優しい少年
雨世界
1 真っ暗だね。明かりがなくちゃ前に進めないよ。
優しい少年
登場人物
ひかる いつも笑顔の優しい十八歳の少年
きらり 小学六年生の十二歳の生意気な女の子
プロローグ
優しい少年は、……きっと優しい大人になった。
本編
第一章
明るい月と星とくらい山
真っ暗だね。明かりがなくちゃ前に進めないよ。
ひかるの見上げる空には、薄い雲の向こう側からとても綺麗な白い光を放つ月と本当に美しい星々があった。
そんな美しい月や星を見て、ひかるはそのずっとくらい山の中を歩き続けてきた足を止めた。
……月って、……星ってこんなに綺麗だったっけ?
……本当にすごく綺麗だ。こんなに綺麗な月や星空を見たのは、もしかしたら今日が生まれて初めてかもしれない。
そんなことを思って、ひかるは夜空の月や星に目を奪われてしばらくの間、その場所から動くことができなくなった。
「ちょっと、早く前に進んでよ。邪魔よ、邪魔」
すると、そんなひかるに後ろから声をかける人がいた。
ひかるが声の聞こえたほうを振り向くと、そこにはきらりがいた。ひかるがこのくらい山の中で出会った小さな小学生の女の子。
きらりはにやっと楽しそうに笑うと、それからじっと自分の顔を見ているひかるの顔に自分の小さな顔をすぐ近くまで近づけて、その大きくて透明な(まるで宇宙のような)瞳で見て、「なに、心配性のお兄ちゃんが歳の離れたかわいい妹に、怪我でもしないように、おでこに優しい魔法のキスでもしてくれるの?」と冗談っぽい口調できらりはいった。
「キスなんてしないよ。それに魔法も使えない」とひかるは言う。
「なんだ。残念」と楽しそうに笑って、きらりは言った。
ひかるときらり。
偶然にくらい山の中で出会った二人は今、二人で一緒に協力しならとても『くらい山』を登っている。
誰かの力を借りず、……本当に二人だけで。
……二人で一緒に、お互いの力を合わせながら、くらい山の頂上を目指して、一生懸命になって、自分たちの小さな(あるいは、非力な)手と足を動かし続けていた。
優しい少年 雨世界 @amesekai
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