第20話 森の中の少年

 翌日から、せっかくなので朝は狩りに出かけた。


 やっぱりサマルの街の近くの森にはホーンボアが多いけど、少し離れるとファングラビットも取れたので、商業ギルドに素材とファングラビットの肉も売った。


 そして、街を見てまわる。


 規模の小さな街だからすぐにまわれたけど、特に問題と思える事はなかった。


 それにいろんな人に聞いてまわったけど、やはりサマルの街には目ぼしい特産が無いと言う事が、どうやら住民共通の悩みらしい。


 それが理由で地方貴族ですらこの街に住み着かないのだから、特産があるか、ないか、と言うのは街にとって大事な事のようだ。


 正直僕にはどうしたら良いとか分からないので、お爺様にその辺の事を手紙に書いて出しておいた。


 そして、ブルースさんに、フィアナさん、テッドさんに見送られてサマルの街を後にする。


「また来てくださいね」

「はい、必ず来ます。それまで皆さん、お元気で。お爺様への手紙に交易品の件と、街付きの貴族の件を書いておきましたので、お爺様が必ず動いてくれると思います」

「「はい」」


 ブルースさん、フィアナさん、テッドさんに良い笑顔で送り出してくれた。


 僕は旅に戻ったが、とりあえず次の街まではまた8日ほどなので、また狩りをしながら森を進む事にした。


 街道から森に入る。


 のんびりと狩りをしながら3日ほど歩いた所で、急にブランがキョロキョロしてから僕に向かって「ウォン」と鳴いた。


 僕が頷くとすぐにブランが走り出して、僕はその後に続く。


 見えてきた。少年が大型のホーンボアに襲われている。すぐに助けに入りホーンボアを倒した。体をかがめている少年に手を貸す。


 珍しいな。帽子から出ている髪も眉毛もまつ毛も白いし、肌も透けるようにものすごく白い。


「大丈夫?」

「うん、大丈夫。兄ちゃんは冒険者ですか?」

「いや、旅の者だよ」

「そうなんだ、だけど強いね。助けてくれてありがとう」


 少年が笑って頭を下げたので、僕は「無事で良かった」と笑い返した。


 僕がホーンボアを解体しながら「それで、君はどうしてこんなところにいるの?」と聞くと、少年は俯いた。


「うん、村が大変だから助けを呼びに隣村まで行くところだったんだ」

「村が大変なの?」

「うん、グリーンゴブリンに襲われて大変なんだ」


 なるほど、領民の助けになれとお爺様が言ったよね。


「僕が手伝おうか?」

「良いの?」

「うん、ゴブリンと戦った事はないけど、多分、力になれると思う」

「うん、お兄ちゃんなら大丈夫だと思うけど、本当に良いの?」

「あぁ、もちろんだよ」


 僕が頷くと、少年は嬉しそうに「ありがとう」と笑った。


 少年にも手伝ってもらって、素早くホーンボアを解体すると、素材を全てマジックバックにしまう。


 急いで村に帰る少年について、歩いて行くと洞窟に来た。確かに入り口にも緑色の肌をした小鬼、ゴブリンが数匹うろついている。


「村はあの洞窟の先なの?」

「うん、あの中」

「中? 洞窟の中に村があるの?」

「うん」

「わかった、少し待っていてくれる」


 その場に少年を待たせて、僕とブランは入り口にいたゴブリンと戦った。少し怪我をするとゴブリン達は慌てて洞窟の中に逃げて行く。


 4匹いたけど、戦うのは特に問題ない。


 とりあえず入り口から洞窟内を少し確認して、少年を手招きする。


「やっぱりお兄ちゃん、すごいね」

「そんな事はないよ」

「いや、すごいよ。倍の数いたのに、グリーンゴブリン達がすぐに慌てて逃げて行ったもん」

「そうかな?」

「そうだよ」


 少年はニッコリ笑うので「ありがとう」と言って、僕はゴブリンが落として行った武器を拾っておく。鉄の剣はサビているけど、このままにしておいてまた使われるのは嫌だもんね。


