いつか(第3話)
「ごめん、わたし行けない」
「そうか、仕方ないな」
布団を
「
買い出しへ出かけようと準備を始めた男達に、えんびぃが飛びつく。人
結局、私を一人にしておけないという理由でキドちゃんが残る事になった。
「変なことすんなよ~?」「キドに限ってそれは無ぇっしょ」
去り際に
元気がある
今の私には、単に
部屋は人が減って静まり返り、キドちゃんが
キドちゃんはちょっとオタクっぽいけれど、まじめで可愛い所がある。それだけに、彼が私に好意を寄せていると聞いても、男性として意識する気には全く成れず、また彼も
しかし今は見る
私は
「いいかな」
耳まで被っていた布団から顔を出して
「ココア、作っていいかな」
「う、うん」
「台所借りるよ」
スティックタイプの
「ありがと」
お礼を言う私に少しだけ首を
何かを言うでもなく、黙ってただ傍に居るだけ、というのはキドちゃんらしい優しさだ。ぶっきらぼうの様で周りをよく見ている子なのかもしれないな、そう思うと、気を
「ねぇ、何見てるの」
私はいつもの明るさを取り
「あ、いゃ! これは!」
「なん、っでこんなの見てんのよもぅ」
何とか吐かずにすんだ。代わりに悪態を
「調べてたんだよ。“にゅるにょむ”ってほら、
確かに“にゅるにょむ”には謎が多くて、ネット上では
「生体とか色々。知っておけば、何かしら対処できるんじゃないかと思ってさ」
そもそも生物かどうかもハッキリはしてないんだけど。とキドちゃんはぶつぶつ言い始めた。
そうなのだろうか。
「何か分かるの」
「今の所は、
全く期待外れの返事に私は
「どうしてあんなに気持ち悪いんだかね」
気の利いた言葉が思いつかず、つい
「急に
鼻水みたいなモノで、
説明するとき急に
ああ、
吐き気を抑え、適当に
「そう言えば美千代さんも平気で吸いこんでたな」
「ああ、“にゅるにょむおばさん”でしょ?」
美千代さんの事だ。私の話を聞いたグループのみんなが、面白半分にそう呼び始めた。
「深呼吸で目を
「気づかないなら良いわよ? でもアレから毎日あんなの……ゔぇ」
「
キドちゃんが心配そうに顔を覗き込む。
元はと言えばテメェのせいで、いや、やめておこ。私はポリ袋を
美千代さんは最初こそ、何も知らずに“にゅるにょむ”を吸い込んでしまった事に
“にゅるにょむ”は最早、『テレビで見かける』と言う程度の存在では無くなっていた。
日常的に。なんなら都会ですら、人に出会うより簡単に見かけることが出来る“モノ”。身近なものと言えるほど
道に出て、たった数歩で出くわす、歩かなくたって出くわす。ウヨウヨしている。人なんかお構いなしに動き回る。それに素早い。
要するに、“ソレ”を
「ココア冷めるよ、飲んで」
頭を抱える私を落ち着かせようと、置きっぱなしになっていた私のコップを寄せてくれた。
そうだ、折角キドちゃんが入れてくれたココアを
私は握り締めていたポリ袋を
思えば、今日はずっと
口に寄せたココアの水面を見ながら、ぼーっとしている私の目の前ににゅろ……?
「嫌ぁぁあああ!!!」
ほんの
ココアの中から顔を出した“
投げたコップを片付けなくちゃ。
作ってくれたキドちゃんに謝らなくちゃ。
とにかく先ずは出ていって
もう嫌、もう嫌。
二人がコップから目を
男の子って力あるんだなぁ。
そんなに力があるなら私じゃなくて“
私は何も出来ない。ただ泣いた。
「落ち着いた?」
“にゅるにょむ”が通り過ぎた後、泣き止んでしばらく
「無理」
私はまともじゃない返事をする。キドちゃんは辛いのを察して優しい声で「ごめん」とだけ言った。
“にゅるにょむ”が部屋の中に入って来るのは初めてではなかった。それどころか、日を追う毎にその回数は増えている。その度に私はこうなる。
関係ないのだ。“にゅるにょむ”にとって人のテリトリーなど。“彼ら”は本当に神出鬼没で、
気にしないで済むならそれが一番だ。“美千代さん”みたいに。でも私は無理だな。考えるだけで“キモチワルイ”。
“あんなのを
しばらくすると、リッキー達が帰ってきた。
泣き
「そうか、大変だったな」
キドちゃんに何が起こったか聞いたリッキーが頭を
気を取り直すことは出来なかったが、その後は
私も少しだけ飲んだけど、チューハイ
ふと窓に目をやると、夜も
「はい、じゃあ解散な」
そう言うと、一人だけ
その背中で新井がshinjiに
当のえんびぃはつまらなそうにしている。新井を背負ったリッキーにスキンシップはしづらいのだろう。さっさと
「今日はありがとね、来てくれて。それから、ごめん」
私が申し訳なさそうに別れの
「きゃーぁあ゛ッ! 何アレ!!?」
えんびぃが、らしからぬ
私もリッキーに続いて
にゅろにゅろにゅろにゅろ……!
それは空を
厳密に言えば本当にそうかも分からない。あまりに多すぎて、月明かりを乱反射した光の束のようなものが、覆い被さる
「何だこれ」
“膜”は空をキラキラうぞうぞと、縦横に伸びていく。
目の前に起こっている事が絵空事過ぎて、最早気持ち悪いとも思えなかった。
――いや、それは違った。
あの“膜”は、空を
そもそも、遠くにあるから空に広がって行く膜だと思っていただけで、もう
私は
逃げ場なんて無かったじゃない。最初から。
その日、世界は“にゅるにょむ”に埋め尽くされた。
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