第11話 ダークウルフの討伐

 ブランが引きつけて、僕が切りつける。いつもの連携でダークウルフを切りつけた。


 えっ!


 確かに切りつけたのに、石にでも当たったみたいにナイフが弾かれた。


 僕はすぐにバックステップで間合いを取ろうとしたが、ダークウルフの尾で弾き飛ばされて木にぶつかる。


 背中を強打して口から「カハッ」と息が漏れて、口の中では血の味が広がる。それに尾を受けた場所に闇がまとわりついて、なんか体がダルい。


 嘘でしょ? 


 僕は立ち上がって構えをとる。ブランが上手く雷をまといながら牽制してくれて、僕は再びダークウルフと対峙した。


 ダークウルフの動きの速さは問題ない。どちらかと言えば僕とブランの方が速い。


 攻撃だって爪で大きく切り裂かれたり、しっかり噛まれさえしなければ大丈夫だけど、ナイフの通らないあの硬い皮は問題だね。


 それからこの闇がまとわりついて取れない。なんか体がダルいし、これは厄介だ。


 どうするの?


 そこで一度バッシュさんを見た。


 少し離れたところで大きい方と戦っているが、やはり優勢なのがここからでも分かる。


 今もダークウルフは切られて血を流していた。あの調子ならすぐに倒して助けに来てくれるだろ。


 僕達は時間を稼ぐだけで良いのではないか?


 そうだよね? 


 だってナイフで切れないし……。


 そこで僕は歯を食いしばって自分の足を叩いた。


 なに考えてんの!


 こいつに勝てないんじゃ、旅なんて出れるはずないよね? 


 きっと世界にはもっと強い魔獣がいっぱいいるんだよ。


 その度に逃げ回るの? 


 それで?


 逃げれない時はどうするの?


 そうだよね。


 困難に立ち向かえなければ、無駄死にするだけだ。


 僕はダークウルフをにらみつけながら、体に流す魔力を増やす為に少し大きな雷のイメージした。


 僕の周りを包んでいた空気が「バチッ」と弾けて、目も耳も鼻も、手や足の感覚も1段階はっきりする。


 僕は少し笑うと地面を蹴り出した。


 えっ?


 加速が段違いだ。


 すぐダークウルフの目の前に迫ったので、ダークウルフはとっさに爪で引っ掻いて来た。


 それを僕がナイフで受け止め様とした瞬間に、伸ばして来たダークウルフの右前足があっさり切れた。


 切れた!


 ダークウルフが「ギァァァ」と叫んで暴れながら下がったところで、ブランが雷をまといながら残った左前足に噛み付いた。


 ダークウルフは体勢を崩して、それでもなんとか踏みとどまって右前足を地面につくと、左前足を大きく振る。


 あれ? 切ったはずの右前足が治っている。


 ダークウルフがブランを地面に叩きつけようと、左前足を大きく振り下ろした瞬間に、ブランはそれに合わせて大きく飛びのいた。


 今ブランが噛み付いていた場所も、闇がまとわりついてその傷を治していく。


 傷が治るなんてどうしたら良い?


 僕はそう思ったが、ダークウルフは怒った様に暴れたところで、ブランは落ち着いて今度は後ろ足に噛み付いて雷を流した。


 ダークウルフが再び「ギァァァァァァ」と叫んで、その顔が上がる。僕は未防備にさらされた首を大きく切り裂いた。


 バタリと横倒しになるダークウルフ。ブランは噛み付くのをやめて、僕の隣に来た。


「倒せたの?」

「ウォン」


 僕はそう答えてくれたブランの体に大した怪我がない事を確認してから抱きしめた。


 良かった。


「よくやったな」


 バッシュさんも倒し終わって、僕らに声をかけて来た。


 倒した、僕とブランが強敵を倒したんだよね?


 そこでようやく実感が湧いて、僕はブランを抱きしめるのをやめて立ち上がると、ブランは並んでもう1度、横たわるダークウルフを見た。


 このダークウルフはさ……。


 僕がブランを見るとブランは僕を見て「ウォン?」っと首を傾げる。


「いや、お母さんでしょ?」

「ウォン?」


 再び首を傾げたブランは、どこか晴れやかな顔をしているような気がした。


 そうだよな。倒すって決めていたもんな。


 相手は魔獣なんだ。迷っていたらこちらが殺される。主従契約してくれたブランとはまるで違う存在、そこは間違えちゃダメなんだ。


 僕は少し微笑んでブランの頭をなでた。


 その後で僕らはダークウルフを解体する。


 でもさ、ダークウルフってなんか黒いのまとってたよね?


「バッシュさん、ダークウルフの肉ってブランが食べて大丈夫ですか?」


 隣で大きい方を解体していたバッシュさんはこちらをチラッと見てから考えるように空を見た。


「そうだな。大丈夫だと思うけど、教会で清めてもらうか?」

「教会で清めてもらえるんですか?」

「あぁ、祈りを捧げて清めてもらえるんだ」


 バッシュさんは作業の手を止めて、胸の前で手を合わせた。


「教会の奴が祈りを捧げるとさ、光が降りて来て浄化されるから初めて見たら結構驚くかもしれないけど、せっかくだし経験にもなるだろう」

「そうなんですか? 楽しみです」


 バッシュさんが僕にウィンクをよこすと作業に戻るので、僕も作業に戻った。


 ダークウルフは皮が硬いので最初少し大変だったけど、皮の処理が終われば、あとの処理は他の魔獣とさほど変わらなかった。


 ブランはお預けなので先ほどから手を貸してくれながら不満そうな顔をしているが、浄化が終われば食べられるのだからしばらく我慢して欲しい。


 そんな顔してもあげないよ。なんか有ってからじゃ遅いからね。


 全ての処理をした後で速やかにダークウルフの皮と牙、爪、それから肉、少し大きな魔石も全てマジックバックに入れた。


「ウォン!」

「後であげるからちょっと我慢して!」

「クォーン」


 ブランは項垂れた。その姿を見て僕は胸が痛いが心を鬼にする。


 うん、少しの我慢だ、頑張れブラン、そして、僕。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る