレアっと呼ぶ魔獣で、我々は知性が高く言葉も話せます」


 僕がシュテンさん達を見渡した後で「レアなんですね」と言うと「アルさんの従者のホワイトウルフと一緒です」とシュテンさんは頷いた。


「それで少し前まではグリーンゴブリン達とも上手く棲み分けて暮らしていたのですが、最近にグリーンゴブリン達が襲ってくる様になりまして、それでコタロウが勝手に交流のあるノームの村に助けを呼びに行った様なのです」

「そうだったのですね」


 僕が頷くとコタロウは申し訳ない様な顔をしたので、シュテンさんがそれに気が付いて、その頭をなでる。


 そうだよね。良かれと思ってやったのだ。しかも、それで僕とブランを呼べた訳だからね。結果的に良かったはずだ。


「グリーンゴブリン達の異変の原因は分かりますか?」

「彼らは話が出来ないので予想になってしまいますが、もしかしたらゴブリンキングが生まれたのかもしれません」

「ゴブリンキング?」

「はい、ゴブリンの王です。500人ほどの群れを率いると言われています」


 なるほど、最低でも500対150は厳しい。それに……。


「どのくらいの方が戦えますか?」

「女子供も戦えます。皆、状況は分かっていますから」


 そうだよね。まさに死ぬか、生きるか。だもんね。


「分かりました。それで皆さんは普段どんな物を食べていますか?」

「我々は基本的にはきのこと木のみ、それからたまにファングラビットを捕まえられた時は食べます」

「えっと、魔獣は肉を食べて強くなるんですよね?」

「はい、そうなのですが、同族であるゴブリンの肉は食べられないですし、現状では狩りに行けないので、肉を手に入れる方法がないのです」


 それもそうか、なら……。


「では、僕が持っている肉を差し上げますので、皆さんで今日からモリモリ食べてください」

「えっ? 良いのですか?」


 僕は「良いですよ」と頷いて、マジックバックから葉っぱで包んだ肉の塊をドンドン出すとシュテンさんの前に並べた。


「すみません、保存できる場所はあるにはあるのですが、この量はちょっと……」

「わかりました、ではとりあえず」


 僕が何個か残して他はマジックバックに戻すとシュテンさんは「甘えさせて頂きます、ありがとうございます」と言ってアズミさんに目配せをした。


「アズミが女性陣のまとめ役ですので、肉はアズミにお願いします」


 シュテンさんがそう言うので、足りなくなったらアズミさんに肉を渡す事になった。そして、火を使える場所があるようなので、野菜も渡して調理に使ってもらう。


 もちろん、僕にはどの野菜が良いのかわからないので、野菜もいっぱい出して選んでもらった。だけど、なぜかシュテンさんもアズミさんも野菜の山を見ながら、呆れていた。


 その後で、再びシュテンさんと話し合う。


「グリーンゴブリンが持っていた鉄製の武器を使うのは抵抗がありますか?」

「いや、彼らが使っている武器はサビているでしょ?」

「なるほど、では洗える水場はありますか?」


 シュテンさんに洞窟内を流れている川に案内してもらってそこで、グリーンゴブリン達が落として行った武器を洗った。


 ガシガシ洗い、さらに石を使って研ぐと綺麗になった。


 うん、良いね。


 もちろん、この辺は授業で習ったのに、僕はなかなか上手く出来なくて、結局はシュテンさんがやってくれた。


 僕がシュテンさんを見ると、シュテンさんはそれを手に取る。


 シュテンさんが手に取るのを確認すると、ついて来ていた男性陣が次々に手に取った。


 だけど、剣や槍を見てみんな困惑気味だ。


「やっぱり抵抗がありますか?」

「そうですね。グリーンゴブリンも同族ですから、出来れば殺し合いはしたくないです」

「そうですよね」


 と僕は首肯しながら、シュテンさん達を見た。


 もちろん気持ちは分かる。僕だって出来れば人族と殺し合いはしたくない。


 うん?


 シュテンさんはしっかりとした革の服や胴当てだけど、他の人達は簡単な作りの革の服だけだから、肌も見えている部分が多いね。


「シュテンさんの着ている服や胴当ては作れるのですか?」

「はい、ノームに作り方を教わってアズミが作りました」

「なぜ他の方は着てないのですか?」

「えっと、材料となる皮がないので……」


 なるほど、皮があれば作れるのか。


「僕が持っている皮を差し上げますので、作ってもらえますか?」

「良いのですか?」

「良いですよ。手加減する為にはこちらに余裕がなくては出来ない。まずはシュテンさん達が肉を食べて強くなり、防具もそろえて守りを固めましょう」


 なので僕は、持っていたホーンボアやファングラビットの皮を全てアズミさんに渡して、女性陣に服や胴当てを作ってもらう事にした。


 なにか役立つ物はないかと、マジックバックをひっくり返して、全て中身を出して、アズミさんに選んでもらう。


 うん、僕には分からないからね。


 アズミさんが選んだのは、裁縫セット。これが今回はかなり役に立つそうだ。裁縫セットを持たせてくれたセバスに感謝だね。


 だけどさ、なんか針も糸も多くない? セバスはたしか、破れた時の修復用って言ってたよね? どんだけ破ける事を想定していたの?


 そして、シュテンさんが着ている服をみんなの分用意するとなると皮が全然足りないと言う。それに肉もまだまだ必要だし、これは狩りに行かないといけないね。


 そんな風に思っていたら女性が呼びに来た。


 ゴザが敷かれただけの集会所に、食事の準備が出来るとみんなは目の前に置かれた肉料理に驚いていた。


 僕はシュテンさんに紹介してもらって改めてみんなに挨拶をする。


「僕はアルです。コタロウに頼まれて皆さんの加勢に来ました。よろしくお願いします」


 僕が頭を下げるとすごい盛り上がった。


 なんか嬉しい。そして、絶対守りたいね。


 シュテンさんの号令の後で、みんな肉料理をモリモリ食べた。そうそう少しだけど魔石も持っていたので、こちらも食べてもらう。


 魔力も伸ばしたいよね?


 食後に、みんな少しずつだけど嬉しそうに魔石を「バリバリ」と食べていた。


「シュテンさん、グリーンゴブリン達の襲撃って時間とか決まっていますか?」

「そうですね、夜か昼間が多いですね。奴らは夜活発に動くので、朝とかはないと思います」

「わかりました、明日から朝、狩りに出かけます」

「我々も行きます」

「いえ、まずは村の防衛をお願いします。あの広場よりこちらには入られないようにできますか?」

「わかりました。土魔法が得意な者を中心に壁を作ります」


 そこからは僕とブランは狩りに行って、みんなには肉と魔石を食べてもらいながら、防衛する為に土魔法などで洞窟内の村の整備をしてもらった。


 もちろん、戦闘訓練も行う。


 これにはコタロウを始めとした子供達も参加したが、コタロウとコタロウの妹のコユキが特に熱心だ。


 さらには定期的に襲ってくるグリーンゴブリンを追い返しては、落として行く武器などを拾う。


 だけどさ、たまに完全に戦闘と関係ない物を落として行くけどさ、これって、わざと?


 それから、アズミさん達、女性陣が僕とブランが狩ってきたホーンボアやファングラビットの皮の加工を始めた。


 皮を革にする作業だと言うけど、もちろん僕にはよく分からない。


 早くみんなが作ってもらった胴当てを身につけられたら良いね。

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