第2話 タイムカプセル

「ほらヒロ、早く行くよ」

「んあ〜、ちょ、待てよ。後10分!」

「それじゃあ電車に間に合わないでしょ!」

「走れば何とかなるって」

あたしはミキ。社会人2年目のOL・・って奴だ。(OL?昭和か?)

こいつはヒロ。中学からの腐れ縁で今は半同棲状態で暮らしてる。


何とか電車に駆け込み一息つけた。

「ったく!10年ぶりの同窓会なんだよ。

こんな時まで遅刻する気?」

「わり〜わり〜。

後少しでオルゴデミーラ倒せそうでさ」

「またゲーム?ホントいい加減にしなよ」

「てか、行くのやっぱやめにしね?

タイムカプセルとかなんかダリーじゃん」

「ここまで来て、んな訳いくか〜!」

タイムカプセル。この同窓会は中学卒業前に校庭に埋めたタイムカプセルを掘り出す日でもあるのだ。

「ヒロは何埋めたの?」

「えと、そりゃ秘密だよ。その、ミキは何埋めたんだよ!」

「あたし?あたしは未来のあたしへの手紙と・・秘密」

実は当時敬愛してたマイケルジャクソンのアルバムなのだ。マイケル死亡!あの頃は本気で後追いを考えてたほど好きだった。

(今でも大好きだけど❤️)


「だり〜〜、ねみーー。帰ろうぜ〜」

「じゃあもぉいい!

あたし一人で行くから帰ってポケモンでもドラクエでもやってりゃいいじゃん!」

「いや行くよ。一人はダメだ!」

なに、この態度。

こいつの名誉の為に言っておくけど普段はこんな奴じゃないからね。

そりゃめっちゃエリートコース進んでる訳じゃないけどそこそこ給料のいい会社入ってるし、まあ真面目な方なんじゃないかな?

優柔不断で肝心な事をちゃんと言わない癖があるけどね。


中学の同窓会。

卒業してからこうして集まるのは成人式以来かな?

みんなもう25。地味だったユキがモデルやってたり派手だったアスカが子供2人連れたママになってたり、野球部のエースだったアキラ君が・・あたま・・いやいい。

変わった娘、変わらない男子、いろいろだった。

あたし達は変わらない方かな?


「ミキ達は結婚とかしないの?」

「え〜、どうだろ?」

まだプロポーズなんかはされてない。

中学生からの腐れ縁で家も近所だったから親同士も顔見知り。両親への挨拶なんてのも関係無さそうだ。

てか!あたしまだ告白されてない!

いや、正確にはバレンタインに告白したのにその返事を貰ってないのだ!

つまりあたし達はまだ付き合っては無いのだ!

いやもちろんキスしたりそれ以上の・・無い訳じゃない。でもこいつは恋人じゃ無いのだ!いいのかそれで!


「じゃあそろそろタイムカプセル掘り出すよ〜」

担任のヒロコちゃんが集合をかけた。

ヒロコちゃん、当時20代だったからまだ40にはなって無いだろう。正直今のあたし達に溶け込んで生徒と見分けがつかない。肌もモチモチ、羨ましい。


衣装ケースほどの大きさの箱を掘り出し蓋を開けると中から懐かしい箱が出て来た。

みんなが思い思いの箱に思い出を詰め込み名前を書いて封印した。

ディズニーランド土産のクッキーの入った缶ケース。(これも当時の宝物だった)

そこに書かれたあたしの名前。

10年前のあたし、こんにちは。


箱を開ける。手紙とCDが一枚。

『10年後のあたしへ』

へへ、こっから先は秘密。約束はちゃんと守ってるよ。


ヒロの方を見た。

箱の中から何かを取り出し慌ててポケットに隠してた。

「見〜〜た〜〜ぞ〜〜。

なに隠した。大人しく白状しろい」

「なんでもねえよ!なんもなし!

はい解散!」

そうはいくもんか。

「みんな、やっておしまい!」

「あらほらさっさ〜」

なんでみんな昭和ノリ?


周りにいたユキとアキラ君がヒロを押さえつけた。

「へっへっへ。観念するんだな」

あたし悪モノ。

ポケットから取り出しのは可愛く包装された小さな箱。

箱には『ミキへ』と書かれてあった。

「へ?」

間抜けな声を出すあたし。

「やめろ〜!開けるな〜!」

あたしにはそれが『早く開けろ』に聞こえた。


中にはクッキー…だった物と小さな手紙。

「ありがとう。ミキの事一生大事にします。

付き合ってください」

と書かれてあった。


「え、これ」

観念したようにヒロが話し始める。

「ホワイトデーにこれを渡そうとこれを用意してたんだわ。

でもさ、なんかその、タイミングを逃して。

そんで、その」

「渡しそびれてそのままタイムカプセルに隠して、忘れてたと」

「うん、なんかその、渡した気になってた」

「で、今朝それを思い出して同窓会に行きたくなかったのね」

怒ったフリをしてたけど実はあんまり怒ってなかった。

ヒロはちゃんと返事を用意してくれてたんだ。ヒロの中ではちゃんと付き合ってたんだ。


「ヒロ、あたしまだあの時の告白の返事貰って無いんだよね」

「え?今お前が持ってるじゃん」

「でも貰ってないの!

これは奪い取った物でしょ!」

「えと・・・」

ヒロは何かを決心した顔になった。

「ミキ、返事が遅くなってゴメン。

俺、一生ミキを大事にするから。

俺と付き合ってくれ。

いや俺と一緒になってくれ。

俺とけっこんしてくらしゃい」

ぷっ、

最後の最後で噛むなんてヒロらしいや。

ひとしきり笑った後、あたしは泣きながら返事をした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ありがちな話 ノーバディ @bamboo_4

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る