第3話 適性検査を受ける

 僕はイゴール様の屋敷に住むようになった。


 そして、名前もアルからアルフレッド・グドウィンになった。


 なんか名前が長くなっただけで、偉くなった気になるから不思議だよね?


 それから綺麗な服を与えられて、部屋も広い。もちろんこちらでも使用人が身の回りの世話をしてくれる。これは前と変わらないけど、イゴール様の家族には温かく迎えられた。


 息子夫婦と僕と同じぐらいの子供達が2人。みんな首を傾げたくなるぐらいに優しい。貴族って怖いイメージがあったけど、そんな事は全然なかった。


 ちなみに僕はこの息子夫婦の養子という事になるので、イゴール様の事はこれからお爺様と呼ぶ様に言われた。


 次に勉強が難しくなった。読み書きも計算もそこそこで良いと思うのに、貴族と言うのはそれではダメなのだそうだ。


 大変だね。


 特に地理は同じ様な街や村の名前が多いし、歴史とか何年に誰それが何かしたなんて覚えられない。さらには貴族として最低限のマナーってのもよく分からなかった。


 フォークを使う順番って何?


 自分が食べやすいの使って食べたら良いと思うんだけど、教えてくれるおばあちゃん先生に何度も怒られた。


 だから中庭でやる剣の稽古は楽しい。


 やっぱり僕はこうやって外で体を動かすことの方が性に合っているね。


 こちらは元騎士の使用人が教えてくれるのだけど、何度も筋が良いと褒められた。


 これは本当に嬉しい。


 僕はまあそんな感じだけど、僕の兄弟となった1つ年上のエドワードは何をやってもとても優秀だ。


 それに困っている僕に「どうしたんだい?」といつも声をかけてくれて、何度も丁寧に教えてくれる。


 お兄ちゃんが出来て素直に嬉しい。


 妹のエリザベスも可愛らしいし、優秀だ。


 僕より1つ下なのに歴史や地理に詳しくて、将来は領主となったエド兄さんを支えるのだそうだ。


 えっと、イライザって14歳だよね? すごいね。


 そうエドワードの事は兄さん、エリザベスの事はイライザと呼ぶ様に言われた。1度「エリザベス様」と呼んだらイライザに「次にそう呼んだら殴るわよ」て言われた。


 ちなみにお父さんのジェームズにも、お母さんのフローレンスにも笑顔で脅された。これからはお父さんとお母さんと呼ばないとおやつは抜きだそうだ。


 それは困るので、なんか恥ずかしいけど慣れるしかないね。


 そんな生活が数ヶ月たって、僕はお爺様の部屋に呼ばれた。


 執事に連れられて部屋に入ると、お爺様ともう1人男性がいた。この特徴的な衣装は間違いなく教会の司祭だね。


 ニコニコ笑っているお爺様に促されて僕が席に着くと、司祭のお兄さんが僕の前に板を置いた。その板には水晶がハマっている。


「前と同じようにその水晶に手をかざしてくれるかい?」


 僕は「はい」と頷いてその水晶に手をかざす。


 すぐに水晶がパァっと光るとその後で板の部分に青白い字が浮かび上がった。


 何これ、すごいね。


 [体力]  A

 [魔力]  S

 [腕力]  B

 [知能]  E

 [素早さ] S

 [器用さ] D

 [丈夫さ] S

 [精神力] A


 僕が板を見つめているとお爺様が「なんだこの偏った適性は?」と大きな声を上げて立ち上がった。


 うん? えっと、どうしたの?


 僕が首を傾げながらお爺様を見ていると、司祭のお兄さんは少し顔をしかめた。


「イゴール様、落ち着いてください」

「落ち着いていられるか! 知能Eってなんだ!」

「イゴール様、そこはあのアンジェさんの子供ですから仕方ないですよ」

「「えっ?」」


 僕とお爺様は驚いて司祭のお兄さんを見たがお兄さんは悪びれもしないでため息を吐いて頭を掻いた。


「アンジェさん、雷鳴の魔女は底無しでしたから、体は細いのにバカみたいに身体能力が高く、アホみたいに体が強く、魔法はろくに使えないのにナイフで魔獣達を無双してその強さからニつ名を得ました」

「アンジェのやつ、魔女なのに魔法がろくに使えないのか!」

「強い女性は魔女って二つ名が付きやすいんですよ」


 司祭のお兄さんの言葉に、お爺様は頭を抱えながら座り直す。


「確かにアンジェはものすごい強かったが、抜けたところもあったからな。あんな訳のわからん商人と結婚すると言い出した時は耳を疑ったものだ」


 お爺様は苦笑いしてため息をついた。


 そりゃあ、期待して養子に迎えた子供が馬鹿だと分かれば、頭もかかえたくなるよね?


 うん、分かるよ。


 僕の様子を察したのか、お爺様は気持ちを立て直して司祭のお兄さんに礼を言う。


 お兄さんの方も「あまり落ち込まれないようにしてください」と言うと、そそくさと部屋を出て行った。


 お爺様と僕はその姿を見送った後で顔を見合わせた。


「お爺様、ごめんなさい」

「いや、アルフレッドは気にするな。適性は持って生まれた物だから、仕方のない事だ」

「だけど……」


 僕が俯くとお爺様はフゥーっと息を吐き出した。


「それでだ。この先の話なんだが正直迷っておる」


 僕は顔を上げて「はい」と返事をした。


「エドワードやエリザベスと一緒に学園で貴族として学ぶか? それとも我が家の領地を旅してまわって見聞を広めて、領地経営の基礎を学ぶか?」


 お爺様は頭を掻いた。


「もちろん、後者の旅は危険もあるし、怪我だけでは済まない場合もある。だけど学園に通うまでまだ2年ほどあるから、その間に我が家で訓練を積んでそれからどちらにするか選んだら良い」


 正直を言えば、旅が良いよね? 僕に学問は向いていない。学園に行ってもきっとダメだと思う。それにやっぱり、自由に生きる旅には憧れもある。


「王都の外に行ったことがないので、いろんな街や村を見てまわりたいです」

「そうか、ではとりあえず明日から訓練をがんばりなさい。焦る事はないんだ、それで旅に出しても良いと判断したら旅に出すとしよう。今日はご苦労だったな、下がっていいぞ」


 僕は「はい」と返事をして退出した。


 旅かぁ、今から楽しみだね。なんかワクワクして来た。

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