第6話 ウルフに出会った

 グルルっと唸っているが、その声は細い。


 それにしてもずいぶんと痩せ細っているな。毛色が白いけど、この子はたぶんウルフの子供じゃないかな? 


 魔獣図鑑で見たウルフに姿は似ている。


 それに、火を怖がらないなんて珍しいね。って言うか、あれか、空腹が勝っているのか? 


 そこで数日前の自分を思い出した。僕だってお腹減ってなければファングラビットから逃げていたと思う。


 そして、もう1度ウルフを見て、なんだか自分の事を重ねる。もしかしたらこの子も家族に相手にされなかったのかも知れない。


 離れでの生活を思い出しながら、僕は考えもせずに焼いたファングラビットの肉を与えていた。ウルフも自分の前に置かれたラビット肉にとまどった後で、むさぼる様に食っていた。


 慌てる様に食べているその姿を見届けて、僕はつるを編んだカゴにストックしておいた肉もどんどん焼いていく。


 また明日から頑張ればいいね。


 結局はその日、僕らはストックしておいた全ての肉を2人で食べ尽くした。


 数日後、元気になったウルフに懐かれたので、僕はその子にブランと名前をつけた。


 今は立派な狩りのパートナーだ。二人ならファングラビットも楽勝で、どんどん狩れる。


 そして、毛皮と肉のストックはつるを使って編んで作った簡単なカゴにたくさん貯まったので、今度こそ王都を目指す事にした。


 僕はカゴを背負う。


「ねぇ、ブラン。王都がどっちか分かる?」


 僕が呼びかけるとブランは僕を見て首を傾げた。


「わからないよな? 人族がいっぱいいるところなんだけどさ」


 僕がそう言うとブランが「ウォン」っと鳴いて、顔でクイクイっと方向を示した。


「もしかして分かるの?」

「ウォン」

「本当に? 案内してくれる?」

「ウォン」


 そして、ブランの案内で半日ほど歩くと、森を抜けて目の前に王都が見えた。マジか、嬉しくて視界が滲む「ありがとう、助かったよ」っと案内してくれたブランの頭を撫でていると、後ろから声をかけられた。


「やっとか、まあ、いろいろツッコミどころは満載だけど、無事に帰って来たからな、合格だ。お前を認めるよ、アル」


 僕が振り返るとなんか雰囲気出したバッシュさんが、こちらを見ながらにこやかに微笑んでいるので、なんとなく殴りたくなった。


 だけど、僕の代わりにブランが噛み付いた。


「よーし、えらいぞ、ブラン。いい子だ」


 と言いながら、モフモフと頭や首のあたりをなでると、ブランはお腹を見せて転がる。


 うん、可愛い。


「和んでいるところ悪いけど、ホワイトウルフはそのままだと王都に入れないからな」


 バッシュさんが意味のわからない事を言い出したので僕とブランは2人してバッシュさんを見上げながら首を傾げる。


「いやいや、なんか俺がおかしな事言い出したみたいなリアクションだけど、魔獣は普通に考えて王都に入れないだろ?」

「そうなんですか? こんな可愛いのに?」

「可愛いとか関係ない。だいたいホワイトウルフはレア魔獣で成長すればウルフより強いって言われているから成獣は恐れられているんだぞ」


 僕が困ってブランを見ると、ブランは意味がわからない様で首を傾げる。


 そうだよね、意味わかんないよね。


 なので僕ももう1度首を傾げてバッシュさんを見た。


「あのなぁ、マジか? マジのやつか?」


 バッシュさんは「ハァ」とため息をついて頭を掻いた。


「ホワイトウルフ次第だけど、主従契約をすれば王都に入れる様になるよ」

「主従契約ってなんですか?」

「魔術具の腕輪と首輪を使って主人と従者の契約するんだ」


 うん? なんか可哀想じゃない?


 僕がなんとも言えない顔でバッシュさんを見るとバッシュさんは「なんだ?」と呟いて少し後ずさる。


「俺は主従契約をした事ないからよくわからないが、知り合いの契約している奴の魔獣は嫌がってなかったぞ」

「そうなんですね」


 僕は首肯するとブランを見た。


「どうする? 意味わかった?」

「ウォン」

「僕を主人と認めてくれる?」

「ウォン」


 ブランが嬉しそうに吠えるので、思わず抱きしめた。


 うん、やっぱり可愛い。


 そして、バッシュさんが持ってきた腕輪と首輪をそれぞれ付けると僕とブランは主従契約を行った。


 ちなみに、ボケて僕も首につけようとしたらバッシュさんに頭を叩かれた。普通に痛い。


 そして、晴れて王都に入ると、通りを歩く人達に「ホワイトウルフ?」「何あれかわいい」「モフモフしてるわね」とめっちゃ見られた。


 やっぱりブランは珍しいらしいけど、まあ気にしても仕方ないね。


 しばらく大通りを歩くとグドウィンの屋敷が見えてきた。


 僕が数週間ぶりに帰ると、いきなりお母さんに抱きしめられた。どうやらかなり心配をかけてしまったみたいなので僕は「ごめんなさい」と謝る。


 そして、事情を説明していると段々とお母さんの顔が険しくなって、全て話が終わるとバッシュさんがお母さんにボコボコにされて、ブランはイライザにモフモフされていた。


 まあバッシュさんは意味わかんないし、ブランは可愛いから仕方ないよね。


 バッシュさんは「ちゃんと近くから見守っていざと言う時は助けるつもりだった」て言いながら殴られて転がっている。


 いつの間にかお父さんも参戦した様だ。


 時折「痛い」「いたい」「イタイ」て声がバッシュさんの口から漏れている。


 ブランの方は転がりながらお腹を見せて気持ち良さそうに「クゥーン」と言っている。


 こっちにはエド兄さんも参戦していた。


 イライザは「可愛い」「かわいい」「カワイイ」を連発する。


 うんうん、可愛いよね。


 それらを見下ろしながら背負っていたカゴを使用人に渡すと、大量の毛皮と肉に頬をひきつらせながら呆れていた。

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