第5話 ある日、森の中
翌日、早朝にバッシュさんに起こされて、郊外の森に来た。僕は初めての森に少しワクワクする。
「ついて来い」
バッシュさんはそれだけ言うとスタスタと歩き出した。僕はそれについて行く。
だけど森の中は所々ぬかるんでいたり、岩や倒れた木に苔が生えていて滑るから何度もこけた。
さらには飛び出した枝に服が引っかかって破けたり、皮膚に擦り傷や切り傷が出来る。
それでも僕は黙ってついて行った。
きっとこれは僕を試しているのだ。これぐらいで弱音なんて吐けば、訓練をしてもらえない気がする。
そして、何時間歩いたのか、日が随分と高い位置まで登った頃にバッシュさんは立ち止まって僕の方を振り返った。
持っていたカバンの中からナイフを1本取り出す。
「このナイフをやるから、ここから王都まで無事に帰って来い。そしたらお前を認めて俺が教えられる冒険者としての技術を全て教えてやろう」
「えっ?」
僕が意味も分からずに呆けているうちにバッシュさんは僕の手にナイフを握らせるとすぐに居なくなった。
「えっと?」
一瞬バッシュさんがブレたと思ったら消えた。
来た方向の葉っぱが風に煽られて揺れていたので、たぶんすごいスピードで走って行ったんだと思うけど、全然目で追えなかった。
いや、呆けている場合じゃないよ。
暗くなれば進めなくなるし、この森にも魔獣はいる。出会えばタダでは済まないだろうね。なので、僕はとりあえず来た道を戻る様に歩き出した。
だけどさ、戻るって簡単に言っても来た時は正直バッシュさんに付いて来るのがやっとでよくわからない。
それに木が茂っていてまったく王都がどっちなのかもわからないよ。
そして、歩く事数時間後、やはり日没が近づいてきて僕はとりあえず帰るのを諦めた。
うん、このまま歩いても帰るのは無理だ。
なので、学んだ事を活かしてとりあえず今日は休む事にした。なにせ疲れた。そして、お腹も空いたし、喉も乾いたので、明日はまず食料と水を確保しよう。
少しひらけた場所を見つけたので、地面を確認する。
乾いているから大丈夫そうだね。
そしたら、乾いた枝を集めて来て、その場で石を使って火をつけた。この辺は授業でやったから上手く出来たので、枝をいっぱい組んだ後で、とりあえず横になる。
疲れていたのか、すぐに寝てしまった。
寒っ!
寒さで目が覚めると焚き火は小さく燻って、日も登り始めていた。
大丈夫、生きてる。
そこから喉が渇いたので、川を探す事数時間。途中、木の実を見つけたけど食べられたものではなかった。
渋くてすぐに吐き出したけど、大丈夫かな?
そして、やっと川を見つけた。喜んで飛び込みたくなったがやめておいて、顔を川に近づけて貪る様に喉の渇きを潤す。
あぁ、生き返る。
だけどさ、喉の乾きが潤うと途端に腹が減るから不思議だよね? どうする?
そう思ってキョロキョロしていたら茂みからそいつが飛び出して来た。
白い毛並み、体格は僕の半分以下で小さい。そして、赤い目と口の横から見える牙が印象的だ。魔獣図鑑で見た事ある。
こいつは確かファングラビットだね。
そして、僕はグゥっとなるお腹を見た後で、ナイフを抜いた。
怖い? なにそれ? 美味しいの?
僕がニヤニヤするとファングラビットは一瞬怯んだけど、気を取り直して威嚇して来た。
そして、格闘する事数分後、僕は初めての獲物をゲットした。少し引っ掻かれたけど、とりあえず噛まれなかったし、大勝利、怪我も名誉の負傷だよね。
と言う事で気にしないで、川でファングラビットの血抜きをして、解体作業に入る。
うーむ、難しい。とても難しい。
いや、習った様にやったよ? たぶん。ボロボロだけど、とりあえず肉は取れたし、まあ初めてだから仕方ないよね?
なので、少し川から離れた開けた場所を見つけて焚き火を始めると、とりあえずラビット肉を焼いた。
うん? こう言うのは焼けばなんとかなるでしょ?
そして、焼き上がり、少し焦げた肉にかぶりつく。
「……」
うま! なんか少し匂うけど、もうそんな事はどうでも良いぐらいとりあえず、うまい!
2日近くなにも食べてなかったからね。最高にうまい。
そこから夢中で食べたけど、勢いで全て食べそうになったが我慢した。
明日の朝の分を残しておかないと、またお腹空いちゃうもんね。
と言う事で、習った大きな葉っぱを見つけて来て残りのラビット肉を包む。
それから、薬草を探した。葉っぱの形をよく見て摘むと裏から日の光で透かす。まだらに点々と斑点が見えた。
これだね。
それを何枚か集めると石ですり潰してから傷口に塗っておいた。
かなり沁みるけど、膿んだら大変だからね。
涙目になりながら次は引っ掻かれないと誓う。
そして寝て、翌日の朝はラビット肉の残りを焼いて食べたら、僕は迷わずにラビット狩りに出かけた。
とりあえず、食事を確保してから王都に向かおう。だって、どっちが王都なのか? もう全然わからないからね。
そして、数日で怪我もせずに、安定してファングラビットを狩れる様になった。
ファングラビットを狩りながら、少しずつ手探りで移動を始めた頃、夕食用にファングラビットを焼いている時に、そいつに出会った。
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