第17話 旅立ち

 旅立ちの朝はいつも通りの時間にすぐに目が覚めた。朝の森の走り込みはないのに、どうやら習慣になっていたらしい。


 やる事も特にないけど、目が覚めてしまったから仕方ないね。


 僕が体を起こすと、すでにブランも起きていてベットの側でお座りをしてこちらを見ている。なので、その頭をなでた。


「本当に一緒に旅に行ってくれるの?」

「ウォン」

「しばらくイライザ達には会えないよ」

「ウォン」


 ブランがニコリとしながら快く返事を返してくれるので、僕は「ありがとう」とブランを抱きしめた。


 部屋を出るとエド兄さんとイライザが待っていた。


「兄さん? イライザ?」

「やあ、おはよう。心の準備はどうだい?」

「はい、大丈夫です。ワクワクしてます」


 僕がそう言って笑うと、イライザが顔を歪めた。


「なんでよ、ちょっとぐらい寂しそうにしなさいよ。こっちが寂しくなるじゃない」

「ありがとう、イライザ。僕も寂しいよ。グドウィンの家は、僕にとって初めて出来た本当の家族なんだ。だから正直言って寂しい」

「だったら……」


 イライザが下を向いたので、その頭をなでた。


「だけどさ、もう2度と会えない訳じゃない。僕の家はここだろ? 必ず戻ってくるよ」

「絶対よ……絶対、戻って来て」

「うん、約束する」


 イライザはそのまま鼻を啜ると、ブランを抱きしめて「この薄情者」と呟いた。


「アルが帰って来たときに恥ずかしくない兄になっていると誓うよ」

「兄さんはもう僕の自慢の兄さんだよ」

「そうかい? それなら嬉しいよ。だけど、アルも旅に出て頑張るんだから私も頑張って学園で首席をとれるように学問と武術に打ち込む」


 エド兄さんは自分の手を見た。


「バッシュさんも鍛えてくれるって言っているからね」


 エド兄さんが見ていた手を僕の方によこすので、その手を取って握手をした。


「私も強くなって見せる。弟に負けていられない」


 エド兄さんはそう言って笑うとウインクした。


 朝食を済ました後で、僕の出発時間を迎えると、屋敷の入り口でみんなが見送ってくれた。


 だけど、結局最後までお母さんは納得してくれなかった。


 館の入り口で、再び僕をギュッと抱きしめてくれた後で名残惜しそうにしながらお父さんに促されてやっと離してくれた。


 険しい顔で「いつでも帰ってきなさい」と言うお母さんを見ていたら涙が込み上げて来たので、僕は懸命にそれを我慢する。


 泣いたら心配をかけてしまうよね?


 なので精一杯「行ってきます」と僕は笑う。


 その瞬間にお母さんとイライザは泣いてくれたが、僕は最後まで頑張った。お父さんが「無理はするなよ」と僕の頭をなでてくれた。


「アルフレッド」

「はい、お爺様」

「忘れるな。お前は儂の本当の孫だ。養子ではない。グドウィン家の人間として胸を張れ! 良いな」


 僕が「はい」と返事をするとお爺様はガバッと抱きしめてくれて「お前には苦労ばかりかけるな、頼んだぞ」とギュッとしてくれた。


 歩き出して少ししてから振り返るとまだ門のところにみんないたので、僕は精一杯体を伸ばして手を振った。


 少し前には考えられないが、本当に僕は家族に恵まれたと思う。


 手を振りかえしてくれる家族を見ながらそれを再確認して、再び歩き出すと少し涙が出た。


 父さんの店の前を通ると古い使用人のトムさんが店先を掃除していた。


「アル坊ちゃま?」

「トムさん、おはよう」

「おはようございます。いかがされたのですか?」

「うん、これからグドウィン家の領地を旅してまわるんです」


 僕が笑うとトムさんは顔をしかめた。


「何故そのような事に、グドウィンの家でもその……」

「違いますよ、すごく良くしてもらっています。お父さんや兄さんの役に立ちたくて自分で希望した事だから心配しないで下さい」

「そうですか。それでそちらが噂のホワイトウルフですか?」


 僕が「うん」と返事をするとトムさんが触りたいと言ったので、ブランの許可をとってなでてもらった。トムさんもブランも嬉しそうだ。


「アル坊ちゃま、お気をつけて……」


 トムさんはそこまで言うと首元から服に手を入れて首から下げていた小さな輝石の付いているペンダントを外した。


「アル坊ちゃま、これは少しですが病に耐性があります。お持ちください」

「いえ、もらえませんよ」

「良いんです。アンジェ様に良くして頂いたのに私は何も返せなかった。せめて坊ちゃまの旅の安全を祈らせてください」


 僕はペンダントを受け取ると「ありがとう」と抱きつく。トムさんはギュッと抱きしめ返してくれて「坊ちゃまを思っている人間は他にもおります。忘れないでください」と泣いてくれた。


 トムさんと別れて、街道に出ると意外にも歩いている旅人が多い。王都から次の街までは約8日は何事もなく無事に着いたので、すぐに次の街に向かった。


 そこから約10日の道のりだけど、途中から森に入って狩りをしながら進んだので15日かかった。


 だけど狩りは大量で、ファングラビットやホーンボアを大量に狩る事が出来た。王都から離れると魔獣が増えると聞いていたが本当らしい。


 もちろん全て解体してマジックバックに詰め込む。


 それにしてもコルバスさんから良いマジックバックを買えたと思う。本当に肉や野菜が腐らないし、凄い量入るのでとても重宝している。


 基本は食料品をそのバックに入れて、後の素材はアンジェ母さんのマジックバックに入れた。こちらも見た目と違いかなり入るので助かる。


 狩りをしながらのんびりと進み、僕は王都から2つ目の街、グドウィン領の最初の街サマルへとやってきた。

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