第16話 旅支度と商人
翌日から旅の準備が始まった。
これにはセバスさんが付き合ってくれる。初めはグドウィン家御用達の商人を呼び出すと言われたけど、僕が商品を見たかったので商家に足を運ぶ事にした。
「これはアルフレッド様、この様なところに足を運んでいただき恐縮です。私が当店の店主、コルバスと申します。以後お見知り置きを」
「コルバスさん、今日はいきなり来てしまってすみません。よろしくお願いします。それからアルフレッドではなくアルで大丈夫です」
僕が微笑むとコルバスさんは、少しだけ固まった後でにこやかに微笑んだ。
「いえ、いつでも大歓迎ですよ。それより、アル様と愛称でお呼びして良いのですか? 他の者が聞けば貴族のアル様と庶民の私が親しいと勘違いされますが」
「はい、コルバスさんが嫌じゃなければ、愛称でお願いします。なんか長い名前は慣れなくて、それにグドウィン家の御用達の商人さんなら仲良くしていきたいので」
僕が頷いて笑うとコルバスさんは目を見開いた後で、セバスさんを見た。セバスさんはそれに小さく頷く。
「アル様、よろしくお願いします。このコルバス、アル様に絶対に損はさせません」
「ありがとうございます。これから領地をまわる旅に出ますので、いろいろ相談させてください。よろしくお願いします」
「なんと! それは領民の暮らしを見てまわられると言う事ですか?」
コルバスさんが驚いた表情をするので、僕はそれに頷く。
「はい、お爺様が領民には言い出せぬ不満もあるだろうからそれを聞いてまわれと」
「さすがはイゴール様、素晴らしいお考えですな。グドウィン領内の主な街には我が商会の支部がございます。お困りの際はお立ち寄りください。アル様の事は皆に伝えておきます」
「ありがとうございます」
コルバスさんは僕が頭を下げると「とんでもございません」と焦った後で「それで今日は旅支度でございますか?」と微笑む。
僕がそれに「はい」と返事をすると、コルバスさんは使用人に言ってさまざまな商品を持って来させた。
1人用のテントやランタン、作業用ナイフ、それからしっかりとした衣料品に外套、革製のブーツ。食料品に至るまで様々な物がテーブルに並ぶ。
「こちらのテントは魔術具でかなり軽量化されている上に布には各種強化がかかっているので丈夫です。ランタンは魔力を通せばすぐに灯がついて、洞窟内での使用にも耐えられる設計になっております。こちらの作業ナイフは浄化と洗浄が付与されております」
「浄化!? それって切った肉を浄化してくれるのですか?」
「はい、そのように聞いております。しかし、あくまでもナイフに付与された力なので、闇堕ちした魔物等の肉は教会で浄化される事をおすすめします」
「なるほど、そうですよね。分かりました」
僕が頷くのを確認するとコルバスさんは説明を再開した。
「衣類は旅と言う事で、冒険者達が身につける旅用の丈夫な物を選びました。角猪の皮で作られていて、さらに硬化と軽量化、劣化防止が付与されているので丈夫で耐久性もあり軽いです。外套は雨を避けられるように硬化の代わりに防水を付与しています。もちろんブーツも角猪の皮を使い軽量化と防水が付与されています」
コルバスさんは次に食品の説明を行った。基本的にはパンと肉、野菜などだけど、大丈夫なのかな? って思っていたのが顔に出ていたのだろう。コルバスさんは少し笑って「ご心配ですか?」と首を傾げた。
「腐ってしまうのではないですか?」
「はい、なので時間停止が付与されたマジックバックをご用意しました」
コルバスさんは背中に背負う形のマジックバックを出してくれた。
「こちらは薄い型でコンパクトなので、背負っても動きの邪魔にならないと思います」
「これに入れたら時間が止まるのですか?」
「はい、中に入れた物は入れた時の状態で保存されます。生き物は入りませんがとても便利です」
「それは凄いですね、小さいし、僕が背負って動いても大丈夫そうです。ありがとうございます」
僕がマジックバックを喜んだ後でコルバスさんは方角を指し示す魔術具や地図、裁縫セットなどの小物の説明をした。
街道を歩いていれば必要ないと言われたけど、途中で狩りもしてお金を稼ぎながら旅をするつもりなので、方角を指し示す魔術具も地図も買ってもらった。服やテントが破けた時に必要とセバスさんは裁縫セットも買っていた。
全ての品の説明が終わり、セバスさんが代金を支払った後で、僕が「ありがとうございました」と笑うとコルバスさんは「お役に立てて光栄です」と笑ってくれた。
これからもよろしくと互いに握手を交わして、コルバスさんの店を出ると、セバスさんは次に教会に寄った。
「教会ですか?」
「はい、預金口座を開きに行きます」
「預金口座ってなんですか?」
「教会にお金を預ける仕組みです。魔術具のブレスレットで教会に登録をすると、お金を預ける事ができます。これがあれば旅先のどこの教会でもお金の出し入れが出来るのです」
「それは便利ですね」
と頷く僕に「そうでございますね」と返事をしたセバスさんは教会で僕用の預金口座を開いて、その登録ブレスレットを僕の腕にはめた。
「あの、セバスさん? なんかすごい金額が見えたのだけど?」
「はい、奥様がもしもの時の為に多めに入れるように言われまして」
「いや、多すぎますよ。あんなお金を使ってまわったら、旅にならないんじゃないですか?」
僕の言葉をセバスさんは良い笑顔でスルーする。
うん、こうなったセバスさんを説得するのは無理だね。
と言う事で、本当に困らない限り使わないようにしようと心に決めて、もらったブレスレットをさすってから、僕はセバスさんと一緒に屋敷に帰った。
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