第19話 ギルドと市場

 商業ギルドのおじさんに計算が終わったら裏庭に声を掛けてくれるように頼んで、ブルースさんに連れられてギルドの建物の裏庭にある訓練場に来た。


 ギルド内にいた冒険者らしき人達もギャラリーとしてぞろぞろっと来たけど、出来ればやめてもらいたい。


 だけど、ブルースさんは『冒険者達の刺激にする』と言っていたから、きっとダメだよね?


 ブルースさんが木刀を数種類持って来て「獲物はどうされますか?」と聞いたので、僕は「ナイフ型を貸して頂けますか?」と答える。


 ナイフ型の木刀を受け取り、僕が少し振ってバランスを確かめてから、互いに間合いを取り合うと、僕はナイフ型の木刀を、ブルースさんはショートソード型の木刀を構えた。


 全身に魔力を流す。


 相手はギルドマスターだ。手加減など出来ない。多めに流すと、僕の周りの空気が「バチリ」と爆ぜた。


 野次馬の冒険者から「おぉ」と言うざわめきが聞こえて、そのザワザワが止むとブルースさんの飛び出しから攻防が始まった。


 ブルースさんの打ち込みをさばいて、かわして、僕も打ち込む。ブルースさんも僕の打ち込みや突きを、いなしたり、避けたりした。


 しばらくやり取りをした後で、僕は魔力の3段階目、瞬間的に打ち込みや、足運びの魔力量を増やした。


 ブルースさんの口から「クッ」と声が漏れて、僕のナイフ型の木刀がブルースさんの急所を突いた。ブルースさんがみぞおちを押さえながら数歩下がる。


 野次馬達から「おおぉ」「すげぇ」「マジかぁ」と興奮した様な歓声が上がって「さすがは領主様のお孫様だ」と声が聞こえる。


 ブルースさんはそちらをチラッと見て、悔しそうな顔をした。


「想像以上でした。ありがとうございました」


 ブルースさんが笑って頭を下げたので、僕も「ありがとうございました」と頭を下げた。


 僕達がギルドに戻るとちょうど計算が終わったところだった。おじさんに提示された金額が、思っていたより高い。


「おじさん、高くないですか?」

「坊ちゃん、適正ですよ。どれも状態が良いです。特にホーンボアの皮がとても状態が良いので買取額を上げさせて頂きました」

「そうなんですね、ありがとう。これで野菜とパンを沢山買い込めます」

「それでなんですがね。良かったらファングラビットの肉を少し分けて頂けませんか? うちの子供達が好きなんですけど、このところサマルの街ではラビット肉が品薄なんですよ」


 おじさんが申し訳なさそうな顔をするので、僕はニコリと笑った後で、マジックバックのリュックからファングラビットの肉を2匹分出す。


「それじゃあ、おじさんに世話になったから、これは僕からプレゼントしますよ。2匹分で足りますか? 子供達に食べさせてあげて下さい」

「いえ、いけませんよ、坊ちゃん。買い取りますから売ってください」

「じゃあ、1匹分は買い取ってください? 半分ずつなら良いでしょ?」


 おじさんは頭を掻くと「まいったな」と言ってから「ではお言葉に甘えさせて頂きますね、アルフレッド様」と笑った。


「アルで良いですよ。長い名前は慣れなくて」

「庶民の私が愛称で呼んでしまって良いんですか?」

「良いですよ」

「ではアル様、私はテッドです。商業ギルドの事で何かあればいつでも声をかけてください」


 テッドさんが手を出してくれるので、僕はそれを受けて握手をして「はい、相談しますね」と返事を返す。それを見て、慌てた様にブルースさんがやって来た。


「アルフレッド様、冒険者ギルドの事で何かあれば私に声を掛けてください」

「ブルースさんも、アルで良いですよ。よろしくお願いします」

「はい、アル様」


 ブルースさんとも握手をして僕はギルドを出た。少し歩いて振り返ると、みんなこっちを見ていたので手を振っておく。


 そして、市場に行くと野菜とパンを沢山買い込んだ「あるだけもらえますか?」と言うと屋台のお姉さんは呆れたが金貨を見せたら、声を裏返させて喜んだ。


 その様子を見ていたのだろう、あちらこちらの屋台から声を掛けられる。なので、いろいろな野菜とパン、それから甘味も買った。


 ハニービーと呼ばれる魔獣の集める蜜を使った甘味で、小麦粉の揚げ菓子にたっぷりと蜜がかかっている。その場でひとつ食べたが、ものすごく美味しいので大量買いをした。


 リュック型のマジックバックなら時間を止められるので、いつでも食べられるもんね。


 うん、甘い物は正義!


 そして、市場から出るとテッドさんが走って来た。


「テッドさん、どうかしましたか?」

「アル様、良かった。うちのギルドマスターがお礼がしたいって、宿を用意したのでご案内しますよ」

「えっ? 宿を用意してくれたんですか?」

「はい、もしかしてもう何処かに決めちゃいましたか?」

「いえ、まだです」


 うん、買い出しに夢中で、宿を取るのを忘れていたなんて言えないね。


 テッドさんに案内されたのはとても上等な宿だった、多分この街で1番高い。


 カウンターで話をつけてくれて、テッドさんはその場で帰って行ったので、僕は部屋に案内されたら、部屋に付いているお風呂にゆっくりと入った。


 野宿でも体は毎日拭いているし、水浴びできる時は魔術具で温めて浴びているけど、やっぱり宿のお風呂は気持ち良い。


 そして、夕食の席で戻ってきたテッドさんに商業ギルドのギルドマスターを紹介された。


「アルフレッド様、フィオナと申します。よろしくお願いします」

「フィオナさん、宿を用意して頂きありがとうございます。アルフレッド・グドウィンです。長い名前は苦手なのでアルでお願いします。こちらこそ、よろしくお願いします」

「アル様! ありがとうございます」


 フィアナさんは優しく微笑む。


 フィアナさんは僕に比べたらお姉さんだけど、20歳ぐらいにしか見えない。ブルースさんが40歳ぐらいだと思うから、ギルドマスターと言うには少し、いやかなり若いと思う。


「まだ20歳にもいかない娘がギルドマスターなんて驚きますよね?」

「いえ、すごいなぁって思いましたけど、驚いたのとは少し違うと思います」

「そう言って頂けると嬉しいです。まだ力不足な上にこの街には交易らしい交易もないので、今回の大量の素材はとても助かりました。ありがとうございます」

「こちらがテッドさんに少し色をつけて買い取ってもらった上に宿まで用意して頂いて、ありがとうございます」


 僕達は互いに頭を下げ合って笑い合った。


 テッドさんもだけど、フィアナさんも良い人だな。


「交易とはどの様な物があれば良いのですか?」

「特産となる物ですね。この辺は特にこれと言ってないんですよ。海がある訳でも、山がある訳でも、湖がある訳でも、ダンジョンがある訳でもなくて、旅の際に立ち寄るだけの街ですので」

「そうなんですね」

「いえ、すみません。領主様のお孫様にこの様な事を、失礼いたしました」

「そんな事ありませんよ。お爺様からは領民の声に耳を傾けてそれを教えて欲しいと言われています。僕にはどうしたら良いのか分かりませんが、きっとお爺様なら何か考えてくれるはずです。伝えておきますね」


 申し訳なさそうにしていたフィアナさんは「ありがとうございます」と笑ってくれた。


 そこからは談笑しながら食事をして、フィアナさん達と別れた。

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