第13話 お母さんの作戦

 使用人の兄ちゃんが「ブラン、なんですよね?」って首を傾げた。


 確かにそう思うよね。


 だって……。


 ブランの手足と尻尾の先の毛は黒くなっているし、顔や首周りに黄色い毛で柄まで描かれている。


 なんかかっこよくなった?


「ブラン、もしかして進化したの?」

「ウォン?」

「えっと……」


 ブランが首を傾げたので、困った僕がイライザ、そして使用人の兄ちゃんを見ると、2人も首を傾げた。


 わからないよね?


「バッシュさんなら何か、分かるかな?」

「そうね、分かるかしら?」

「どうですかね?」

「ウォン?」


 僕らがみんなで首を傾げていると入り口から「分かるわけねぇだろ」とバッシュさんが入ってきた。そして、ブランを見て苦笑いをする。


「なんでまたブランはこんな風になったんだ?」

「私が庭でアル兄が浄化して来た肉をあげていたら、急にブランが眩しく光って、それで目を開けたらこうなっていたの」


 イライザがそう言うと、バッシュさんは頷きながらブランをなでて首元の柄を確かめていた。


「相変わらず、意味が分からねぇけど、この辺りの柄は、壁画に描かれていた魔獣の柄に似ているな。あれは赤い柄だったし狐だったけどな」

「「壁画?!」」

「ウォン?」


 バッシュさん以外全員が驚いているとバッシュさんは頭をガシガシと掻いた。


「まあ、分かるのはそれぐらいだな。でもブランはライトニングウルフよりさらにレアな魔獣に進化したって事じゃねぇか? 正直見当もつかねぇよ」

「そうですよね。まぁ、良いか。ブランはブランですもんね」


 僕が頷くと隣のイライザは呆れ顔になった。


「良いんだ。まあ、アル兄が良いなら良いけどね」

「そうですね、坊ちゃんが良いって言うなら良いですよね。ブランはアル坊ちゃんの従者ですから」


 お兄さんの言葉に僕らが笑い合っていると、バッシュさんが顔を引き締めた。


「よし、アル、庭に出ろ。最終試験をしてやる」

「「最終試験!」」


 僕と使用人の兄ちゃんが驚いている横で、イライザは腕を組みながら頷いている。


「なるほど、お母さんはそう言う作戦に出たのね」

「「えっ?」」

「アル兄がこれ以上強くなるとバッシュさんから1本取りそうだから、期限を決めたのよ。そうでしょ? バッシュさん?」

「イライザ、仕方ないだろ? 1本取られたら俺、多分じゃなくて死ぬ」


 バッシュさんは肩をすくめて見せたが、どこか余裕だ。チラッと僕を見た後でイライザに視線を戻した。


「今ならまだやられない自信があるのね、でもどうかしらアル兄の成長スピードは予想外だったんじゃないの?」

「イライザはどっちの味方なんだ? アルが旅に行ってしまって良いのか?」

「良くないわ、行って欲しくない。だけど、アル兄の頑張りも認めているの。エド兄の力になりたいって気持ちは私も一緒だから努力が報われて欲しい」

「俺だってアルの事を認めている。だから今日なんだ。手遅れになってからでは遅いからな」


 苦笑いをするバッシュさんをイライザは目を見開いて見た。その横で使用人のお兄ちゃんが興奮気味に「それって」と言う。


「アル坊ちゃんは近々バッシュさんから1本取れるって事ですか?」

「あぁ、残念ながら1本ぐらいなら取れるようになると思う」

「ええっ! それってとんでもない事じゃないですか? だって、だって……」

「そうだ、とんでもない。アルフレッド・グドウィンは間違いなくとんでもない奴だ。そして、エドワード・グドウィンの片腕になるに相応しい」


 僕とイライザ、使用人のお兄ちゃんがバッシュさんの宣言に呆けていると「アハハ」と笑いながらエド兄さんが部屋に入ってきた。


「すごいじゃないか! バッシュさんにそこまで言わせるなら尚更、旅などに出せないね。アル、私と一緒に学園で学ぼう」

「兄さん、嬉しいのですが、僕に学問は向きませんよ」

「大丈夫だよ。学園は学問だけの場所ではないし、友人を作ったり、武術に打ち込んだりすれば良い」


 エド兄さんがそう言って笑うとイライザは呆れ顔で「そこは私と一緒に頑張ろうって言うところじゃないの?」と呟いたが、エド兄さんは「そうか、そうだね」と全く気にしていない。


「そう言えば、エド兄、サラマンダーの子供どうしたの?」

「うん、やめておいた。あれも可愛かったけどやはりブランには到底敵わない。何せモフモフしていないからな」


 エドがブランの首をモフモフとなでるとブランも気持ち良さそうにした。


「うん? ブラン変わった?」

「そうなんですよ、また進化? 変化? したみたいなんです」

「そうなのか、なんかかっこよくなったね」


 エド兄さんに褒められてブランはドヤっと言わんばかりに胸を張った。その姿に「うん、カッコいいよ」とエド兄さんは今度は胸元をモフモフとしている。


「あぁ、裏庭の訓練場でみんなが待っている。呼びに来たんだった」

「そうなんですか? じゃあ、早く行かないと」


 僕がそう言って慌てると、イライザが「エド兄、言うの遅いよ」と突っ込んで、エド兄さんは「そうか、ごめんね」と謝った。


 なので、とりあえず僕達はエド兄さんの後について部屋を出て、裏庭にある訓練場に向かった。

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