第9話 イメージの仕方
数ヶ月が経った。
魔力量はかなり増えたし、訓練も続けている。毎日、狩りをしてホーンボアだって苦労なく狩れるようになった。
僕は間違いなく強くなっているはずなのに、バッシュさんには全く歯が立たない。1本取るどころか、腕を掴むことさえままならない。
僕は今日も投げ飛ばされて青い空を見上げている。
埋まらない溝のような物が僕とバッシュさんの間には確かに横たわっている。なので、この数日はいく度となくある思いが込み上げて来た。
1本取れる日など来るのか?
正直、訓練をして自分が強くなればなる程に、バッシュさんの強さが身に染みて分かってきた。
この人は間違いなくとんでもなく強い。
この人から1本取るなんて無謀なのではないか?
僕はそんな思いを押し込めるように「グァァァ」と吠えて足で反動をつけて飛び上がるように立ち上がると、再びバッシュさんと互角稽古を再開した。
「どうした? その程度か?」
バッシュさんは僕をなんなく投げ飛ばす。
投げ飛ばされた僕もクルリと受け身を取って立ち上がるとすぐにバッシュさんの腕を取りに行く。
だけど、それも見越したように流れるような動きでかわされる。
「それでは何年経っても旅など行けないな」
バッシュさんは僕の腕を極めた後で、振り解こうとした僕の蹴りをかわして僕を投げる。
僕はバランスを崩して肩から地面に落ちたが、すぐに立ち上がって再開する。
「気持ちだけではなんともならないぞ。もっと考えろ、そして、感じろ」
バッシュさんは僕の腕を巻き上げて、そのまま引き落とし、僕を地面に叩きつけた。
口から「ガハッ」と息が漏れて僕は血を吐いて「ハア、ハア」と肩で息をしながら、僕を見下ろすバッシュさんを見上げた。
「どうだ? 少しは絶望したか?」
僕は倒れながら小さく頷く。
認めたくないけど、確かに僕は絶望している。だって全然1本を取れるイメージがわかないんだ。
そんな僕にバッシュさんは手を差し出した。
「そうか、では次の段階に行こうか?」
そう言ったバッシュさんは微笑んで、手を取った僕を引き上げた。
「俺とアルの動きの違いはなんだ?」
「速さが全然違います」
「そうだな、特にどんなところが速い?」
「どんなところ、ですか?」
僕が首を傾げるとバッシュさんは頷く。
どんなところが速いんだろう?
「僕の手をかわすときですか?」
「うーん、かわすとき、どんな感じだと感じる?」
「流れるようだと思います!」
バッシュさんは「そうだ!」と頷くと流れるように動いて見せた。
「アルは魔法を使うときのイメージはまだ断続的だ。腕を伸ばす、掴む、さばく、引っ込める、巻き込む、全てがバラバラと1つ1つが切り離されている」
再び流れるように体を動かす。
「次の段階はこれを繋げてイメージするんだ。腕を伸ばしながら掴む、さばいて引っ込めながら巻き込む。全てが流れるようにイメージは切り離さない。魔力を流し続けるんだ」
バッシュさんは動きを止める。
「だけど流し続けたらすぐ魔力切れになりますよ?」
「そうだな、今みたいに全力で魔力を使えば、そうなるだろうな」
「えっ?」
バッシュさんは頷くと僕の手を取った。
バッシュさんの手が温かくなるが一旦すごく温かくなったけど、大きくその温度が下がって、その後でさらに上がったり下がったりを繰り返した。
「今の感じを真似してやってみろ」
僕もイメージしてみたが上手くは出来ない。
今まではただ温かくなるイメージだったけど、その温度を上げたり下げたりするのがイメージ出来ないのだ。
うーむ、難しいね。
「バッシュさんはどのようにイメージしてますか?」
「俺は炎だ、燃える炎をイメージしている。体の中心に燃える炎をイメージして、それを大きく燃やしたり小さく燃やしたりして、その熱を手に集めている」
うーん、複雑すぎて僕には無理。
僕の顔を見ながらバッシュさんは「ブフッ」と吹き出した。
「そんな顔するな、確か他の奴はお湯が沸騰するイメージって言ってたぞ。強く魔力を使うときはゴボゴボと大きく、弱いときはコポコポと小さくって言っていた」
あんまり変わらないな、こんな複雑な事出来るなんて、みんなすごいね。
「その顔はダメか……後は、アンジェは体に雷が流れるイメージと言っていたな」
「あの天から降ってくる雷ですか?」
「あぁ、そうだ。それが体に流れるイメージとか言っていた。弱い雷なら弱く、強い雷なら強く、意味わかんないけどな」
体に雷が流れるイメージね。
えっ?
少しビリッとした後で、小さく魔力が流れた。
体の中を流れる雷を強くすると魔力が大きくなる。先程のバッシュがやった様に小さくしたり大きくしたりしてみた。
「おぉ、出来るじゃないか?」
バッシュさんが手を離してくれたので、僕は「出来ましたね」と言いながら自分の手を見た。
まさか雷のイメージで出来ると思わなかった。
僕が苦笑うとバッシュさんも「さすがは親子だな」と笑った。
その後で小さく魔力を全身に流しながらバッシュさんの動きを真似て動く。
流れるように、淀みなく手や足、体を動かした。1つ1つの動きはいつもより速いのに、瞬間的に魔力を流す今までより圧倒的に消費が少ない。
「そうだ。良い感じだな」
バッシュさんは頷いて、僕の動きに合わせて手を組み合わせて僕の腕を取る。
僕は手をさばいてバッシュさんの腕を取る。
バッシュさんはそれを切って、僕の腕を取り返す。
僕はさらに取り返す。
二人の動きがシンクロしてその攻防は、いつまでも踊るように続いた。
「どうだ? 光は見えたか?」
僕がバッシュさんの腕を取りながら「はい」と返事をすると、バッシュさんも満足げに笑いながら取り返して来た。
うん、少し光が見えたね。
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