みらい(最終話)

『それで、どうなったんです?』


『どうもしませんが?



 そもそもですねぇ、何の意味もないんですよ、だってそうでしょ、空気を吸わないで生きていけますか? 無理でしょう。それと同じなんですよ』



「そんな訳ないじゃない!!」

 カメラの前で思わず顔をしかめる。

 さけび声を上げた私に、ふんぞり返った専門家せんせいと、ニヤケた顔のMCTVの司会は、まぁそう声をあららげないでと、やけに落ち着いた声を出す。

「”あるんですよ。今やにゅるにょむは大気の一部、感じることさえ出来ない。ありふれた存在です“」

 専門家が知った風な口を利く。

「”その通りです。貴女だって、もうれている感覚なんて一切無いんでしょう? 実際は直接触れているのに“」

「そうよ! 無いわよ! 感覚なんて! でもそれが何なの!?

 私はそれでも”“のよ!!!」



 ここ数ヶ月。世界は変わった。



 ”にゅるにょむ“と言う存在は世界を飲みみ、

 例えば酸素や窒素ちっそはだで感じることが無いように。水の中で、水を通して視界の限度かぎりまで見わたせるように。

 ”にゅるにょむ“が、では、”それ“を認識する必要性が全く無くなったのだ。

 人間の体や、その知覚というものは”オゾマシイもの“で、すぐにその世界に適応した。



 じゃあ、”にゅるにょむ“はもう消えたのか?


 ちがう、そうじゃない。



 私達にはもう聞こえなくなっただけで、今だってにゅろにゅろと、気色悪い音を立てて、私達の側をい回っている。

 私達には感じられなくなっただけで、今もはえたかった犬のフンに触れたその体で、私達の肌を這い回っている。

 それがどうして気にならないのか、それがどうして平気なのか、私には全く理解が出来ない。



 みんなオカシイのよ。みんなオカシイのよ。


 ああ、でも、どうしたら良いのかしら?



 水道で手を洗ったって、その水には”にゅるにょむ“が混ざっている。

 その手がキレイにかわいたって、触れている空気には”にゅるにょむ“が混じっている。

 それをどうすれば良いのか、それにどうやってえれば良いのか、私には考えることが出来ない。



 みんなオカシイのよ! みんなオカシイのよ!!



 ふらついた足取りで、げるようにテレビ局から出ると、信号待ちの人に向けて作られた、巨大きょだいな野外ビジョンが目に止まった。



『結局、捕獲ほかく作戦も空振りでしたね』

『今思えば、雲をつかむより難しいよ』

『研究は続けられるんですか?』

『それなんですがぁ、私はもうあきらめようと思うのです。これから“かれら”を知る事に大した意味はない。

 人間には一切知覚できなくなった事で、“触れられる暗黒物質ダークマター”と呼べる可能性は無くなりましたから』

『博士の今後に期待します。



 では、次のニュースです』

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にゅるにょむ NPC(作家) @npcauthor

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