第12話 善なる心

 王都に戻った後で教会まで来た。


 バッシュさんはお母さんに捕まって、ブランはイライザに捕まったので、来たのは僕1人だ。帰ってすぐにダークウルフの話をしたのが悪かった。


 バッシュさんはまたお母さんに怒られている。ブランは心配したイライザに甘やかされている。


 まあ、どちらも仕方ないね。


 僕が入り口から入ると、司祭のお兄さんがにこやかに歩いて来た。


「あれ? アルフレッド様?」

「こんにちは、この前はありがとうございました」

「こんにちは、いや、あれも仕事だからね。それで、今日はどうしたの?」


 歩いて来たのはこの前、僕の適性検査をしてくれたお兄さんだった。僕がダークウルフの話をすると、お兄さんは目を見開いた。


「それはすごいじゃないか! その素材を見せてくれるかい?」


 僕は「はい」と返事をして、お兄さんにダークウルフの牙と爪、それから肉と皮の一部と魔石をマジックバックから取り出して渡した。


 お兄さんはそれらを確認して頷く。


「なるほど、間違いないね。それにしてもダークウルフをその年で倒してくるなんて、さすがはアンジェさんの子供だね」

「いや、大きい方はバッシュさんが倒しました。それにブランも一緒だったので」


 僕がそう言うとお兄さんは「そうか、それでもすごいよ」と頷いた。


「もしかしてブランってのは、最近噂になっているホワイトウルフの子供かい?」

「はい、そうです」

「そうか、今日は一緒じゃないんだね」


 お兄さんは手でなでるような仕草をして「残念」と呟いてから微笑むと「では、こちらに来てくれるかい?」と祭壇のある部屋に案内してくれた。


 部屋に入るとお兄さんに指示された通りにマジックバックから取り出した全ての素材を祭壇に置く。


 そして、僕が少し離れると、お兄さんは胸の前に手を合わせて祈りを捧げた。


 どこの言葉なんだろう?


 お兄さんが僕の知らない言葉で祈りを捧げると天井から光が降りて来た。キラキラと光るそれに素材が包まれると、素材は一度光を放った。


 お兄さんは振り返って微笑むと「終わったよ」と言って素材を返してくれた。


 なんだろう? 


 素材から出ていた嫌な感じが消えた。代わりになんか日の光に包まれたような柔らかな温もりを感じる。


「すごいですね」

「そう?」

「はい、とても温かな光でした」


 僕がそう言うとお兄さんは笑った。


「それはアルフレッド様が善なる心を持っているからさ」

「えっ?」

「神の光は見る者によって感じ方が違うんだ。温かく感じる者、冷たく感じる者、良い物に感じる者、恐ろしい物と感じる者、人それぞれなのさ」

「そうなんですか?」


 お兄さんは「そうだよ」って笑う。


「だけどそれは神の光に限った事ではないけどね。全ての物はその人がそれをどう見るかで変わるんだ」

「そう言う物でしょうか?」

「そう言う物さ、だからアルフレッド様はこれからも変わらずにそのままでいてくれ」


 お兄さんは微笑んで僕の頭をなでてくれた。


 グドウィンの屋敷に帰るとブランはイライザとディスクで遊んでいた。


 イライザが投げるとブランは嬉しそうに走って行ってキャッチする。そして、ディスクを咥えてイライザのところに戻る。


 イライザにモフモフとしてもらってブランがディスクを返すと、イライザは再びディスクを投げる。


 イライザはディスクを投げるのが上手いな。


「アル兄、おかえり」

「イライザ、ただいま。みんなは?」

「大人達はなんか緊急の話し合いみたいよ」

「えっ? 何かあったの?」


 僕が驚くとイライザは首を横に振る。


「うーん、違うの。息子が思わぬ速さで強くなっているからどうやって旅を止めるのか、話し合っているみたい。バッシュさんはお母さんに『間違って1本取られるような事があったら殺す』って言われて青くなってたわよ」


 僕は「そうなんだ」と苦笑いをする。


「兄さんは?」

「うん、エド兄は商人からサラマンダーの赤ちゃんを見せてもらっているのよ。引き取るつもりなんじゃない?」

「イライザは良いの?」

「私は良いわ、ブランがいるもの」


 僕は「そうか」と再び苦笑いをする。


 当のブランはディスク遊びを終えて、今はイライザにモフモフとされて嬉しそうにお腹を見せながらゴロゴロと転がっている。


 その光景を見ていると、確かに誰と誰が主従なのか、わからない。


「旅に連れてくなら別の子を見つけてね。ブランはダメよ」

「そこはブラン次第だね。ブランが残りたいと言うなら残ってもらうよ」

「ずいぶんと自信があるのね」

「いや、無理強いはしたくないんだ」


 イライザはブランをモフモフとしながら「そうね」と首肯した。


「イライザ、ここに肉と魔石を置いておくから、ブランが満足したらあげてくれる?」

「私があげて良いの?」


 僕は「良いさ」と言いながら庭のテラスに置かれたテーブルに浄化してもらった肉と魔石を置いた。


 ブランの事はイライザに任せて牙や爪、皮などを使用人に渡そうとその場を離れると「クォーン」とブランの嬉しそうな声が聞こえる。


 ブランはやっとお預けを食っていた肉にありつけてどうやらご機嫌らしい。


 僕は一度振り返りイライザとブランを見た後で、屋敷の中に入った。


 屋敷に入った僕は使用人のお兄さんに浄化を済ましたダークウルフの牙と爪、皮を渡した。


 素材はいつもこのお兄さんに渡して、グドウィン家からギルドに渡って、ギルドから各商会に売り渡される。


「アル坊ちゃん、ダークウルフの牙や爪まで全部売ってしまって良いんですか?」

「うん、お世話になっているのに、こんな事でしかお返し出来ないですから。それと、もしグドウィン家で使う素材があれば使って下さい」

「そんな事を気にしていると奥様が知ったらまた怒りますよ」

「内緒にしてくれるでしょ?」

「はい」


 僕と使用人のお兄さんが笑い合っているとイライザが慌てた様子で飛び込んできた。


「アル兄! ブランが、ブランが変になった!」

「変?」


 僕も慌ててイライザの後ろからついて来たブランを見た。


 えっ?


 ブランは僕を見て「ウォン?」って首を傾げたが、確かに明らかにおかしい。

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