 マジックバックから魔術具のランタンを取り出して火を灯し、洞窟内に入ると何度かゴブリンに襲われたが、その度に撃退する。


 ゴブリン達は少し怪我すると逃げて行くので、深追いはせずに落として行った武器などを拾う。


 鉄製のサビた剣や槍、木を削った棍棒、石を使った斧、それに盾かと思ったけど、木製の鍋蓋。


 あのさ、勝手に持って来て、落として帰ったらさ。奥さんに怒られるよ?


 しばらく進むとブランが「ウォン」と鳴いた。


 少し急いだブランについて行くと戦闘の音が聞こえる。


 村人が戦っているのかな?


 気持ちが急ぐのを抑えながら、周囲の確認を怠らないようにブランについて行き、僕らが広い空間に出る。


 えっと?


 広場では、緑色の肌のゴブリンと白色の肌のゴブリンが戦っていた。


 少年がすぐに革製の服を着て、革製の胴当てをつけたホワイトゴブリンさんに駆け寄る。


「父ちゃん、強い兄ちゃんを連れてきたよ」

「おぉ、コタロウか」


 ホワイトゴブリンさんはこちらを見て、一瞬固まったけど、なんとか笑みを浮かべてこちらに頭を下げた。


 どうやらとまどっているようだ。


 わかるよ、僕もとまどっているからね。


 だけど、よく見たらホワイトゴブリンの人達はみんな傷だらけだ。


 武器や防具もグリーンゴブリンの方が良さそうだし、人数が3倍はいるもんね。


 それに見るからにグリーンゴブリンの方が交戦的で、ホワイトゴブリンさんの方は大人しそうに見える。


 だから、ホワイトゴブリンさん達は防戦一方だ。


 なので、ブランと一緒にすぐにホワイトゴブリンさん達に加勢して、グリーンゴブリンと戦った。


 僕達の加勢で、旗色が悪くなったと悟ると、怪我をしたグリーンゴブリンから順番に慌てて逃げて行った。


 もちろん、みんな、いろいろ落として行く。


 全てのグリーンゴブリンが逃げて行った後で、安全確保の為に僕とブランが周囲を確認していると、先程の革製の胴当てをつけたホワイトゴブリンさんと少年が近付いて来て再び頭を下げる。


「ありがとうございます、旅のお方」

「えっと、僕はアルです。その子の力になると約束したのでお気になさらずに」

「アルさん、それでも助かりました、ありがとう。こいつはコタロウ、私はコタロウの父でゴブリンリーダーのシュテンと言います」

「コタロウに、シュテンさんですね、よろしくお願いします」


 シュテンさんと握手を交わした僕は、集まってきた他のホワイトゴブリン達を見た。


 優しそうな顔をしたゴブリンさんの10人は男性のようだけど、僕の胸あたりまでの背丈しかないから正直年齢はわからない。


「それで皆さん怪我をされているみたいなので、これをお使いください。すみません、皆さんはポーションを使えますよね?」


 僕がマジックバックからポーションを取り出すとシュテンさんは「使えますが、その様な高価なものは頂けません」と言った。


 うーん、大丈夫だよ。お母さんに大量に持たされてバックの中がすごい事になっているからね。


「遠慮はいりませんよ、使ってください。それで傷が治った方から、グリーンゴブリン達が落として行った物を拾ってもらえますか?」


 恐縮しているシュテンさんにポーションを11本押し付けると、僕はグリーンゴブリンが落としていた武器などを拾ってバックに詰める。


 そして、傷の治ったみんなに手伝ってもらって、グリーンゴブリン達が落として行った物を全て回収した後で、僕はシュテンさん達の案内で、ホワイトゴブリンさんの村に向かった。

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