第3章 ヤマドリと柴犬 第6話
ヤマドリの研究からは離れた職業ではあったが、現場でヤマドリを見る機会も多く、狩猟者として毎年の解禁日を楽しみにするようになっていた。
大学院を修了して勤務するようになった最初の猟期では、ヤマドリを撃ち落とすことよりも、その生態に関心が高かった。
狩猟に行く回数よりも、友人とスキーに行くことの方が多いくらいであったが、二年目の猟期に祖父と一緒に歩いた猟場で、一日に十七羽のヤマドリに出合い、すべてに発砲して一羽も撃ち落とせなかったという経験をした。
今考えても、顔が真っ赤になるほどの恥ずかしいほどの失中をきっかけに、射撃場に通って、射撃練習をするようになり、次第に猟欲が増してきたようであった。
射撃場では、同じ猟友会に所属する射撃指導員がまめに指導してくれたこともあり、わずか三か月の間に、八割の標的に命中させることができるまでに上達した。
その勢いにのって出場した猟友会の大会で思いもせず優勝してしまったことから、射撃熱がさらに高まり、より上位の大会にまで出場するようになっていった。
その後、県内各地の猟友会から選抜された選手が出場する大会でも優勝するまでになり、それと並行するようにヤマドリの猟果も上がっていった。
佳人の内に引き継がれていた狩猟のDNAは、射撃によって発現したと言っても間違いではないだろう。
猟犬は、暴れる獲物の動きを噛み止めしたときや獲物の生命が尽きる瞬間の筋肉の動きなどを経験することで、狩猟本能が掻き立てられる。
獲物を噛ませれば噛ませるほど良い犬になるといわれる所以でもある。人は、道具を使って獲物を捕獲したときに、その知恵や工夫に刺激を受ける。
飛翔する標的に散弾を命中させる技術にも同じ刺激が存在していて、達成感は何物にも代えがたいやる気スイッチとなって、狩猟のDNAを覚醒させるのだ。
母親に言われて取得した狩猟免許状と銃砲所持許可証であったが、命中させることの面白さを知ったことで、生涯の趣味として付き合っていく基礎が出来上がって行ったのだ。
その後十年間での狩猟者としての成長は、祖父からみても目覚ましいものであったろう。
ヤマドリの生態についての研究も基礎となっており、従来の鉄砲撃ちとはちょっと毛色の違う狩猟者となりつつあったことは、狩猟ガイドという仕事を通して出合ってきたどの狩猟者とも異なる存在となっていた。
佳人の狩猟経験における最大の出来事は、ヤマドリ猟に柴犬を使うようになったことだったと思っている。
狩猟をはじめて五年目の猟期に出合った狩猟者が、ヤマドリ猟に柴犬を使っていた。ヤマドリの研究で修士号を取得した佳人とは、いろいろな話をしたが、その中で彼が言った言葉は佳人も、ハッとさせられるものがあった。
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