第3章 ヤマドリと柴犬 第3話
そんな疑問も重なって、修士論文でのテーマは「ヤマドリ」としたのだ。
囲炉裏端での四方山話でも、狩猟者からは、ヤマドリに関する面白い話を聞いていた。
ヤマドリを獲るなら、暗いうちから沢に入らなければ獲れない。ヤマドリは、朝に寝屋から動き出し、沢で水を飲む。その後、餌を食べながら沢を登り、寝屋へと戻っていくという話だ。
もし、これが本当ならば、ヤマドリの調査をするには、早起きが必須だろう。でも、誰もそれを確認していない。それを確認するには、まずはヤマドリの行動調査をするため発信機を装着したテレメトリ調査が思い浮かぶ。
さっそく、海外の研究事例からヤマドリに装着する発信機を入手すべく情報収集を開始したが、そのような特殊な発信機など簡単に入手することはできない。結果、自作するしかないことがわかり、ここからは発信機の学習が必要だった。
幸いなことに、過去研究室でシカに装着する発信機の研究をした先輩の卒業論文があり、必要な部品を販売しているメーカーを把握することは、容易だった。
しかし、小型の鳥に装着する発信機を製作しようとするとひとつひとつの部品を検討する必要があり、重さもヤマドリの体重約1,500gの1%以内15g程度に抑えようとすると悩ましいことばかりであった。
なんとか発信の問題を解決したが、次の問題は発信機以上に悩ましいものだった。
発信機を装着する個体をどうやって捕まえるか。
考えてみれば、なかなか見つけることができないヤマドリである。これを鉄砲で撃って獲るのであれば祖父を頼れば済むことだ。しかし、今回は生体捕獲が絶対条件となる。
生きたまま、会うことすら難しいヤマドリを捕獲するには、どうしたらよいのだろう。相談できるのは、やはり祖父だった。
「じいちゃん、生きたヤマドリを捕まえる方法ってある」
「あぁ、ヤマドリじゃないけれど、昔の猟法で、わなで生け捕りにする方法はいくつかある」
「どんな方法」
「チングルマっていうわなは、子供の頃よく作ったな。ただ、ヤマドリとなると難しいな」
そう話すと、自宅の裏山から竹を切ってこいと佳人に行った。
佳人は、指示どおりの太さの竹を裏山から切り出すと、祖父のところへ持ち帰った。その間に、祖父はタコ糸やら必要な小物類を用意してくれていた。
僅かな時間で出来上がったわなは、確かに小鳥サイズのものであり、これをヤマドリに用いるのは少々荷が重いことが想像できた。
「さすがに、これではヤマドリは獲れないね」
「卵を採取する方法はあるが、それとても簡単じゃないな。他にも、昔は使っていたけれど今じゃ使えなくなった猟法はあるが、簡単に獲れるものじゃないのはいっしょだ。どうだ、養殖している人から貰い受けるか」
「えっ、ヤマドリ養殖している人がいるんだ」
「あぁ、キジの放鳥をしているのは佳人も知っているだろ。あれと同じで、数は少ないけれど、ヤマドリも放鳥しているので、養殖している人は何人か知っている」
「それはありがたい。さっそく、紹介して」
「わかった。明日にでも連絡しておこう」
さすが餅屋は餅屋である。
こんなにも簡単に最大の問題が解決するとは思わなかった佳人は、その週末に祖父と一緒にヤマドリの養殖をしている中山さんを訪ねた。
中山さんの家は、祖父の家から三十キロメートルほど離れた温泉のある町で、町の中心からは離れているが、山際に大きな鳥小屋を何棟か建てて、その中で数百羽のヤマドリを養殖している人だった。
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