第60話 満月の夜に。その2

あれからもう1年。

タマと出会ってから色々あったけれど、とても楽しかった。

最後はあんな形で別れてしまったけれど……。


思えば、最初から最後までタマにはお世話になりっぱなしだったな。

いきなり人間の言葉を話す猫が現れた時には、夢かと思ったし、私と同じ家に住み始めたのにも驚いた。

それに……その猫が見たことがないイケメンになった時には、どれほど驚いたことか。


それからタマの婚約者とか、まぁ色々登場したよね。

私まで猫になっちゃって、異世界にあるタマの生まれた国にまで行っちゃったよね。

そこが私とタマにとっては最後の……場所でもあった。



「はぁ……こんな綺麗な満月夜の晩は、淋しいよ……。タマ……元気かなぁ」


空に向かって呟いても、返事は来ない。

ただ夜風が私の体に向かって吹いてくるだけ。

それでも、私はもう一度……今度は月に向かって願いを言った。



「キャット……会いたいよぉ。また一緒に居たいよぉ……」


私を照らしてくれる月は優しい光を放ち、ただ黙って私の言葉を受け止めてくれたと思う。

そう思わないと、悲しさと淋しさで涙が溢れ出て、前が見えなくなりそうだった。



「おい、そこの人間。俺を飼わないか?」


「誰!?」


男の人の声が聞こえた気がしたのに、周囲を見ても誰もいない。

気のせいだったんだと思い、少し早足で家路へと歩き始めた。



「無視するなって」


「!?」


再びした声に驚き、歩みを止めたその時……私の方へ誰かが近寄ってきた。



「俺が見えるだろ?こんなイケメンな俺を見捨てて帰るなんて酷い女だな」


「え……」


さっきの男性の声が、まだ聞こえている。

この声は聞き覚えがある。

でも、彼の筈がない。

寝不足に残業疲れも加わって、とうとう幻聴まで聞こえてしまったみたい。



「美羽、俺を忘れたのか?」


「……え、幻聴に幻覚まで……私、彼に会えなくて病気になった??」


「そんなに恋しがってくれたなんて嬉しいよ。離れていて正解だったな」


彼はイタズラな笑みを浮かべると、私を引き寄せ、ぎゅっと抱き締めた。

この温もりは……夢でも幻覚でもなくて、現実だと教えてくれた。



「…………本物のキャットなのね?」


「あぁ、そうだよ。美羽、ただいま」


「おかえりなさい!」


私は再びキャットに会えた事で、嬉しさのあまり号泣してしまった。

抱き付いたままだったから、キャットの高そうな服まで涙で濡らしちゃったけれど……。



「美羽だから許すよ」


そう優しく微笑んでくれたキャット。

これが夢だとしても、幸せな夢を見ることが出来て心は晴れやかだった。


でも、それは夢ではなかった。



「美羽、いつまでこんな夜道にいるつもりだ?早く家に帰ってのんびりしたい」


「……せっかく幸せな気分に浸っているのに」



「幸せな気分なら、これからたっぷり味あわせてやるから。会えなかった分、覚悟しておけよ?」

「覚悟って……」



こんな道端で言わなくても……。

キャットってば、大胆な事をさらりと言うんだもん、頬が熱くなってきたじゃない。



「あぁ、それから……俺、力を使いすぎて猫に戻れなくなってさ、それで国を追い出されたから。だから、一生……美羽の側にいるからな」


「ええっ!?」



一生って……。



「俺もヨロシク」

「僕もね」

「俺も……ヨロシク」


「……貴方達いつの間にって、えぇ!?」



それから私と異世界から来た元猫のイケメンとその友達の猫三匹は、人間界で共に末長く幸せに暮らしましたとさ。


おしまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

満月の夜に。 碧木 蓮 @ren-aoki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