第18話 素材の買取

 サマルの街から次の街までは歩きだとまた8日以上かかるらしいので、ここで狩ってきた皮や牙や角などの素材を売ろうとギルドに来た。


 無骨な建物で、入り口から入ると壁際やテーブルにいた男性や女性が僕の方を見た「うん? 子供か?」と誰かが言ったのが聞こえて、僕の後ろからブランが入ってくると「おい、なんだ? あれってホワイトウルフか?」とコソコソと言い始めた。


 その人達がコソコソと言っている間を通ってカウンターまで来ると、僕はカウンターの女性に「こんにちは」と挨拶して「素材の買取をお願いしたいのですが」と言ったのに、女性は困り顔をして「ごっこ遊びなら他所でやろうね」と言った。


 まあ、そう思うよね。


「いえ、ごっこ遊びではありません。素材を買い取って欲しいのですが、どうしたら良いですか?」


 女性はハァっとため息をついて「こちらでも出来るけど、あっちのおじさんのところに行ってくれる?」と別のカウンターを指差すので、僕は「ありがとう」と頭を下げて少し離れたところにあるカウンターに向かった。


 おじさんは僕を見てニコリと笑う。


「坊ちゃん、どのような素材ですか?」

「ファングラビット、それからホーンボアの皮と牙と角を買い取ってもらえますか?」


 僕がそう言うと「おい、聞いたかよ、坊ちゃんはホーンボアまで狩ってきたってよ」と笑い声が聞こえるが、目の前のおじさんは気にしていないように「分かりました」と頷いて「こちらの作業台に出してもらえますか?」と言ってカウンターから出てくると作業台に案内してくれた。


 僕がマジックバックから素材を出していくと、それまで起こっていた笑い声は止んだ。その代わり「おい、どんだけ出てくるんだよ」とか「マジかよ、何者だ、あの子」と言う声が聞こえてきたけど、全て出し終える前に先程のカウンターの女性が走って来た。


「どうなっているの? それ」

「えっと?」


 僕が首を傾げると男性が「おい、お前がこっちに振ったんだろ? 邪魔するな」と顔をしかめた。


「だって、そんな量あるなんて」

「ふん、見る目のない女をカウンターに置いている冒険者ギルドが悪いんだ。俺にはすぐにわかったよ。坊ちゃんの装備と従者を見れば、只者じゃないことぐらいすぐに分かる」

「でも、少しぐらいこちらに回してよ。私の独断でそんな量を商業ギルドに振ったって分かったらマスターに怒られるわ」

「知るか、そんな事!」


 両者の間で板挟みになっていると冒険者ギルドのカウンターの奥から男性が出てきて「デイジ、みっともない事をするな、坊ちゃんが困っているだろ?」と笑った。


「マスター!」


 マスターと呼ばれた男に手招きされて、デイジさんは諦めてカウンターに戻って行った。僕はその背中を見送った後で再び作業台に素材を出していく。


 全て出し終えると、おじさんは「坊ちゃん、量が多いので、ちょっと計算に時間がかかってしまいますが、大丈夫ですか?」と言うので「急いでいないのでゆっくりで大丈夫です」と答えた。


 おじさんが「ありがとうございます」と頭を下げた後でテーブルに案内してくれたので、僕はそのテーブルに着いた。


 椅子に座り計算の様子を眺めていると、近寄って来た冒険者ギルドのギルドマスターはコホンと咳払いした後で、僕に頭を下げた。


「私は冒険者ギルドのギルドマスターのブルースです。うちの者が失礼しました。失礼ですがどちらの御子息様ですか?」


 僕は立ち上がって頭を下げる。


「丁寧にありがとうございます。気にしていませんので、大丈夫です。僕はアルフレッド・グドウィン。グドウィン家、現当主イゴール・グドウィンの孫です」

「「なっ!」」


 その場にいた全ての人が驚いたようで、全ての視線が僕に集まった。


「領主様のお孫様が何をする為にこの街へ?」

「領地を見て、領民の話を聞く旅をする様にとのお爺様の名で領地を旅してまわっています。次の街までは歩きだと8日以上かかると聞いたので、街をまわる前に、野菜とパンを買い込む為のお金を得ようとここまでの旅で狩った素材を売りに来たのです」

「それではあちらは全てお一人で? それともどこかにお付きの方々がいらっしゃるのですか?」

「いえ、旅はブランと2人です」


 僕がブランの頭をなでるとブランは嬉しそうにして僕を見て、ブルースさんは呆れた顔をした。


「王都でグドウィン家の坊ちゃんがホワイトウルフを連れていると噂は聞いていましたが、まさか実力で従えていたとは思っていませんでしたよ」

「実力ではありませんよ、ブランとはたまたま運良く出会えただけです」

「そうですか? まだ計算の時間もかかるようですから良ければひとつお手合わせ願えませんか? 我が街の冒険者達の良い刺激にもなると思いますので」

「お手合わせなんて、僕などでは到底ブルースさんに敵うわけないですよ」


 ブルースさんは首を横に振った。


「見たところ、ホワイトウルフは進化されているようだ。見た事のない進化をする従者を従える者が弱いはずなどありませんよ」


 ブルースさんが探る様にこちらを見るので、僕は「それでは勉強させて下さい」と頭を下げた。

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